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馬場正博: 元IT屋で元ビジネスコンサルタント。今は「A Thinker(?)]というより横丁のご隠居さん。大手外資系のコンピューター会社で大規模システムの信頼性設計、技術戦略の策定、未来技術予測などを行う。転じたITソリューションの会社ではコンサルティング業務を中心に活動。コンサルティングで関係した業種、業務は多種多様。規模は零細から超大企業まで。進化論、宇宙論、心理学、IT、経営、歴史、経済と何でも語ります。

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サントリーをキリンに売却する創業者一族
結局サントリーの創業者一族はサントリーをキリンに売ってしまうことはできなかったようです(サントリーとキリンの合併交渉が決裂


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食品業界はM&Aが有効だが・・・

サントリーとキリンが統合に向けて話し合いを進めています。世間的にもこの合併計画のニュースは大きな驚きでした。消費者市場を相手にする食品業界は、規模に比べて知名度が高いのですが、キリンは2兆3千億円、サントリーは一兆5千億円という大きな売上高で、知らない人は誰もいません。

しかも、不況の中で食品業界は原材料費の低下もあって業績は好調です。サントリーもキリンも昨年度は黒字で、追いつめれてというより、グローバルに展開するための規模を確保しようという戦略的で前向きな合併と考えられます。

食品業界はM&Aが成功する確率が高いと言われている業界です。それは食品業界では製造技術や研究開発の能力よりブランドが一番重要な競争力、コアコンピーテンシーだからです。つまり、合併で人材が散逸しても企業価値には大きな変化がなく、ブランド価値が維持できれば合併は成功するからです。

食品業界のM&Aは、重複するブランドや製造設備、販売チャネルの大胆な整理を行って合併効果を出すことが容易にできます。他の業界であれば、大規模なリストラはキーとなる人材を失う危険があり、必ずしも簡単ではありません。

アメリカでは80年代食品業界と、同様にくブランド価値が一番のコアコンピーテンシーである洗剤、化粧品などの日雑用品の業界でM&Aが積極的に進められました。この動きは90年代から国際的なものとなり、食品業界は巨大なグローバルプレーヤーが活躍する場になってきました。サントリーとキリンの売上高を合計すると3兆8千億円に達しますが、国際的な食品大手のユニリバーは5兆円、ネスレは10兆円の売り上げ規模を持っています。

しかし、食品業界がM&Aに向いているというのは、企業価値を損なわずにリストラを簡単に行えるからです。もともと、サントリーは非上場企業で家族的、キリンは三菱グループの中核企業として官僚的な体質を持つ会社です。社風は正反対と言ってよく、あえて共通点を探すと今時リストラとはほとんど無縁だということくらいです。ある意味これほど合併に不適な組み合わせはないと思われます。

強みを失ったサントリー

それでは、なぜサントリーとキリンは合併に向かうことになったのでしょうか。本当のところはなかなかわからないのですが、今回の合併話は適当な合併先を探していたサントリーが一番の合併候補として、たまたま社長が慶応で同期どうしだったキリンに持ちかけたと言われています。

キリンは、90年代に入って樋口社長のもと積極経営を進めたアサヒが、アサヒドライでビールNo.1の地位を奪うまで、圧倒的なビール業界の巨人でした。一時キリンのビールの市場占有率は60%に迫り、独禁法で分割される恐れまで言われたほどです。現在でもアサヒに首位を譲ったとは言っても、その差はわずかで40%近い市場占有率を持っています。

これに対し、サントリーはウィスキーでキリンのビールのシェア以上に高い80%の市場占有率を持っていました。独占に近い状態で、ウィスキー事業での膨大な利益は、ビール事業に進出する原資となりました。サントリーのビール部門は昨年初めて黒字化したのですが、それまでには参入以来、実に45年が経過していました。非上場企業ならではの長期的な観点での事業展開と言えるでしょう。

ところがサントリーの強みであるウィスキー事業は急速に収縮しています。ウィスキーとブランデーを合わせた消費量は、ピークの1983年には3万6千キロリットルだったものが、現在では4分の1の9千キロリットルになっています。

