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馬場正博: 元IT屋で元ビジネスコンサルタント。今は「A Thinker(?)]というより横丁のご隠居さん。大手外資系のコンピューター会社で大規模システムの信頼性設計、技術戦略の策定、未来技術予測などを行う。転じたITソリューションの会社ではコンサルティング業務を中心に活動。コンサルティングで関係した業種、業務は多種多様。規模は零細から超大企業まで。進化論、宇宙論、心理学、IT、経営、歴史、経済と何でも語ります。

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危機管理
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キューバ危機のケネディー大統領

「危機管理」という言葉が最近よく聞かれます。経営者に自社の問題点を聞くと、戦略と危機管理の欠如があげられたりします。それでは危機管理とは何なのか、何をすべきなのかと聞くと答えは必ずしも一様ではありません。危機管理について少し考えてみましょう。

危機管理とリスクマネージメントは違う

危機管理とよく似た言葉でリスクマネージメントがあります。危機管理を英語に訳しただけのようにも思えますが、危機管理の英訳はクライシスマネージメント(crisis management)です。

リスクマネージメントとは将来起こる可能性のあるリスクを予想し対策を予め立てておくことです。もし、完全なリスクマネージメントというものがあれば、危機は発生しないか、発生しても整然と決められた手順で完結することができます。

リスクマネージメントで大切なことは、可能性のあるリスクをできるだけ網羅的に予想し、リスクの影響、確率、対策を見極めることです。リスクマネージメントでは客観的で分析的な能力が重要です。リスクマネージメントでリーダーのするべきことは、リスクを無視せずきちんと対応策をつくる組織文化と仕組を作ることです。

これに対し、危機管理はリスクと想定されたこと、あるいは想定もされなかった事態が発生したとき、どのように問題を解決するかということです。危機管理では分析的な態度だけでは状況に対応できません。リーダーは決断力とリーダーシップが要求されます。

管理上の手法やリーダー、マネージメントの資質という観点から考えると、危機管理とリスクマネージメントは正反対とは言わないまでも、非常に異なったものだということができます。

重大な事態だから危機管理が有効とは限らない

危機管理は、企業、国家などの組織の存亡に関わる重大事件に対処することだと言われています。しかし、重大な事態だからと言って必ず危機管理の対象にはなりません。

日本では1年で交通事故で7千人程度の人が亡くなっています。膨大な人的損失があるわけですが、だからと言って交通事故対策は国家としての危機管理の対象にはなっていません。これは交通事故では日本という国家が崩壊しないから、というわけではありません。

もし高速道路のトンネルで大火災が起きて、300人の犠牲者が発生するようなことが起きれば、これは危機管理の対象でしょう。7千人という数は大変大きな数なのですが、1日平均20人程度の交通事故の死者は、通常のプロセスで処理するものだということになっているのです。

地球温暖化も危機管理の対象ではありません。地球温暖化は最悪のシナリオだと人類文明全体が崩壊してしまう危険があるのですが、短期的に解決できるものではなく、長期的な視点と粘り強い努力によって対応すべきものです。危機管理に解決を求めるようなものではないのです。

危機管理は通常の意思決定プロセスが機能しない問題に対応すること

それでは危機管理とはどのようなときに必要になるのでしょうか。企業でも国家でも組織は、目的を達成するためは膨大な業務プロセスがあり、そこで無数の意思決定が行われています。危機管理が必要になるのは、既存の業務プロセスで行われる意思決定に任せることができない問題に対処しなければいけないときです。

1982年、アメリカのシカゴでジョンソン・エンド・ジョンソンの主力商品の一つの鎮痛剤タイレノールを服用した7人が青酸カリ中毒で死亡するという事件が発生しました。

ジョンソン・エンド・ジョンソンは直ちに3,100万個におよぶタイレノールを市場から回収し、タイレノールの広告宣伝も全て中止しました。この時点で、青酸カリがタイレノールのカプセルに混入されたのは確かでしたが、犯人はもちろん、どの程度の範囲でこのような犯罪行為が行われているかは全くわかりませんでした。

ジョンソン・エンド・ジョンソンの損害は直接の製品の処理だけで1億ドルに達しました。その後ジョンソン・エンド・ジョンソンはタイレノールのパッケージを一新し青酸カリの混入を行うことを事実上不可能にした上で、タイレノールの販売を再開しました。

