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馬場正博: 元IT屋で元ビジネスコンサルタント。今は「A Thinker(?)]というより横丁のご隠居さん。大手外資系のコンピューター会社で大規模システムの信頼性設計、技術戦略の策定、未来技術予測などを行う。転じたITソリューションの会社ではコンサルティング業務を中心に活動。コンサルティングで関係した業種、業務は多種多様。規模は零細から超大企業まで。進化論、宇宙論、心理学、IT、経営、歴史、経済と何でも語ります。

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ちょっと待てTPP
TPP.jpg
TPP加盟国会議参加首脳とオブザーバーの菅首相


環太平洋戦略的経済連携協定と訳されるTPP(Trans-Pacific Partnership、またはTrans-Pacific Strategic Economic Partnership Agreement)の締結を、菅首相は「平成の開国」と言って、政策課題の大きな目玉として取り組んでいます。

TPPは先ず2006年にシンガポール、ブルネイ、チリ、ニュージーランドの4カ国で締結され、その後アメリカ、オーストラリア、ぺルー、ベトナムが参加を表明しました。次いで、マレーシア、コロンビア、カナダも参加の意向を示しましたが、その後カナダは乳製品の市場保護を理由として加盟を見合わせられています。

TPPの拡大にアメリカは意欲的で2011年のAPECまでに日本も加わるように働きかけを強めています。菅首相の「平成の開国」発言はアメリカへの配慮が大きく働いていると思われます。

TPPは工業製品、農産物の関税撤廃、各種サービス、規制の共通化を行うことで加盟国間の貿易の拡大を目指すしています。TPPが多国間の条約であるのに対し、よく比べられるFTA(Free Trade Agreement:自由貿易協定)が二国間での条約です。

日本がTPPに参加すれば、農産物への関税は撤廃に向かわなければいけません。これは日本の農業にとって非常に重大な問題です。

TPPへの反対意見には日本の農産物の平均関税は12%とすでに十分低いのだから、さらに下げるのはおかしいというものがありますが、これは奇妙な論理と言わなければなりません。

もし日本の農産物への関税がすでに十分低ければ、今さらさらに下げられることをそれ程恐れる必要はありません。むしろ他国の農産物の関税が下がることで輸出機会が増えてもいいはずです。

日本の農産物の関税が全体としてかなり低いのは、野菜や果物を始め沢山の外国製の食品が出回っていることでもわかります。よく問題になる食糧自給率が40%というのも大量の農産物を輸入している証拠です。

農産物の関税撤廃の問題は日本は特定の製品の関税が極端に高いことにあります。米の778%を始め、バターが360%、澱粉が583%と事実上輸入禁止に等しいような高関税の製品があるのです。歴代3人の首相を輩出した群馬県の特産品のコンニャクは1706%にもなっています。

このような高関税の農産物を栽培する農家が自由化で壊滅的な打撃を受けることは想像にかたくありません。食の安全と言っても、中国産の野菜がスーパーに溢れていることからも関税の大幅な引き下げに強い反対があるのは、ある意味仕方なのないことです。

それでも農水省のTPPで農業関連のGDP4.1兆円が失われ、GDP全体で7.9兆円が喪失し、食料自給率が40%から14%に低下するという予測は過大に過ぎるでしょう。米などは日本人がいきなり味の違う外国産米に切り替えることはなさそうです。

それに前原誠司氏の言うように「GDPの1.5%を守るために残りの98.5%が犠牲になることはない」というのは、政治的にはともかく経済的には正鵠をついています。農業が日本の経済に占める割合は小さく、農業保護は産業政策ではなく政治問題です。TPPの本質的な問題はむしろ別なところにあります。

実はTPPは関税の相互撤廃だけではなく、自由貿易拡大のために各国の制度に踏み込んだ改革が含まれます。それはTPPが「加盟国間の経済制度、即ち、サービス、人の移動、基準認証などに於ける整合性を図り、貿易関税については例外品目を認めない形の関税撤廃をめざしている」(Wikiより抜粋)からです。

これだけ言われても具体的にどのようなことが起きるか想像しにくいかもしれませんが、「基準認証などに於ける整合性」とは要するに、各種の資格を各国で共通化する、つまりアメリカの弁護士や、オーストラリアの医師が日本で活動できるようにしていくということです。

この資格の範囲は現段階では非常に広いものになると考えられます。つまり、医師、弁護士の他に看護師、税理士、建築士はては不動産鑑定士のようなものも含まれます。

アメリカの不動産鑑定士が日本で仕事などできるものか、と思うかもしれませんが、日本語で資格を取得をするのは大変ですが、資格さえ共通なら、不動産価格の評価は言語能力はそれほど必要ありません。