その上、1989年、97年には酒税法が改正され、スコッチウィスキーが安価に販売されるようになりました。昔ジョニーウォーカーの黒ラベル、通称ジョニ黒はサントリーオールドの5倍以上したのが、今では値段はほとんど変わらなくなってしまいました。本家のスコッチウィスキーがここまで安くなってはサントリーも大変です。

収益の柱だったウィスキーの需要が大きく落ち込む中、スコッチとの厳しい競争を強いられているサントリーの将来は難しいものがあります。何とか黒字化したとは言っても、ビールはアサヒ、キリンの3分の1のシェアしかありません。国際的なM&Aが進展していることを考えると、どのような事業展開で今後の展望を開くかは、サントリーの経営陣にとって大きな課題だったはずです。

合併は実質的にキリン主導か

名門ではあるが収益源のエースのウィスキーが先細りで、やっと黒字化したビールもアサヒとキリンの背中はとても見えない。人口が減少に向かい、食品の消費量は減る一方。国際的な食品業界のM&Aは加速化し、日本企業は大手といえども安閑としてはいられない。サントリーにとって合併戦略は生き残りのために当然のものだったのでしょう。

それでも、相手がキリンだったのはなぜなのでしょうか。主導権を握るのであれば、サッポロや企業規模ではキリンに劣るアサヒという選択はなかったのでしょうか。考えられるのは、サントリーが鳥居、佐治という創業者による経営が続いてきたことがあります。

サラリーマン経営者であれば、吸収合併されるということは実質的に全てを失うということです。新しい会社の経営権を持つことができなければ、会社を去っていくしかありません。去ってしまえば、元いた会社とは赤の他人です。

しかし、創業者は違います。創業家一族はサントリーの9割近くの株式を握っていますが、キリンとの合併比率がどのようになるにしろ、巨額の富を持ち続けることに変わりはありません。むしろ合併するなら、合併効果が大きい方が投資先として優れていることになります。

サントリーの佐治社長は将来にわたって、創業者一族がサントリーを支配し続けることはもはや困難だと思っているのでしょう。同じ関西の名門企業、武田薬品も創業者一族は経営陣からいなくなりました。経営権は失うが財産は競争力のある食品世界企業を作ることによって守ることができる。サントリーを売るなら一番高く売れるところ、それがキリンだったのでしょう。

サントリーの佐治社長の気持ちが、サントリーという企業をキリンに売ってしまうことにあるのなら、合併後の事業再編はキリン主導で進むでしょう。サントリー社員にとってはつらい道かもしれませんが、創業者一族の佐治社長(合併でどのような立場になるかわかりませんが)であれば混乱を最小限に抑えることができるかもしれません。混乱が小さければ、大きな合併効果を素早く手にすることも可能です。

サントリーがなくなったら

ここまでは私の想像にすぎませんが、もし私の想像が当たっていれば、合併後サントリーの色は急速に薄まっていくはずです。ビールは高級ブランドのスーパープレミアムモルツしか残らないかもしれません。ウィスキーはサントリー主体で再編が行われるでしょうが、今後とも市場の縮小でブランドの整理は進むでしょう。

商品もさることながら、サントリーは美術館、音楽ホールを持ち、文化事業の支援をさまざまに展開しています。モルツ球団で往年のプロ野球選手の活躍をまた見られることにしたのも大きな功績です。開高健、山口瞳、柳原良平を生んだユニークな広告も文化と言って良いと思います。そんな文化もこれからの存続は微妙なものがあります。

高度成長のころ、ウィスキーこそサラリーマンのアルコール飲料の中心でした。スナックやバーではヒラはトリス、係長になったらサントリーホワイト、課長は角、部長はオールドとウィスキーのグレードを上げるのが出世の象徴でした。スコッチは役員やお得意への進物用でした。

酒税の改定とウィスキー離れで、そんなウィスキーのハイアラキーが無意味になった時、サントリーは企業の使命を終えていたのかもしれません。それでも「やってみなはれ」の精神は優れた商品力で飲料業界で一定の地位を確保してきましたが、食品業界の変化はサントリーに大きな変革を迫っているのです。

サントリーとキリンの合併はサントリーの創業者一族が会社をキリンに売って、自分たちの財産を守るためのものかもしれません。しかし、同時にそれはサントリー自身を生き残らせるものになるはずです。創業者一族だからこそできる合併戦略と言ってよいでしょう。
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イチローよもっと三振を
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出塁率はイチローの弱点?

