道州制という言葉がよく聞かれます。橋下大阪市長も自身のホームページの中で次のように述べ、道州制を目指すとしています。
・・中央省庁は東京にあり、各役所の役人が東京で生活をしている以上、彼らはどうしても東京からの視点でしかモノを考えられません。そしてそれが結果として、東京への一極集中を助長していることにつながっていると思われます。・・
これから大阪をはじめ、すべての地方は霞ヶ関から予算と権限を奪いに行くべきです。 そしてそのためにも、これまでの都道府県という小さな区分けを再構築し、より大きなカテゴリーとして「道州制」という枠組みを新たに形成し、みんなで一緒に国に対して税源移譲を迫り、本当の意味での地方分権を勝ち取るべきなのです。・・
これからこの大阪は、京都や兵庫など近隣の府県と手を携え、国や中央省庁と対等に話し合いが出来る「関西州」としてまとまり、国内だけではなく、国際的にもその立場をアピールし、広くアジアや世界に対しても交流を深めていく必要があると思います。 ・・
橋下氏は近畿地方を一つの「州」としようと考えているようですが、人によって違いはあるものの道州制は全国を概ね5-10くらいの単位に再編しようというものです。あえて「州」の前に「道」を置いたのは、現在北海道開発庁という中央の組織を持つ北海道は、道州制でもそのまま北海道になると想定されているからです。
確かに現在のように中央官庁が予算と権限の多くを握り、地行政の「箸の上げ下ろし」まで干渉するのは、効率的とは言えません。地方がより大きな自治権限を持つのは、それなりの利点があるでしょう。
とは言っても、道州制に疑問がないわけではありません。地方に今まで中央が持っていた権限をうまく活用できるかどうかということもあるでしょう。また、県という単位が消滅することで、県単位で行われた行政についてはむしろ地方分権が減ってしまうとことも考えられます。
しかし、私が一番懸念していることは、小選挙区制と同じに行政単位という制度を変更することであたかも、政治が大きな前進をするかのように喧伝されていることです。道州制になっても、中央と地方の持つ権限と予算は全体としては同じはずなので、本質的には道州制の導入は、ケーキを縦に切るか横に切るかの違いしかないように見えるからです。
一方、道州制導入が大きな負担を招くことだけは間違いありません。今までの県職員と国家公務員をどう配分し直すだけでも大変な作業でしょう。しかもこれは役人が役人になるだけでNTTの民営化のような効率性に対する意識を根本的に変えるものではありません。志はそれなりに立派でも、道州制の導入が混乱しかもたらさないことも十分に考えられるのです。
そもそも日本には1億3千万の人口があります。仮に8個程度に分割すると人口1千5百万以上、GDPは韓国に遜色ないような巨大な地域となります。このような巨大な単位が本当に現在の国と県の制度より柔軟に地方の実情に即した政策を展開できるかどうかは自明なことではありません。
地方の活性化や地域間の競争力を考えると、単位ととしては州のような大きな地域ではなく、むしろ小さな都市程度の地域を考えるべきでしょう。例えば、起業家の聖地のシリコンバレーは、ベンチャー企業を育てる、人材、資金、ノウハウといったインフラが備わっている、カリフォルニア州のサンノゼ市を中心にした地域です。
シリコンバレーが現在のような繁栄をみたのは、スタンフォード大学という知的集積地にフェアチャイルドという半導体製造のベンチャー企業が創設されたことに端を発しています。カリフォルニア州はイタリアほどの経済規模を持つ州ですが、シリコンバレーの形成に何か積極的な役割を果たしたわけではありません。
洋食器で有名な燕市は人口10万にも満たない中都市ですが、製品はグローバルに受け入れられています。燕市は江戸時代からキセルの管を作ったりして、金属加工の歴史と技術があり、多数の小さな町工場ありました。そして燕市の洋食器と海外の需要家と結びつけたものに隣接する三条市の長い商業町としての伝統がありました。(この部分は「また公共投資ですか」からの引用)
香港は世界でもっとも競争力のある「国家」ですが、これは香港が一都市だったため、中国が一国二制度の下で香港が広範囲の自由を与えられているからです。香港が北海道ほどの地域であれば、一国二制度は難しかったでしょう。
それでも香港は6百万人の人口があります。タックスヘイブン(租税回避地)として繁栄するケイマン諸島は、人口はわずか数万人しかいません。沖縄をタックスヘイブンにという興味深い提案がありますが、沖縄のような百万人以上の単位にタックスヘイブンのような自由を与えることは国際的にも大きな抵抗を招くでしょう(「沖縄をタックスヘイブンに」は奇策?それとも正論?を参照してください)。
現代の国際間競争は国同士ではなく、都市同士の競争です。海外の金融機関が人員を日本に置くかシンガポール置くかは、日本全体とシンガポールではなく、港区とシンガポールの競争と言っても良いほどです
今後日本が新興国に対して競争力を維持するためには、州のような中途半端な単位にこだわるのではなく、国単位でしかできないような大幅な税制の改革、製品規格、標準の統一と都市や小さな地域で産業が競争力を持てるようなインフラの集積をいかに進めるかを考えるべきでしょう。
道州制もそれなりに効果はあるかもしれません。しかし日本人が現在のような高い生活水準(20年前の6割くらいに落ちてしまった感じですが)を続けるためには、国しかできない規制緩和や法制度の簡素化、それと都市単位で考えるようなキメ細かい産業インフラの整備が必要です。
道州制は都市間競争に突入しているグローバル経済の中では周回遅れと発想としか言いようがありません。あるいはケーキをどう増やすかではなく、どう切るかを議論しているに過ぎません。道州制への移行は無駄な混乱と時間の空費を招くだけで大きな成果を上げられないでしょう。制度変更の目新に惑わされるのは小選挙区制で十分ではないでしょうか。
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