タイレノールに青酸カリを混入した犯人はついに捕まりませんでしたが、タイレノールは市場の信頼を取り戻し、ジョンソン・エンド・ジョンソンの対応策は危機管理の模範的な事例として記憶されることになりました。

もし、ジョンソン・エンド・ジョンソンがタイレノールの回収、販売、流通の一切の停止という決断をトップダウンで行わなければ、どうなっていたでしょうか。タイレノールの生産、出荷、在庫管理などの業務は通常通り行われていたでしょう。個々の業務の担当者はそれが決められた仕事で、それ以外の個別に事件に対応することは不可能だったはずです。

ジョンソン・エンド・ジョンソンは全製品の回収を決定することで、通常の業務プロセスで行われる意思決定を停止し、すべての判断をトップダウンで行えるように業務プロセスを変えてしまったのです。

情報と権限を集中する

危機が発生したとき問題になるのは、そもそも一体何が起きたのかが、すぐにはわからないということです。たとえば工場で爆発事故があったような場合、爆発の規模、死者の有無、原因などの情報を混乱した状況で直ちに正確に得ることは難しい場合が多いでしょう。

何が起きたか全貌がわからないまま、既存の業務プロセスが勝手に動き出し、個別に意思決定や外部への情報提供を行うと、混乱に拍車がかかり、後々訴訟などで不利な立場追い込まれる危険もあります。

先ず必要なことは、既存の分散された意思決定と業務プロセスと情報を集中することです。これは通常の効率性の観点からは好ましいことではありません。場合により事業活動は事実上停止を余儀なくされるでしょう。逆に通常業務と意思決定を停止する必要がなければ、本当の意味で危機とは言えません。

優先順位を決める

危機が発生したときに行う意思決定は、迅速に、しかも限られた情報で行うしかありません。後から考えればもっと良い方法があったとわかるかもしれませんが、意思決定の遅れは、事態を一層致命的にしかねません。

そこで、何を優先させるべきかを、はっきりさせて迅速に意思決定を行うことが非常に重要になります。ところが、一般に通常の業務プロセスは、効率性や経済性の追求に重点を置いており、危機的な状況での判断基準としては妥当でないことが少なくありません。

ジョンソン・エンド・ジョンソンのタイレノール事件のとき、在庫の損失や、工場での品質管理の確かさなどを基準に判断を行えば、市場から全ての製品を引き上げるような決断には至らなかったでしょう。その場合は製品だけでなく企業の信用が大きく傷つく結果になったと想像されます。

1994年11月、インターネットでインテル社の主力MPUであるペンティアムで浮動小数点の演算で計算間違いをする可能性があるという情報が飛び交いました。当初インテル社は、計算間違いは極めてまれなケースだとして、「ユーザーが影響を被ると証明できたときのみ」MPUの交換に応じるとしました。

ところが、インテル社がI計算間違いは2万7千年に一回程度しか発生しないと発表したのに対し、IBMが24日に1回エラーを起こすような表計算の事例を明らかにするなど、ユーザー、業界全体がインテル社の総攻撃にでるような事態になってしまいました。

インテル社は翌月、全てのペンティアムチップの交換に無条件に応じると発表することで事態はようやく沈静化しました。実際に交換を申し込んだユーザーは少なく、交換自身の経済的損失は小さいものでしたが、インテル社はPCのMPU市場を事実上独占する立場にアグラをかいた傲慢な会社だという印象を与えてしまいました。企業の信用は大きく傷ついてしまったのです。

ユーザーが交換を要求した例が少なかったことから考えても、技術的にはインテル社の主張は正しかったと思われます。しかし、「影響を自分で証明できれば交換する」という態度が、社会的には受け入れられなかったのです。意思決定が普通の経済的、技術的判断に基づいていたので、独占企業として社会で高いレベルの責任を負わされていることに十分配慮ができなかったのです。

危ないのは企業のトップではなく、たとえば専務あたりが危機管理の総責任者になる場合です。トップでない人間はトップにしか許されない意思決定はできません。本当の意味で危機に対して正しい優先順位に従った意思決定ができない可能性があります。

さらに、情報の一元化の観点でも危険があります。危機管理の対策室に社長秘書から電話がかかり「状況を社長に教えて欲しい」と言われ、発表している事実を超えて情報が社長に伝わり、それを社長が勝手に記者しゃべるようなこともあり得ます。危機管理は基本的にトップだけが陣頭指揮に立てるものなのです。

