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馬場正博: 元IT屋で元ビジネスコンサルタント。今は「A Thinker(?)]というより横丁のご隠居さん。大手外資系のコンピューター会社で大規模システムの信頼性設計、技術戦略の策定、未来技術予測などを行う。転じたITソリューションの会社ではコンサルティング業務を中心に活動。コンサルティングで関係した業種、業務は多種多様。規模は零細から超大企業まで。進化論、宇宙論、心理学、IT、経営、歴史、経済と何でも語ります。

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周回遅れの道州制議論
道州制という言葉がよく聞かれます。橋下大阪市長も自身のホームページの中で次のように述べ、道州制を目指すとしています。


・・中央省庁は東京にあり、各役所の役人が東京で生活をしている以上、彼らはどうしても東京からの視点でしかモノを考えられません。そしてそれが結果として、東京への一極集中を助長していることにつながっていると思われます。・・

これから大阪をはじめ、すべての地方は霞ヶ関から予算と権限を奪いに行くべきです。 そしてそのためにも、これまでの都道府県という小さな区分けを再構築し、より大きなカテゴリーとして「道州制」という枠組みを新たに形成し、みんなで一緒に国に対して税源移譲を迫り、本当の意味での地方分権を勝ち取るべきなのです。・・

これからこの大阪は、京都や兵庫など近隣の府県と手を携え、国や中央省庁と対等に話し合いが出来る「関西州」としてまとまり、国内だけではなく、国際的にもその立場をアピールし、広くアジアや世界に対しても交流を深めていく必要があると思います。 ・・



橋下氏は近畿地方を一つの「州」としようと考えているようですが、人によって違いはあるものの道州制は全国を概ね5-10くらいの単位に再編しようというものです。あえて「州」の前に「道」を置いたのは、現在北海道開発庁という中央の組織を持つ北海道は、道州制でもそのまま北海道になると想定されているからです。

確かに現在のように中央官庁が予算と権限の多くを握り、地行政の「箸の上げ下ろし」まで干渉するのは、効率的とは言えません。地方がより大きな自治権限を持つのは、それなりの利点があるでしょう。

とは言っても、道州制に疑問がないわけではありません。地方に今まで中央が持っていた権限をうまく活用できるかどうかということもあるでしょう。また、県という単位が消滅することで、県単位で行われた行政についてはむしろ地方分権が減ってしまうとことも考えられます。

しかし、私が一番懸念していることは、小選挙区制と同じに行政単位という制度を変更することであたかも、政治が大きな前進をするかのように喧伝されていることです。道州制になっても、中央と地方の持つ権限と予算は全体としては同じはずなので、本質的には道州制の導入は、ケーキを縦に切るか横に切るかの違いしかないように見えるからです。

一方、道州制導入が大きな負担を招くことだけは間違いありません。今までの県職員と国家公務員をどう配分し直すだけでも大変な作業でしょう。しかもこれは役人が役人になるだけでNTTの民営化のような効率性に対する意識を根本的に変えるものではありません。志はそれなりに立派でも、道州制の導入が混乱しかもたらさないことも十分に考えられるのです。

そもそも日本には1億3千万の人口があります。仮に8個程度に分割すると人口1千5百万以上、GDPは韓国に遜色ないような巨大な地域となります。このような巨大な単位が本当に現在の国と県の制度より柔軟に地方の実情に即した政策を展開できるかどうかは自明なことではありません。

地方の活性化や地域間の競争力を考えると、単位ととしては州のような大きな地域ではなく、むしろ小さな都市程度の地域を考えるべきでしょう。例えば、起業家の聖地のシリコンバレーは、ベンチャー企業を育てる、人材、資金、ノウハウといったインフラが備わっている、カリフォルニア州のサンノゼ市を中心にした地域です。

シリコンバレーが現在のような繁栄をみたのは、スタンフォード大学という知的集積地にフェアチャイルドという半導体製造のベンチャー企業が創設されたことに端を発しています。カリフォルニア州はイタリアほどの経済規模を持つ州ですが、シリコンバレーの形成に何か積極的な役割を果たしたわけではありません。