アメリカの大リーグのオールスターが始まります。イチローは今年で9年連続オールスターに選ばれ、先発メンバーとして出場します。オールスターの後、後半戦が始まりますが、イチローが今年も200安打を打ち、8年連続200本ヒットの大リーグの記録を塗り替えるかが大きな注目点です。

オールスターまででイチローは128本のヒットを放ち、200本安打までは後72本です。イチローの所属チームのマリナーズは74試合を残していますから、1試合1本ヒットを打てば記録は達成されます。先頭打者を務めるイチローは打席が多く、1試合1本は打率2割3分に相当します。新記録達成は大きな怪我でもしない限り、間違いのないところです。

新記録と並んでもう一つ注目されるのは、イチローが首位打者を取れるかということです。オールスターまでのイチローの打率は3割6分2厘と高打率なのですが、怪我でスタートの遅れたミネソタ・ツインズのジョー・マウアーが、規定打席に到達して3割7分3厘で首位となり、イチローは2位となっています。

もっともマウアーは復帰後4割を超える打率で打ちまくっていたのが、この30日は3割1分6厘と少しペースを落としています。大リーグは強打者が多くイチローといえども首位打者になったのは8シーズンで2回だけですが、今年のイチローは絶好調で首位打者獲得は大いに期待できます。

そんなイチローですが、出塁率が打率と比べて低すぎるという批判があります。出塁率というのは、文字通り打席に立った回数に対し、どのくらい塁に出るかということです。打率では四死球やエラーでの出塁は分母からも分子からも除外されますが、出塁率は全て計算に入ります。

現時点(2007・7・14)でのイチローの出塁率は3割9分3厘ですが、これは打率上位50人中37位です。イチローは打率が高いので、出塁率を打率を割ると1.085倍程度になってしまいます。この1.085という数字は打率上位50人の打者の中で48番目です。イチローと首位打者を争うマウアーは1.196で24位、50人の平均は1.213となっています。

打率も大切ですが、本来野球は塁にどれでだけ出るかが勝負です。抜群の安打製造機のイチローですが、アメリカでチームに対する貢献よりも個人記録にばかり執着しているのではないかという陰口が聞こえてくるのは、全く根拠がないとばかりも言えません。

なぜ出塁率が低いのか

イチローの出塁率が打率と比べて相対的に低いのは、四球が少ないことに理由があります。イチローの今シーズンの四球の数は17個ですが、これは50人中の45番目です。四球の数の1位はプーホールズの71個、2位はフィールダーの67個ですが、マウアーも35個を稼いでいます。イチローが大リーグの平均並みの1.2程度の出塁率と打率の割合を達成するためには、少なくとも30個程度の四球を選ぶことが必要な計算になります。

四球の数は一般的には強打者が多くなります。四球数の1位と2位のプーホールズ、フィールダーはホームラン数も現在1位と6位で、32本、22本を放っています。ホームラン打者は敬遠四球が多くなりますが、プーホールズは71個の四球のうち32個が敬遠です。ただ、意外なのはイチローも11個の敬遠四球があり、敬遠四球の数では4位につけています。ホームラン打者ではないイチローを敬遠するというのは、ヒットを打つ技術を相手が非常に恐れている証拠です。

ともかく、イチローの四球は敬遠を除くとたった6個しかないことになります。イチローは四球を粘り強く選ぶくらいなら、どんどん打っていくのです。どんどん打つので四球だけでなく三振も少なくなります。イチローの三振は32個で、打率上位50人中の40番目です。この三振の少なさは、イチローの選球眼の良さもあるでしょうが、四球の少なさを考えるとどんどん打ってしまうことが三振の少なさにつながっていると考えた方がよいでしょう。

つまりイチローにとっては出塁率どころか、打率さえ必ずしも重要ではなく、ヒットを沢山打つことに全てを集中していると想像されます。イチローが1番にこだわるのは打席数が多く稼げるからでしょうし、ヒットが打てなければ四球を選んでも塁に出ようというこだわりはないのです。