キューバ危機

1962年10月22日、アメリカのケネディー大統領はテレビでキューバにソ連の核ミサイルが持ち込まれたことを発表しました。いわゆるキューバ危機です。1959年にキューバで社会主義革命を行ったカストロ政権はソ連と接近し、アメリカと目と鼻の先のキューバにソ連のミサイルを設置したのです。

テレビ放送の前、10月16日にキューバーでのミサイル設置をU-2型偵察機からの撮影により確信したケネディー大統領はエスコム(ESCOM: Executive Committee of National Security Council大統領国家安全保障会議)を組織し、危機管理体制を確立します。

国連でのU-2型偵察機による写真の公開、さらにU-2型のソ連軍の対空ミサイルによる撃墜など緊迫の度合いが高まる中、エスコムの軍首脳、CIA幹部の多くはキューバへの大規模な空爆ないし全面侵攻を支持しました。実はアメリカはキューバの核ミサイルは僅かしか設置されていないだろうと推察していたのです。

結果としてケネディー大統領が選択したのは、空爆でも全面侵攻でもない第3のオプションであった、キューバの海上封鎖とソ連船の臨検でした。そしてぎりぎりの交渉が続いた後、10月28日ソ連のフルシチョフ書記長はキューバからの核ミサイル引き揚げアメリカに通告し、キューバ危機は終結しました。

キューバ危機の真相は冷戦終結後明らかになりました。当時のアメリカの推察とは異なり、キューバにはすでに数十基の核ミサイルが設置済みだったのです。もし、全面侵攻や空爆が実施されれば、アメリカの大部分の都市は水爆により破壊しつくされていたでしょう。

ケネディーがなぜ軍首脳の進言にもかかわらず、選択肢の中でもっともおだやかな海上封鎖(ミサイルがすでに設置済みだったので、実際には意味がなかったのだが)を選択したかは定かではありません。

おそらくケネディーは直ちに軍事行動に移る前に、できるだけ段階を追った交渉を行いたいと思ったのでしょう。海上封鎖が効果があれば、少なくとも時間が相手を利するということはありません。

冷戦時代のアメリカは核戦争の脅しに屈し、ずるずる妥協を続けることは避けなければいけないという思いが強くありました。もし、強気で攻められて簡単に引き下がっては、アメリカが共産主義と戦い続ける意志がないとみなされることを恐れたのです。そうでなくても、単純な平和主義や弱気は外交で大きな失敗につながる可能性があります。

ケネディーは交渉を続けながら、全面戦争から逃げ出すようなことはしないという意志を見せる必要がありました。そのためには強硬派の軍の意見に従うことのほうが簡単だったかもしれませんが、ケネディーはそうしませんでした。

キューバ危機ではケネディーは賭けに勝ちました。それは実際にはケネディーがそのとき思った以上の価値ある勝利でした。今にして見れば、人類は破滅から免れることができたのです。

余談ですが・・右脳と左脳

最初に書いたように、リスクマネージメントでは分析的な能力が重要です。これは左脳が受け持つ領域です。危機管理は不十分な情報の中で全体的なバランスや直感で判断をする必要があり、これは主として右脳の領域です。

企業や官僚組織で出世する人は得てして左脳つまり分析思考に優れたタイプです。極めて左脳に偏った能力を持つ人がたまたま危機管理を行う状況になると、不十分な情報で果敢な意思決定を行うことができない可能性が高くなります。

誤解を受けそうなので、あまり深入りはしませんが、一般に男性は左脳の能力、女性は右能の能力が優れていると言われています。「いざとなると女のほうが落ち着いている」と言ったりしますが、脳生理学的には正しいのかもしれません。
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逆説的北朝鮮論 (3):南北融和は問題だらけ
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家を出て音信普通だった兄が20年ぶりに戻ってきました。兄思いの弟は、涙を流して兄の帰りを喜び、二人はしっかりと抱き合います。故郷でひとかどの成功を収めている弟は、身一つの兄の面倒を見ることを硬く約束します。

しかし、兄の面倒を見ることは簡単ではありませんでした。兄は家族を連れて戻ってきたのですが、まず住む所がありません。家を建ててなければ生活もできないのです。しかも、長い間放浪していた兄は、これといった手についた職もありません。できそうなのは、稼ぎの悪い単純作業くらいです。

