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馬場正博: 元IT屋で元ビジネスコンサルタント。今は「A Thinker(?)]というより横丁のご隠居さん。大手外資系のコンピューター会社で大規模システムの信頼性設計、技術戦略の策定、未来技術予測などを行う。転じたITソリューションの会社ではコンサルティング業務を中心に活動。コンサルティングで関係した業種、業務は多種多様。規模は零細から超大企業まで。進化論、宇宙論、心理学、IT、経営、歴史、経済と何でも語ります。

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また公共投資ですか?
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これで景気が良くなるの?

ソ連時代のロシアの小話を一つ。

アメリカ人がイギリス人の男が二人、片方が穴を掘り、 もう片方が穴を埋め戻すという作業を延々としているのを見て、一体何をやっているのかと尋ねました。 イギリス人の男が答えて、「ケインズ先生が、こうやっていると景気が良くなると教えてくれたんだ。」

アメリカ人が今度はソ連に行って、同じようにロシア人の男が二人、片方が穴を掘り、 もう片方が穴を埋め戻すという作業を延々としているのを見ました。アメリカ人が、これで景気が良くなるのかと尋ねると、「俺たちは植木屋だ。俺は穴を掘る役、こいつは穴を埋め戻す役。 で、あと一人、木を植える仕事の奴がいるんだが、今日は休みなんだ。」


あまりできのよい小話ではないですね。 実を言うとロシアで本当に語られていたかもはっきりしません。どちらにせよ、ただの小話ですが、ケインズ経済学ではまじめに、供給が需要を上回ったために不景気のなった時は、政府が金の入ったつぼを埋めて、それを掘り出させるようなことをすれば、「有効需要」が作り出されて景気が良くなると言っています(実際にこの通り実行したという話は聞いたことがありませんが)。

参議院選挙で自民党が大敗したことをきっかけに、地方に公共事業をもっと持って来いという圧力が強くなってきました。特に1人区での自民党の大敗は「構造改革の影の部分として、地方の切捨てが行われた結果だ」とする人も多く、内閣の弱体化もあって、また昔のような公共事業による景気浮揚策が脚光をあびるのではないかと危惧(または期待)する人が増えています。

確かに、公共投資による土木、建設などの支出は1995年をピークに減少を続け、2005年には半分以下になっています。政府はさらに2011年ごろまで毎年3%程度の削減を続ける考えです。すでに従来の半分以下の受注量で悲鳴をあげている地方の中小規模の建設会社にとって事態は深刻です。
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もっと道路を!

公共投資が一貫して減少する中、70-80万社もある建設会社数はあまり変わっていません。結果として、1990年ごろは製造業の90%程度あった建設業の生産性は、6割程度まで低下し高齢化も進んでいます。小泉構造改革は建設業を直撃したわけです。

小泉政権は「構造改革なくして景気回復なし」と宣言して、高い支持率を背景に進められたのですが、構造改革で景気回復を行うという理屈には多くの経済学者は首をかしげました。日本経済は物価下落というデフレ状態を続けていて、デフレは需要が供給を下回っているからだと経済学では考えるからです。景気回復の処方箋は「穴を掘って埋める」のでも「ヘリコプターで紙幣をばら撒く」のでもとにかく需要を喚起することで、小泉政権の構造改革は低温症の患者に解熱剤を飲ませるようなことになるはずなのです。

構造改革で日本経済は崩壊すると心配した人は多かったのですが、小泉政権は公共投資は減少させても、全体としてみれば別に「倹約」はしませんでした。小泉首相が在任した2001年から2006年の間に国債残高は400兆円ら700兆円近くに増大しています。少なくとも小泉政権の構造改革は緊縮財政を意味していなかったのです。

経済の規模を表すGDPは「個人消費+設備投資+政府支出+輸出-輸入」です。これはケインズ主義者であろうと、マネタリストであろうと、多分マルクス経済学者であろうと異存はありません。政府支出を「穴を掘ったり埋めたり」して増やさなくても、税金を取らないで国債で補えば、個人支出や設備投資が減るのを防げるので、経済効果はあります。

しかし、公共投資を減らした結果、地方の弱小建設会社は手ひどい打撃を受けました。その結果、建設業と農業くらいしか産業のない地方の景気は停滞しました。東京では六本木ミッドタウンに人が押し寄せているというのに、商店街は閉店した店ばかりになり、シャッター街になってしまいました。
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地方の商店街はシャッターが閉まったまま


では地方の活性化、景気浮揚には公共投資を増やす政策が有効なのでしょうか。公共投資で金をばら撒けば、建設会社は人を採用し、採用された人は地元で買い物をし、というか形で金が回りだすのは確かです。しかし、その効果は非常に限定的でしょう。最近の商店街のシャッター街化の大きな理由の一つは、消費者が車で遠くのショッピングセンターに出かけてしまうことです。地方都市のショッピングモールには県をまたがって客が来ます。地元の商店街に金が落ちる保証はありません。

しかも、建設会社に金を落として、将来その建設会社が独自の技術で世界に打って出るなどということは普通考えられません。公共投資がなくなれば元の木阿弥で、苦しい状況に戻ってしまいます。永久に「穴を掘って、また埋める」方式の公共投資でない限り駄目なのです。

地方では今でも、新幹線や高速道路を作って欲しいと言います。しかし、本当に欲しいのは建設工事そのものです。道路も立派な片側2車線のものを作ったりしますが、そんなことをせずに片側1車線でそこそこちゃんとしたものを沢山作ったほうが住んでいる人も助かるはずなのに、そうはなりません。