最強打者の指標OPS

出塁率の大切さは単に塁に出て得点の機会を増やすということだけではありません。出塁率を高くするためには、敬遠ばかりされる強打者でない限り、粘り強く四球を選んでいく必要があります。打者が粘り強く打球を選ぶと、ピッチャーは投球数が多くなります。ピッチャーの投球数の管理を厳格に行う大リーグではこれは非常に意味のあることです。粘ることで球数を増やせば、ホームランやヒットを打たなくても、ピッチャーを引きづり下ろすことができる可能性があるからです。

三振は大振りするホームランバッターにつきものと言われますが、粘って四球を選ぼうとすると見逃し三振を取られる可能性も高くなり、やはり増えてしまいます。けれども、イチローほどの打撃術があれば、ストライクとボールの区別がつきにくい臭い球は、ことごとくファールにすることもそれほど難しくはないでしょう。もしイチローがヒット数へのこだわりを捨てて出塁率にこだわるようになれば、たちまち出塁率トップ争いに加わることができるでしょう。

もっとも「出塁率争い」と書きましたが、出塁率は記録としてはほとんど注目されません。打撃3部門と言えば、大リーグも日本のプロ野球も、打率、ホームラン、打点です。出塁率はタイトルとして意味はありません。

しかし、打者の能力を評価しようとすると、打率よりはむしろ出塁率、ホームラン数よりは長打率(出塁数を打数で割ったもの。10打数で本塁打1本、2塁打1本、単打1本は、そう出塁数は4+2+1=7で長打率は7割になる)が真の実力を評価しているというのが最近の考え方です。打点は本人の能力だけでなく、他の打者や打順の影響が大きいので、評価指標としては、必ずしも適切ではありません。

アメリカでは出塁率(On Base%)と長打率(Slugging%)を足したOPS(O Plus S)という指標が打者の能力を測定するもっともすぐれた指標であると言われてきています。OPSの数値がキャリアを通して1を超えたバッターは大リーグ史上8人しかいません(ただし記録は5,000打席以上が条件)。1位はベーブ・ルース(バンビーノの呪い)の1.159です。ルースはホームラン記録で有名ですが、生涯打率も3割4分2厘でイチロークラスです。1.159というOPSは出塁率4割6分9厘、長打率6割9分で達成されています。

OPSの記録は日本のプロ野球では、(少なくともマスコミ報道では)全く無視されています。そもそも、出塁率や長打率もほとんど気にとめられることもありません。それに出塁率と長打率を足すというのも、それが実体的な意味があるのか(たとえば出塁率x長打率ではいけないのか)も今一つ不明確です。今さら打者の真価はOPSで決まると言われても納得する人は少ないかもしれません。

ちなみに大リーグの記録ではイチローのOPSは通算で0.811ですが、松井秀樹は0.851です。最近影が薄い松井ですがOPSで見ると、そこそこやっていることがわかります。今年も松井のOPSは0.884でイチローの0.873を上回っています。打率は低くても、日本に戻れば相当威圧感のある打者でいることはできそうです。

もっと三振を

イチローが大打者であることは何の疑いもありません。シーズン262安打の大リーグ記録、大リーグになっていきなりの首位打者とMVP獲得、守備も8年連続のゴールデングラブ賞。今年9年連続のシーズン200本安打を達成しようとしまいと、野球殿堂入りは確実です。

しかし、イチローほどの打者であれば、個人記録だけでなく、チームに貢献する度合の高い出塁率にもっとこだわってくれれば、相手のチームにとって本当にいやな選手になることは確実です(今だって相当いやな存在でしょうが)。

野球はどんなバッターでも平均すれば3回に1回くらいしかヒットを打てませんし、1週間くらい見ていて、良く打つバッターが打たないバッターより優れた選手だというわけにもいきません。打者の良し悪しはシーズンあるいはキャリアを通じて、統計的にしか決めることはできないのです。その中でイチローがヒット数という確実な統計データにこだわるのは、プロとして当然でしょう。

とは言っても、イチローのような天才バッターが持てる能力の全てをヒットを打つことだけに注ぎ込んでいるのは、いささか残念な気がします。出塁率にこだわれば、四球も増えますが、三振も増えます。イチローの三振がもっと増えれば、それはイチローが個人記録だけにはこだわらなくなってきた証拠かもしれません。

ハイジャック撃退装置の作り方
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厳しいセキュリティーチェック