おまけに兄の家族は、ろくな食べ物を食べていなかったらしく、皆痩せこけてなかば栄養失調です。子供は学校にも行かせてもらえなかったようで、満足な学力はありません。

兄思いの弟ですが、妻や子供たちは会ったこともなかった兄とその家族に多額の援助をすることに不満です。その一方で兄は弟が援助をするのは当たり前だと思っているらしく、礼を言うどころか、大威張りで食べ物や住むところを要求します。

間もなく、弟の子供が兄の子供をいじめるようになりました。きっかけは、兄の子供が弟の子供の自転車に勝手に乗ったということです。「お前の従兄弟なんだぞ」としかった弟に子供は言いました。「そんなの関係ないよ。どうしてあんな怠け者の連中のために、僕の新しい自転車をあきらめなきゃいけないんだよ」・・・・・・・
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去る10月2日、韓国の盧武鉉大統領は、韓国大統領としては初めて徒歩で南北の軍事境界線を徒歩で横断し、北朝鮮の金正日総書記との南北首脳会談に臨みました。首脳同士の会談の結果は共同宣言として示され、南北間の友好関係の推進と韓国からの経済協力が約束されました。

この経済協力の費用を朝鮮日報は50兆ウォン(約6兆3千億円)にのぼると報道しています。この額は日本と韓国のGDPの差を勘案すれば、日本政府が30兆円以上の援助を申し出たことに等しいものです。

北朝鮮と韓国が統合したとすると、そのために必要な費用は北朝鮮のインフラの整備など200-300兆円になると推定されています。ドイツは東ドイツの統合後100兆円近い費用を投じていますが、東西の格差は埋まりきっていません。北朝鮮の状況が東ドイツより一段と劣悪であることを考えれば、これはかなり妥当な推定でしょう。

ドイツの場合は東ドイツが崩壊して、西ドイツが東ドイツを吸収する形で統合が行われました。日本も沖縄や北海道には毎年多額の補助金を出しています。同じ国であれば、ある程度の負担は国民も受け入れますが、南北朝鮮は現時点は一つの国家ではありません。

第二次世界大戦の後、国家が統合された例は、極めて例外的です。ドイツの統合は東ドイツがソ連から見放されて、崩壊したことで実現しました。南ベトナムはアメリカに見捨てられ、北ベトナムに軍事的に制圧されました。香港は平和裏に中国に返還されましたが、中国は香港の200倍の人口があり、しかも一国二制度を認めた上での話です。

現時点では南北朝鮮の統合は北朝鮮が崩壊する以外に現実的なシナリオとしては考えられません。しかし、北朝鮮は容易に崩壊しないでしょう。北朝鮮が経済的に困窮しているのは間違いないでしょうが、飢えが蔓延することで、強力な独裁国家が崩壊した例はほとんどありません。

むしろ、北朝鮮の崩壊は中国、韓国、アメリカにとっては大変不都合な事態で、援助をしても完全に崩壊することは防ぎたいというのが本音でしょう。そうすると韓国は無数の大砲やミサイルで韓国に狙いを付けている国に莫大な援助を与えることになります。

これは、当初の南北融和で浮かれていた気持ちのままでは、韓国国民にとって受け入れるのが非常に困難なものだと言わざる得ません。貢物のように援助を当然のように受け取る、尊大な態度の独裁者の地位を保全するために、韓国国民は増税や不景気を我慢できるのでしょうか。

それでも、南北の経済交流が進めば、経済特区のようなところで、北朝鮮の安価な労働力を韓国企業が雇用するということは増えるでしょう。しかし、それを越えて北朝鮮国民が韓国に大量に移動することは考えられないでしょう。

東ドイツでさえ、西ドイツに国民が自由に移住できることを認めた瞬間に国家が崩壊しました。北朝鮮が体制の維持を目指すのなら、一定以上の韓国企業の北朝鮮国民の雇用を認めるはずがありません。

将来北朝鮮が崩壊して南北統合が実現されたらどうなるでしょうか。朝鮮は日本よりはるかに、出身地方による勢力争いの強いところで、政党も地方により支持、不支持がはっきりしています。おまけに、朝鮮は身分差別が厳しい文化を持っています。

北朝鮮の国民は韓国と統合されれば、深刻な差別に直面するでしょう。政府、企業の主要なポストは韓国出身者に独占され、能力のないゴクつぶしと軽蔑されるということになるのは確実なように思えます。