洋食器で有名な燕市は人口10万にも満たない中都市ですが、製品はグローバルに受け入れられています。燕市は江戸時代からキセルの管を作ったりして、金属加工の歴史と技術があり、多数の小さな町工場ありました。そして燕市の洋食器と海外の需要家と結びつけたものに隣接する三条市の長い商業町としての伝統がありました。(この部分は「また公共投資ですか」からの引用)

香港は世界でもっとも競争力のある「国家」ですが、これは香港が一都市だったため、中国が一国二制度の下で香港が広範囲の自由を与えられているからです。香港が北海道ほどの地域であれば、一国二制度は難しかったでしょう。

それでも香港は6百万人の人口があります。タックスヘイブン(租税回避地)として繁栄するケイマン諸島は、人口はわずか数万人しかいません。沖縄をタックスヘイブンにという興味深い提案がありますが、沖縄のような百万人以上の単位にタックスヘイブンのような自由を与えることは国際的にも大きな抵抗を招くでしょう(「沖縄をタックスヘイブンに」は奇策?それとも正論?を参照してください)。

現代の国際間競争は国同士ではなく、都市同士の競争です。海外の金融機関が人員を日本に置くかシンガポール置くかは、日本全体とシンガポールではなく、港区とシンガポールの競争と言っても良いほどです

今後日本が新興国に対して競争力を維持するためには、州のような中途半端な単位にこだわるのではなく、国単位でしかできないような大幅な税制の改革、製品規格、標準の統一と都市や小さな地域で産業が競争力を持てるようなインフラの集積をいかに進めるかを考えるべきでしょう。

道州制もそれなりに効果はあるかもしれません。しかし日本人が現在のような高い生活水準(20年前の6割くらいに落ちてしまった感じですが)を続けるためには、国しかできない規制緩和や法制度の簡素化、それと都市単位で考えるようなキメ細かい産業インフラの整備が必要です。

道州制は都市間競争に突入しているグローバル経済の中では周回遅れと発想としか言いようがありません。あるいはケーキをどう増やすかではなく、どう切るかを議論しているに過ぎません。道州制への移行は無駄な混乱と時間の空費を招くだけで大きな成果を上げられないでしょう。制度変更の目新に惑わされるのは小選挙区制で十分ではないでしょうか。
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政治主導を実現するために
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政治主導という言葉がずいぶん前から使われています。政治主導の反対の言葉は官僚主導です。日本の政治は実際は官僚が支配していて、大臣や首相が変わっても関係なく官僚の思う通りに動かされていく。これでは本当に国民のための政治はできない。官僚による官僚のための政治から、国民から選ばれた政治家が国民のための政治に政治主導で変わらなければならない。これが政治主導が必要だとされる理由でしょう。

しかし、政治主導を政治家主導と置き換えてみると、それほど良いことばかりではいないと思えてきます。政治家が自分の利権のために公共事業を地元に誘導しようすることはよく知られています。また、交通違反の揉み消しや、認可保育園に入園しようとして政治家を頼みこむのはよく聞く話です。政治家が行政を自分の都合の良いように動かすのは、とても良い事ばかりではなさそうです。

元々日本の官僚システムは明治維新で政府の中心となった薩摩、長州などによる藩閥政治の弊害をなくそうとして生まれたものです。出身に関係なく優秀な人材を登用する。そのために官僚の選抜と訓練を行うために帝国大学を作る。官僚制度は藩閥政治の弊害を取り除くために作られました。

身分を保障された官僚は特定の勢力や政治家におもねることなく、国家のために政治を行う。藩閥政治という政治主導から、官僚主導による政治を行うことで、国民のためになる政治が行われるはずでした。確かに、それはかなり実現したと言うことができます。城山三郎が「官僚たちの夏」で描いた官僚は、まさにそのような存在でした。

しかし、どんな権力も腐敗します。官僚組織はいつの間にか役人の天下り先を増やすことが究極の目的になってしまいました。天下り先を増やすためには、官が民を支配することが必要です。過剰な規制、余分な組織、無駄な制度の多くは、天下りを増やしたい、そのための権力を維持したという官僚組織に組み込まれたDNAが作りだしてきました。

官僚支配の弊害はガラパゴスと言われる日本の独自規格に端的に表れています。日本には種々の国際規格とは違う独特の規制、規格が沢山あります。それらは国際標準に合わせて作られた海外の製品が日本に入り込むのを防ぐ役割を演じてきましたが、同時に日本の製品を世界に売り込む時の障害にもなりました。