空港でうんざりさせられるのは、セキュリティーチェックの長い行列です。特にアメリカは911テロ以来格段にチェックが厳重になり、うっかりすると搭乗便に乗り損ないかねません。今では靴まで脱がねばならなくなり、そのうち全裸でボディーチャックをさせられるようになるというも、あながち冗談とばかりも言えないような状況です。

しかも、持ち込み禁止になる荷物の種類はますます増えています。液体は化粧品、シャンプーの類も含め、一つ100mlまで、合計して1リットルの袋にはいるだけ。リチウム電池は機器に装着しているものはよいが、予備は2個までと細かく決められていて、とても覚えきれるものではありません。

案外なのは喫煙用のライターやマッチは、預け入れ荷物には入れられないのに、機内には1個は持ち込めることです。これは煙草メーカーがアメリカで、売上維持のための強いロビー活動を行った結果です。

煙草メーカーの頑張りで、乾燥して可燃物だらけの旅客機の中に、火をつける道具を堂々と持ち込めることになっているのはどうかと思うのですが、原則は危険物は何も持ち込ませないという姿勢には間違いありません。

ところが、旅行客に多大な時間を強いて行っているセキュリティーチェックは完璧には程遠いというのが現状です。多少旧聞に属しますが、911テロの翌年、2002年にアメリカ政府が行った覆面テストでは、主要32空港で24%は武器(ただし玩具)をセキュリティーチェックを通過させることができました。特にロサンジェルス空港、ラスベガス空港はそれぞれ40%、50%通過率でした。2回に1回は見逃してしまったわけです。

これとは別にアメリカ運輸省の行った覆面テストでは、銃器の30%、ナイフは70%、爆発物も60%が見逃されてセキュリティーチェックを通過しています。これでは何のために長い時間行列に並ばされるかわからなくなってしまいます。

指摘されたことの一つにセキュリティーチャックを行う職員が時給6-7ドルとマクドナルドの店員並みの給料だということです。マクドナルドの従業員が不真面目だということはないのですが、殺気立った乗客を相手に、X線画像を見続けながら確実に危険物を見つけ出すというのは、それほど簡単な仕事ではありません。セキュリティーチェックがハイジャック防止の最後の砦だと考えると、かなり不安が残ります。

もっとも、仮に半分でも凶器の類を発見できるのであれば、組織的なテロ集団がハイジャックを行うことの相当な抑止力にはなるでしょう。少なくとも正面切って武器を機内に持ち込もうとはしないはずです。

しかし、個人的な、もっと言うと頭のいかれた人間が正々堂々(?)武器を持ち込む場合、すべては防ぎきれないだろうというのは事実です。ただ、頭がいかれていても、ハイジャックを行おうという人間は、意外なほど緻密に犯罪計画を立てることも多いので、そのような連中を防止することはできます。

現在の厳しいセキュリティーチェックは、それなりの効果があることは期待できますが、膨大な設備や人件費は大きな負担です。911テロ後、アメリカでは緊急に空港のセキュリティーチェックのレベルを高くするために、250億円が必要とされました。

その後継続的に発生する運営費、さらに旅行客の時間ロスを考えると、ハイジャック防止のコストはほとんど天文学的です。テロリスト達の目的が西欧文明社会に損害を与えることだとすると、それはかなり達成されたことになるかもしれません。

それでもハイジャックは起こるかもしれない

そこまで犠牲をはらっても、ハイジャックが完全に防げるかと言うと、誰も確信は持てないでしょう。セキュリティーチェックで完全に危険物を発見できない以上、個人的で無茶な犯罪者が武器や爆発物を持ち込む可能性は否定できません。

組織的なテロ集団はセキュリティチェックの正面突破をはかることはしないかもしれませんが、空港関係者を買収したり脅迫したりして、セキュリティーチェック後に武器を入手することはあり得るでしょう。

問題はハイジャック防止はすべての空港が同じように厳しく実施しなければ、効果が著しく低下してしまうということです。航路によってはバスのようにいくつもの空港を経由して目的地に到達するものがありますが、トランジットで乗り入れる空港の中で、従業員管理やセキュリティーチェックがいい加減がところが一つでもあれば、武器の持ち込みはできてしまいます。

危険物も液体は何でもかんでも100ml越えてはダメとされていますが、化学に詳しければ機内で致命的な損害を与えるような爆発物や毒物を作ることは可能でしょう(そんなレシピがネットで広まったりしないことを祈りますが)。

