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馬場正博: 元IT屋で元ビジネスコンサルタント。今は「A Thinker(?)]というより横丁のご隠居さん。大手外資系のコンピューター会社で大規模システムの信頼性設計、技術戦略の策定、未来技術予測などを行う。転じたITソリューションの会社ではコンサルティング業務を中心に活動。コンサルティングで関係した業種、業務は多種多様。規模は零細から超大企業まで。進化論、宇宙論、心理学、IT、経営、歴史、経済と何でも語ります。

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米ソの冷戦は緊張の極に達していた1954年の6月9日。 全世界に展開する双方の軍は臨戦態勢に入り、アメリカ各所の徴兵事務所では、勇敢な若者たちが志願兵になるために、朝から列をなしていました。その日の朝8時30分に、ラジオは突然どの局も一斉に同じ言葉を流しました。「それではスポンサーから一言」。そして、それに続いて別の声が放送されます。「戦え」。驚くべきことには、時差に合わせて、さらに放送される場所の言葉に合わせて、全世界で同じ内容の放送が次々と行われます。原因は分からず、放送を遮ることもできませんでした。

誰が世界中のラジオを電波を占領して「戦え」と言ったのか不明なまま、この謎の放送は厭戦気分を急速に高めました。徴兵事務所の若者の列は消え失せました。和平に向けての話し合いは、対立から妥協にと雰囲気を一変させます。「スポンサーからの一言」は世界大戦を回避させたのです。
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この話はもちろん事実ではありません。アメリカのSF作家のフレデリック・ブラウンが1951年9月にアメリカのSF雑誌Other Worlds of Science Fictionsに発表したSF短編「スポンサーから一言(A Word From Our Sponsor)」のストーリーです。

1951年は、朝鮮戦争が始まった翌年にあたります。朝鮮戦争では、アメリカは優勢な共産側に対抗するために、原子爆弾を使用することを真剣に検討しました。それがそのまま第三次世界大戦につながる危険は、かなりの現実味を帯びていました。フレデリック・ブラウンの書いたこの短編SFは、当時の冷戦を扱った沢山のSF小説の一つですが、冷戦が終わった現在でも、苦もなくラジオのネットワークを乗っ取った全能者というテーマは古びてはいません。

技術的にはラジオのネットワークを占拠するのは極めて困難です。たとえば非常に強力な電波を発生すれば、どの局に合わせても同じ放送を聴かせることは可能ですが、ラジオ電波すべてを打ち消すほどの電波を出すには、強力なエネルギー源が必要です。世界中のラジオ電波を全部打ち消すほどの電力となると見当もつかないほどですし、ましてあらゆる場所から発信するとなると、「技術的に可能」とはとても言えません。そんなことを実行するのは「全能の神」しかできそうもないでしょう。

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インターネットなら可能か

ラジオネットワークではなく、インターネット全部を乗っ取ってしまうようなことはできるでしょうか。インターネットに接続されている全てのコンピューター、PC、携帯電話に決まった時刻に一斉にメッセージを発信することは、不可能とまでは言えません。ただ、そのようなことを実行するには、あらゆるメールアドレスを集めることが必要です。

似たようなことは迷惑メールをばらまくSPAMメッセージがやっていますが、「漏れなく全部」となるとメールアドレスを登録しているサーバー全てに侵入することが必要です。これはこれで、とても簡単なこととは言えません。「できるできない」で言うと、「できない」と考えた方が良いでしょう。

現在の暗号化技術の中核は、大きな数の素因数の分解は簡単にはできないという前提に立っています。素因数分解とは、たとえば35という数を57という二つの素数に分解することですが、桁数が大きくなると世界中のコンピューターを集めても、何万年も何億年もかかるほど、大量の計算をする必要があります。

つまり今の技術では暗号は簡単に解くことができませんし、そのお陰でコンピューターのデータの安全は保たれています。しかし、量子コンピューターとよばれる、大量の計算を同時並行的に実行するコンピューターが実現できれば、そのような暗号も一瞬で解読できてしまいます。逆に言うと、量子コンピューターのような技術ができない限り、すべてのコンピューターに簡単に侵入することは事実上不可能です。

ただ、存在していない技術を実現することは、神の領域とまでは言えません。SF作家のアーサー・C・クラークは「十分に発達した技術は魔法と区別がつかない」と言いましたが、進んだ技術は魔法そのものではありません。もし、世界のどこかで量子コンピューターをこっそり作ってしまった人がいれば、その人にとって暗号はないのも同じになります。

もし、ある日一斉に全てのインターネットに接続されているコンピューターにメールが届いたらそれこそ、「自分は量子コンピューターを持っているぞ、全ての暗号は解読できるぞ」と言われているのと同じことになります。これはこれで不気味この上ないことです。

インターネットは神になるのか

フレデリック・ブラウンの短編SFは、「戦え」と言って、結果的に第三次世界大戦を中止させた存在を神に色濃く重ねています。神かどうかは別としても、インターネット全体を占拠し操れるのなら、それは神に近い力を持ったと言えるでしょう。いや、インターネット全体が一つの「意志」のようなものを持って自律的に動くようになれば、それは神かどうかは別としても、一つの生命体と考えることができるかもしれません。

「生命体」の定義に明確なものはありません。同様に意志の定義にも明確なものはありません。しかし、インターネットが全体として個々のコンピューターをはるかに超えた物になってきたことは事実です。人間の脳は数千億のシナプスと呼ばれる要素からできていますが、脳全体の働きは個々のシナプスを見てもわかりませんし、単なるシナプスの集合体でもありません。

昔コンピューターができたころ、コンピューターが人間支配する時代が来ると考えた人は沢山いました。もちろん、コンピューターは現在のレベルでも人間の「知能」と呼ばれるようなものはもっていません(詳しくはチューリングテストを参照)。

しかし、インターネット全体となると話は違ってきます。少なくともインターネットは、コンピューターのように「人類に逆らったらプラグを抜いてやればいいのさ」というわけにはいきません。インターネットは膨大な数のコンピューターとネットワークから構成されていて、決して停止することなどないのです。

今インターネットは、膨大な数の「ロボット」と呼ばれプログラムが自動的に情報を集めまわっています。株の取り引き、受発注と在庫補充、レーダー監視様々な作業は自動化され、人間を介在させずにいわば自律的に常に稼働しています。

インターネットを本当の意味で「設計」した人は誰もいません。インターネットは何か明確な設計目標に向かっているのではなく、自律的に成長し、進化を続けています。インターネットに取り込まれた情報は、あるものは次から次へと伝播し、予想もつかない反応を引き起こします。これはシナプスが「発火」によってシナプスの連鎖で情報を処理していくのと、似ていないこともありません。

今や、インターネットはコンピューターだけでなく、携帯電話やPCを通じて、全ての人類を構成部品にしようとしています。デジタル家電というのは、もはや新しい言葉ではありませんが、そう遠くない将来に、全ての電化製品、自動販売機、TVモニターがインターネットに結びつけられるでしょう。

このままインターネットが進化を続ければどうなるのでしょうか。たとえば、人類の危機、つまりインターネット自身の危機をインターネットが察知したとき、インターネットはそれを防ごうとアクションを「自律的」に起こすかもしれません。その時、インターネットは何をするでしょうか。ある朝、あなたの携帯電話にメールが届き、その件名が「スポンサーから一言」になっているのでしょうか。
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インターネット接続のモデル

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