国際標準と異なる規格で作られた製品は、絶海の孤島、ガラパゴスで独自の進化を遂げた生物と同じだということから、ガラパゴス製品と呼びます。携帯電話はその典型です。高度だが独特の規格に守られた市場は海外メーカーの参入を難しくすることで、多数の国内メーカーを生き残らせました。しかし、スマートフォンの登場で、その市場は一気に消滅の危機に立たされることになりました。天下りを増やそうとする。そのために産業保護を名目にした日本独自の標準を作る。そんな官僚主導は日本の産業を強くするより、かえって弱めてしまいました。

それでは政治主導は官僚主導の問題を解決できるのでしょうか。アメリカでは大統領つまり政権が交代すると官僚組織の大幅な入れ替えを行います。そのために政権交代のたびにポストを得ようとする「猟官運動」が大規模に行われます。実際多くのポストが政権発足への論功行賞として与えられます。

このようにして得られたポストの持ち主は、政治任用、ポリティカルアポインティ—と呼ばれます。政治任用制はアメリカでも無条件に受け入れられているわけではありません。むしろ、政権交代によって多くの実務経験の乏しい人間が官僚組織の中枢に座ることには疑問が出されています。

実際、アメリカでも軍には政治任用はありません。軍隊は専門知識が必要だから政治任用制になじまないなら、官僚組織は全て政治任用はなじまないのではないか。このような意見は少なくありません。まして、論功行賞のためにポストが分け与えられるのでは、能力のある人間は官僚組織を動かすことができなくなってしまうという不安が生じます。

それでもアメリカで政治任用制が可能なのは、官界、学界それとビジネス界が、分野ごとに専門家集団を作りだし、政権交代の時に大規模な人材の入れ替えを可能にする人材プールがあるからです。

日本ではどうでしょうか。日本で官僚の行っているような政策立案、それに基づく法案の作成、予算の獲得の経験を詰めるのは官僚組織そのものしかありません。その官僚組織は閉鎖的で学界、ビジネス界などとの交流は殆どありません。そしてこのような官僚の実務を経験しなければ政治家としても行政機構を思いのままに動かすことは困難です。

現在の日本で政治主導を無理矢理しようとするのは、企業を業界の内情を何も知らずに経営するようなものです。それでも企業では基本的なビジネススキルが通用する場合も多いのですが、法律策定や予算配分の論理は一般の企業経営とは全く違います。

この点について橋下大阪市長はツイッターで次のよう言っています。

「政策は実現してなんぼ。実現するプロセス・課題を知った上での提言でなければならない。政策を実現するプロセスを学べる学校が日本には聞いたことがない。だから識者は、役所に入って経験するべきなのである。」

橋下氏が指摘するプロセス、課題は漠然としたところもあるのですが、国政レベルで考れば法案を作る実務能力が先ず上げられます。そして法案を作る能力が重要だからこそ高級官僚は東京大学法学部出身が圧倒的に多数を占めてきたのです。

もちろん政治、行政を動かすのは法案作りだけではありません。日々の官僚機構の仕事には税関で品物の検査をしたり、教科書検定の中身を作ったり多種多様です。しかし政治と官僚組織の最大の接点は法律と予算です。この二つを現実の世界と渡りをつけながら形にしていくことが政治家の仕事です。そして官僚主導の日本ではこの部分を実質で仕切っていたのは政治家でなく官僚組織だったのです。

規制だらけでガラパゴス化する産業。天下りと予算消化のために狭い国土に作られた百あまりの空港。このようなものを見れば官僚主導の政治を変革しなければいけないと考えるのは正しいことです。しかし、政治を動かす知識と経験を持たない政治家たちに政治主導を委ねることに危険が多いことは認識しなければいけません。まして「政治」主導ではなく「政治家」主導で行政が動かされれば、国のために良いことはありません。

行政組織は巨大で危険な猛獣です。その怪物を鞭一つで自由に操るのは十分に訓練を受けた猛獣使いにしかできません。その条件がないまま安易に政治主導を目指せば、猛獣を操るどころか、猛獣の餌食になるしかないでしょう。

参考:
天下りを考える
天下りを考える: もう一言
仮想座談会-世襲議員を考える