セキュリティーチェックも、身につけているものは金属探知機が頼りですから、硬質プラスチックでナイフを作れば通過できてしまいます。その程度の武器でも、軍事訓練を受けた人間が数人いれば、機内を制圧するには十分でしょう。

911テロでも、ハイジャックに参加せずに逮捕された、アルカイダのメンバーの何人かは「筋力」でハイジャックを行うように訓練されていました。ハイジャックされた3機の飛行機のうちユナイテッド93のハイジャック犯人はナイフを持っていたことが確認できていますが、他の飛行機については不明で、素手で乗っ取ってしまった可能性もあります。

ハイジャック撃退装置

アメリカやイスラエルではスカイマーシャルと称する、武装した当局係官を乗務させています。日本でもスカイマーシャルの制度はあり、アメリカ行きの便に配備されることはあるようです。どのような装備で何人くらい乗務するかは非公開ですが、実際には全ての便ではなく、一部にとどまっているようです。スカイマーシャルが配備されている場合は、パイロットはコックピットに立て篭もり、ハイジャック犯への対応はスカイマーシャルに任せることになっています。

しかしスカイマーシャルがいても、ハイジャック犯がスカイマーシャルの手に余るような人数である可能性もあります。また、日本の対応がそうであるように全ての便にスカイマーシャルを乗務させることは費用や体制の面で、それほど簡単なことではありません。スカイマーシャルの存在が伏せられていることで、組織的なハイジャック犯に対し一定の威圧効果を期待するというのが現実的なところでしょう。

もっとスマートに、ハイジャック犯を睡眠ガスで眠らせてしまうようなことはできないでしょうか。飛行機は密封されていますし、緊急時に酸素マスクで酸素を供給するように配管ができています。パイロットも眠ってしまうと困りますが、操縦席の換気を別系統にするとか、パイロットがマスクを着用すれば解決できそうです。

手術の際、麻酔で良く用いられるものに亜酸化窒素または笑気ガスと呼ばれるものがあります。ありふれたもので、安全性も高いのですが、眠らそうとすると、少なくとも呼気の30%以上、確実性を考えると60%程度の濃度にする必要があります。これではいくら密封された空間といっても相当量を積み込んでいなくてはなりません。

しかも、笑気ガスも通常は単独で使われることはなく、静脈注射を別に行って、笑気ガスは鎮痛効果などのために用いられるのが普通です。おまけに、笑気ガスの催眠作用は持続的なものではなく、吸入し続けなければ比較的簡単に醒めてしまいます。沢山の乗客が乗り込んで機内の空気の換気を行わないわけにはいきませんから、短時間しか有効ではないことになります。

他の麻酔ガスはどうでしょうか。犯罪ドラマなどでクロロフォルムを染み込ませたハンカチを口にあてて誘拐してしまうというシーンが出てきたりしますが、クロロフォルムはそれほどの即効性はありません。笑気ガスと同様に、静脈注射などと併用するのが普通です。一気にハイジャック犯を黙らせる役には向いていません。

それにクロロフォルムは可燃性があります。クロロフォルムに限らず、麻酔ガスの多くはエーテル系で可燃性があるため、電気メスを使う最近の手術では使われることがなくなってしまいました。飛行機の中で可燃性のガスを充満させるというのは、ハイジャック犯で考え付かないような恐ろしい仕業ですから、とても使うわけにはいきません。

麻酔ガスに限らず、人の意識を完全に失わせるような薬物の使用は危険を伴います。手術の場では専門の麻酔科医が慎重に患者の様子を観察しながら、薬物の投入量を調整します。簡単に眠らせ、追加の投入がなくても効き目が持続し、しかも安全、こんな麻酔ガスがあれば麻酔科医は失業してしまうでしょう。どうも麻酔ガスでハイジャック犯を撃退するというアイデアは難しそうです。

モスクワ劇場占拠事件

ここまでは、物騒ではありますが、思考実験のようなものです。実際に麻酔ガスを使って、人質犯に対応するというのは、他にどんな手段があるか、使用環境が適しているかどうかなどを相当慎重に考えなければならないでしょう。本当に効果があるかという点でも、実験してみなければわかるものではありません。ところが、ハイジャックではありませんが、ロシアは麻酔ガスを使った人質奪還をいきなり実行してしまいました。