会計処理もアメリカではインドにアウトソーシングすることで会計士の雇用が大幅に奪われるというような現象がありますが、税理士もうかうかしていられません。そもそも各国の資格を共通化すると税理士、司法書士のような日本独特の資格は公認会計士、弁護士などに集約化していく必要が出てくるかもしれません。

医療では医師に国境の垣根がなくなると同時に、保険と自費治療の混在、つまり混合診療を原則認めない日本の制度が大きな変革を迫られると思います。

混合診療については安価な保険治療と高度先進医療が可能な自費治療が自由に組み合わされるのは結構なことだと思うかもしれませんが、現在のような健康保険財政の赤字が問題になっている状況では、保険治療の範囲が基礎的なものに限定され、高価な治療は自費治療とされる可能性が高くなります。

これが実際どの程度の影響があるかわかりませんが、親知らずを抜くと20万円m、盲腸を手術すると200万円というアメリカのような状態に少しでも近づくと大変なことになるのは容易に想像できます。少なくとも米やバターが3分の1になったくらいでは、とても引き合わない話でしょう。

資格の共通化で問題なのは、結果的に資格はアメリカおよびアメリカの制度に近い、シンガポールやオーストラリアの専門家を受け入れても、日本の専門家が海外進出するのはそれほど簡単ではないだろうということがあります。

税理士、司法書士が日本独特の制度であるように、日本の資格制度はいわゆるアメリカ中心のグローバルスタンダードと乖離しているものが多く、相互認証を行っても、資格自身の共通性が少ないということで海外進出が難しくなる可能性が高いのです。

しかも、TPP参加国はアメリカ、オーストラリアはもちろん、シンガポール、マレーシアなど高級専門職は英語で仕事をするのが普通の国ばかりです。日本語という参入障壁があっても、大手弁護士事務所でトップや幹部はアメリカ人、実際の事務作業をするのは日本人という関係になることは十分に考えられます。

長い目で見れば農産物の自由化は必要です。高い関税で非効率な農業を維持するのではなく、国際競争に耐えうる技術と価格で農産物を供給できるように農業の変革をすべきです。

同様に否応ないグローバル化の進展で専門職の人々は英語で仕事ができるような能力を求められていくでしょう。自動車やビールと同じように専門職も日本という縮小が続く市場にしがみついていては発展はありません。

しかし、いきなり米の関税の撤廃をすれば、大きな政治的、社会的混乱を招くだろうと思われるように、専門職の国境を急に取り払い、混合診療のような制度の共通化を拙速で行うことは大変危険なことです、

このような危険を考慮してのことと思われますが、FTA締結では日本の先を行っている韓国も、TPPは加入を見合わせることにしました。もちろん中国はTPP参加などはるか遠い話です。

日本がTPPに加入するとGDPでは日米でTPP締結国の9割以上を占めることになります。その他の国もオーストラリア、ニュージーランド、シンガポールのように言語的、制度的にはアメリカに近い国が大部分です。つまり、TPPは農産物、工業製品の関税撤廃というより、専門職とその制度の共通化を日米間で行うことを意味すると考えてよいのです。

先述のように日米の資格制度の共通化はアメリカから日本への一方通行の色彩が強いものになるでしょう。また、すぐれた心臓外科医が収入の多いアメリカで仕事をするように、日本の優良な医療資源が他国に流出することも考えなくてはいけません。

国際化、人材の流動化、関税の撤廃、皆必要なことです。人口減の中で日本だけ独自のガラパゴスをいつまでも続けることはできないでしょうし、日本国民の利益にもなりません。しかし、国民生活に深く根差した専門職制度の変革は注意深く行うべきです。

ただTPPが政府調達の公開を求めていることから兵器もアメリカ製に席巻されるというのは必ずしも正しくありません。一般省庁の情報機器購入や公共事業は公開の対象になりますが、TPPは国防上の理由は例外として認めているからです。

「平成の開国」は必要なことでしょう、しかし、明治の開国(本当は江戸幕府の開国ですが)は外国人の治外法権のような極めて不平等なものでした。明治政府にとって日本が自立のためには不平等条約の改定が最大の課題でした。

不平等条約改定にため明治政府は夜毎鹿鳴館で西洋式の舞踏会を催しました。日本が文明国であることを印象付けるためです。「平成の開国」が大きな不平等を招くとしたら、今度は何をすればよいのでしょうか。
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