南北融和はなかなか進まないでしょう。おそらく韓国国民は次第に問題の難しさを認識し始めているところです。頼みの韓国が金を出し渋りだしたら、北朝鮮がどのような態度に出るかは想像するしかありません。しかし、韓国国民がそれほど心楽しい思いをすることは考えれません。何しろ相手は北朝鮮なのです。

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逆説的北朝鮮論(2):核兵器は脅威ではない
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核兵器(原子爆弾)が大都市で爆発すると、数十万人あるいはそれ以上の犠牲者が出ます。したがって、「脅威ではない」と言っても、万一ということを考えれば決して無視できるものではありません。

また、北朝鮮自身が核兵器を使用しなくても、他の国に輸出や技術移転をしたり、テロリストに手渡すことを想定すると、世界平和にとって重大な脅威であることは間違いありません。

とは言っても、北朝鮮にとっては核兵器が外交カードである以上、北朝鮮の核兵器がどの程度現実味をおびた脅威なのかの評価は必要でしょう。カードの強さはどの程度なのか、ブラフをかけているのだろうか。もし、今コールしたら勝てるのだろうか、考えておく意味はあります。

北朝鮮は2006年10月9日に核実験を行い成功したと発表しました。北朝鮮は核保有国になったことになります。北朝鮮の核兵器開発能力について高く評価する人たちは、北朝鮮はすでに実用段階の核兵器を開発し、1トン以下、つまりミサイル搭載可能なレベルにまで小型化にも成功していると考えています。

しかし、北朝鮮の核実験については、プルトニウム型原爆による核爆発であったことは認められても、爆発力は広島型原爆の10-20分の1程度と小規模で、爆発はしたものの、おそらく何らかの理由で目標に達しない失敗だったという意見が大勢です。

北朝鮮の核兵器がどのレベルまで実用化しているかは不明なのですが、少なくとも後1回、成功したと確信できる実験を行わなければ、安定的な兵器とは言えないというのが技術論としては妥当でしょう。

安定的に爆発すると確信が持てないものを、ミサイルに搭載できるほど小型化するというのはあまり現実的ではありません。つまり、北朝鮮がとりあえず、6カ国協議やアメリカとの交渉を続けるために、核実験を停止している限り、北朝鮮の核兵器は本当の意味でまだできあがっていないと高をくくってもよさそうです。

それでも、北朝鮮が何とか苦労して、核実験抜きで原子爆弾を安定性や小型化という意味で実用化したと仮定しましょう。北朝鮮はパキスタンに核実験を代理で行ってもらったという推察もあり、確かに他にも方法はあるかもしれません。

北朝鮮が日本やアメリカを核攻撃しようとすると、運搬手段はミサイルと考えるのが常識でしょう。北朝鮮は空軍、海軍とも日本やアメリカに対し核攻撃を行えるような能力を持っていません。ミサイルなら、日本はノドン、アメリカも西海岸であればテポドンで射程範囲にとらえることができます。

しかし、ノドンやテポドンは現代では旧式の液体燃料を用いるタイプです。液体燃料は安定性が低く、発射前に注入作業を行わなくてはならず、偵察衛星に容易に発射準備を察知できます。北朝鮮が核攻撃をいきなり行うとは考えにくいので(あの国にあまり安直な仮定をするのは危険ですが)、燃料注入準備にはいったところで攻撃することは可能です。

ただし、ノドンがスカッドミサイルのような常温保存可能な液体燃料を使用するように改良され、即応態勢が可能とする見方もあるので、これも安心しきるきのは不適当かもしれません。また、ノドンは移動能力を持っているので、偵察衛星で本当に燃料注入を察知できるのか、100%の確信は持てません。

そこで、日本はPAC-3とSM-3の導入により、ミサイル攻撃からの防衛システムの構築を始めました。PAC-3の前身のパトリオットミサイルは湾岸戦争で使用され、実はあまり役に立たなかったことが後から公表されたのですが、PAC-3とSM-3の組み合わせで98%のノドン撃墜はできると想定されています。

98%でも100%には足りないわけですから、まだ心配かもしれませんが、そもそも北朝鮮が相手に致命傷を与えることもできないのに、ノドンやテポドンで核攻撃を行うという理由があるでしょうか。