911テロの翌年、2002年の10月23日から26日にかけて、チェチェンのからのロシア軍撤退を要求する42名のチェチェン独立武装勢力が、モスクワのブロフカ・ミュージアム劇場を観客922名を人質に占拠しました。

この4日におよぶ占拠事件は、ロシアが特殊部隊スベツナズが突入させ、武装勢力を全員殺害することで終了したのですが、この時ロシア軍は突入時に、催眠ガスであるKOLOKOL-1を使用しました。KOLOKOL-1はモルヒネの200倍の鎮痛効果のあるフェンタニル系の薬物で、1-3秒で効果をあらわし、6時間程度持続すると言われています。

KOLOKOL-1が武装一派の制圧にどれほど効果があったか不明ですが、人質は922名中129名がガスのために中毒死しました。強力な麻酔ガスを劇場のような大きな空間で多数の人質がいる中で使用するというのは、先進民主主義国家ではほとんど考えられないような暴挙です。空間が広いと均一なガス濃度を作るのが難しく、死者の多くは非常に高い濃度のKOKOLO-1に曝されたと考えられます。

狭い航空機の機内であれば、より小さな被害でもっと大きな効果を得た可能性はあります。しかし、これを見ても麻酔ガスを使うのは非常に危険の大きな方策だということがわかります。

ハイジャックに遭遇したら

ハイジャックに遭遇してしまったら、どうしたらよいでしょうか。生死の不安に脅かされながら、長い時間を耐えなければならないことを考えると、とても楽しい経験とは言えません。しかし、飛行機ごと爆弾兵器に仕立ててビルに激突するという911テロが出現するまでは、ハイジャックで乗客が殺されてしまうことは非常にまれでした。

日本の航空機がハイジャックされた事件では、1999年にコンピュータゲームのフライトシミュレーターで磨いた飛行機技術を実践して、レインボーブリッジをくぐってみたかったという異常者に機長が刺殺されてしまった以外、死者は一人も出ていません。

しかし、1977年に日本赤軍がバングラデシュのダッカ発の日本航空機をハイジャックした事件で、日本政府がハイジャック犯の要求に屈して「超法規的措置」として服役中のメンバー6名を釈放したことが国際的な非難を浴びて以来、容易ハイジャック犯の要求には屈しないという原則が政府の対応として確立されたと思われます。

この事件をきっかけとして、日本では警察組織に特殊急襲部隊、SATが設立され、ハイジャック、重大テロ事件などに対処することになりました。SATの隊員は高度の訓練を受け、武力によりハイジャック犯から人質を解放することを想定されています。日本政府も、もはや「人の命は地球より重い」と言ってハイジャック犯の要求を丸呑みするようなことはないと考えてよいでしょう。

ハイジャックに対する当局側の厳しい姿勢が、事実上の国際的な合意事項として確立されてきたため、当局と「交渉」しようとするハイジャック事件は、1980年代から減少傾向にあります。1990年以降は組織的なハイジャックはほとんどなくなりました。911テロは交渉によって当局の譲歩を引き出すのではなく、ハイジャックした飛行機を兵器として使うという意表をついたものだったのです。

乗客の側からみると、「ハイジャック犯とは交渉せず武力による解決を行おうとする当局」と「交渉せず破壊による攻撃を企てるハイジャック犯」という、はなはだ危険な組み合わせになってしまっているわけです。ハイジャックされた飛行機に乗り合わせるということは、相当高い確率で命を失うことが予想されるということになります。
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それでも長い行列は・・・

ハイジャック撃退装置を麻酔ガスベースで作るには、安全かつ強力で素早く効果をあらわし、しかもその効果が長時間持続するようなガスが開発される必要があります。そのようなガスが開発されない限り、ハイジャック撃退装置は作れそうにありません。

とは言っても、ハイジャック犯だけでなく当局も乗客の生命を最重要と考えてくれないとなると、少々不完全でもハイジャック撃退装置を実用化してくれた方がありがたいようにも思えます。そんな装置が全ての航空機に装着されるまで、セキュリティーの長い行列はがまんするしかなさそうです。21世紀になってこんな目に合うとは、誰も予想してなっかのではないでしょうか。