北朝鮮が大悪党国家であるとしても狂人国家ではないと仮定すると(ふたたび安直な仮定かもしれませんが)、核攻撃を行えば自分が核攻撃を受ける可能性が極めて高い、つまり指導部は死ぬしかないということは理解できるでしょう。

アメリカではなく日本だけ核攻撃した時に、アメリカが核で報復するかどうかは疑問の余地が大いにありますが、逆に日本を核攻撃しても気分的にはすっきりするかもしれませんが、軍事的にはあまり意味はありません。

北朝鮮の自意識から考えて、日本など相手にせず、アメリカと差しで勝負したいと思うはずで、日本を選択的に核攻撃する状況というのは非常に考えにくいものがあります(考えにくいというだけで、絶対にないとは言えないわけですが)。しかも、日本しか攻撃しなくても、アメリカの核で報復されないという保証などないのです。

結局、北朝鮮の核兵器は仮に兵器として存在しても、外交カードに使う以外は、攻撃された時に相手に甚大な被害を与えるという防衛目的でしか役に立ちそうもありません。北朝鮮は言葉は勇ましいのですが、能力的にも戦略的にも専守防衛的な国家です。

もちろん、北朝鮮が防衛の一環として韓国を攻撃すれば、38度線近くに配置された1万門の野砲でソウルは火の海になってしまうでしょう。韓国(と在韓アメリカ軍およびその家族)にとって北朝鮮は現実的な脅威そのものです。

北朝鮮が自分で直接アメリカを狙わなくてもテロリストに原子爆弾を渡して、アメリカあるいは日本の大都市を破壊するということはないでしょうか。このシナリオはアメリカのイラク攻撃を正当化するために使われたロジックと同じです。

北朝鮮に限らず、旧ソ連の核兵器や、パキスタンのようなイスラム国家にある核兵器がテロリストの手に渡ったたらというのは、確かに恐ろしい想像です。旧ソ連の開発した核兵器には車のトランクに十分収まるものもあり(砲弾に入れられるものもあるという話もある)、そんなものを使ってテロリストが攻撃したら防ぐことは非常に困難でしょう。

今のところ、この恐怖のシナリオは起きていません。楽観的すぎるかもしれませんが、今まで起きていないということは、テロリストが手に入れられるような、そして使用できるような核兵器は今のところ存在しないと断定してよいでしょう。

もしアルカイダようなテロ組織が使用可能な核兵器を手に入れたら、きっと使用するでしょう。どんな核兵器でも、911事件のように4機の飛行機をハイジャックしてビルに激突させるより、自分たちの犠牲も準備も少なくて済みます。持っていれば使わないはずがありません。幸いなことに核の漏洩防止努力は報われているようなのです。

もし、北朝鮮がアルカイダに核兵器を売り渡したらどうなるでしょう。アルカイダは必ず使うでしょう。確実に標的はワシントンかニューヨークのどちらかです。

今、アメリカは核兵器および核物質の出所を特定する研究に躍起になっています。核物質が生成される施設、組織は無数にあるので、完璧な識別能力を持つのは大変でしょう。しかし、北朝鮮の核兵器に関しては、昨年の核実験の際に微量な核廃棄物の採取にアメリカは成功しており、同じ原子炉から作られた核兵器なら、ほぼ北朝鮮製と断定できると思われます。

仮に北朝鮮製の原子爆弾がアルカイダによってニューヨークで爆発したらどうなるでしょうか。たぶんアメリカは核で北朝鮮を攻撃するでしょう。原子爆弾でなく水素爆弾を使う可能性すらあります。

北朝鮮が少なくとも金のためにテロリストに原子爆弾を売り渡すことは非常に考えにくいと思われます。核兵器はあくまでも北朝鮮にとって防衛のためのお守りのようなものなのです。

以上いろいろな角度から考えて、北朝鮮の核兵器は兵器としての存在自体疑わしく、使用しようとしても防ぐ方法もあり、使用した場合の被害は北朝鮮にとってあまりに大きいものがあります。論理的には北朝鮮の核兵器は脅威ではない。日本にとってはないのとあまり変わらないということになります。

とはいえ、すべては北朝鮮指導部が一定の理性を有しているというのが大前提です。北朝鮮が大悪人であることまでは許せても(許せませんが)、狂人であることだけは困るのです。しかし、お隣の国が徹底した閉鎖的な独裁国家である以上、この心配から逃れることはできません。独裁はやはり他国にも迷惑な政治システムなのです。(続く

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