政治家は選挙で動いてくれる人や、献金をしてくれる人の意見を「国民の声」と思いがちです。地方の景気を何とかして欲しいと思っている人は地方には多いでしょうが、それが「公共投資推進」だと思っている人は建設業の関係者だけでしょう。そうでなければ、衆議院の郵政解散で郵政改革を訴えた自民党が大勝したり、談合廃止を公約にした東国原が宮崎県知事に当選したりすることはありえないでしょう。

効率性を考えれば公共投資が有効なのは地方よりむしろ首都圏です。首都圏では混雑した道路や、発着枠の足りない空港があり、増強は経済的効果が地方よりずっと大きくなります。公共投資の経済効果の差は首都圏と地方圏で4倍にも達しているとの調査もあり、地方経済の浮揚を公共投資に頼ろうとするのは国民経済の観点からは馬鹿げたことだと言わざる得ません。

もし(というかほとんど確実なのですが)大部分の地方が公共投資を減らされる中、経済的に立ち行かなくなったらどうなるのでしょうか。人は仕事のあるところに移動するので、マクロで見ると人口移動という点では、映画の「三丁目の夕日」で描かれていた集団就職や、出稼ぎの時代に戻ってしまうというのが可能性の高い予測です。いやこれは予測と言うより、戦後一貫した傾向です。地方の大学の卒業生は地元では県庁や市役所以外就職口がなく、大都市に出るのがずっと当たり前でした。
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集団就職の出発風景

地方が苦しいのは根本的には経済の生産性が低いからです。乱暴なことを言うようですが、つまり人口がまだ多すぎるのです。これはもっとも生産性の高い世代が大都市に出て行ってしまっているから仕方のない面もありますが、本当に競争力ある産業がないことに問題の根があります。日本の所得水準は高いので、世界中から優秀な製品を買うことができます。競争力ある産業とはグローバルに競争力がなくてはいけないのです。

どうすればグローバルに競争力のある産業を育成できるのでしょうか。経営学者のマイケル・ポーターはある地域が特定の産業で競争力を持つ条件を、クラスター理論として展開しています。クラスター理論では地方の産業の今日押す力決定要因は、

1. すぐれた戦略と競争相手
2. 高度な需要家の要求
3. 関連産業の存在
4. 人材、インフラの整備

であり、資源や資金、人口などは決定的ではないとしています。そして官の役割は、それぞれの要素が効率的、有機的に働くことができるような、触媒的な支援者に徹するべきであるとしています。
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マイケル・ポーター

洋食器で有名な燕市は人口10万にも満たない中都市ですが、製品はグローバルに受け入れられています。燕市は江戸時代からキセルの管を作ったりして、金属加工の歴史と技術があり、多数の小さな町工場ありました。そして燕市の洋食器と海外の需要家と結びつけたものに隣接する三条市の長い商業町としての伝統がありました。燕市、三条市はポーターのクラスター理論の実例です。

しかし、燕市の技術は江戸時代に遡ります。急に、グローバルに競争できるような産業が育成できるでしょうか。お気楽なことを言うようですが、現代の日本人の教育水準や経済水準、そして何より日本という高品質を要求する大市場があることを考えると、答えはいくらでも見つかるはずです。

もちろん、公共事業しか景気浮揚策を思いつかない人には答えを見つけるのは簡単ではないでしょう。そして産業を育成するには時間がかかります。「今倒産しそうなこの会社をどうしてくれる」という問題を解決してはくれません。それでも、公共投資を増やして地方を活性化するというのは、酒で一時の心の安らぎを得るような話で、実質的に何の解決策にもなりません。

ケインズも本心から「穴を掘って、埋める」ような公共投資が良いとは思っていませんでした。ケインズは快適な都市生活や美しいで年風景を実現させるような公共投資が望ましいと考えていたようです。工事のための工事で美しい森の木を切り倒したり、川をコンクリートで固めてしまうような公共投資は単に非効率という以上に、マイナスの効果しかもたらしません。そんなことをするくらいなら本当に「穴を掘って、埋める」方がよほどましでしょう。

長い目で見れば、地方の人口は産業の規模と生産性に見合ったものになっていくでしょう。公共投資を行っても、無限に効率の悪い投資を続けることができないのですから、効率の悪い建設業者は早いこと一掃して、人的資源をより有効に活用すべきでしょう。ただ、問題があります。高齢化の進んだ建設業界の人がいまさら新しい仕事を行うのは簡単ではありません。経済学の「均衡」が「いつ」を明確にできなければ人間にとっては意味がないということを、ケインズは「長期的にはわれわれは皆死んでしまう」と言って非難しました。もっとも政治家の先生たちには「長期的」とは次の選挙までのことかもしれませんが。

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ジョン・メナード・ケインズ


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この記事に対するコメント
感動しました。
まったく同感です。
公共事業で、地方にいくらおカネを流し込んでも、全く意味がないとおもってましたが、「地方で自活しろ。都市の税金をあてにするな。」といっても「本当に地方は大変なんだ。この惨状を見ろ」といわれると反論できませんでした。

「乱暴なことを言うようですが、つまり人口がまだ多すぎるのです。」
といわれて、納得。目からウロコです。
なるほど、世界に通用する産業を作ることができれば、その町は100年後も人口が減らないですむわけですね。そういう公共投資の実施は将来的に大きな意味があると思います。

さらに考えを進めると、日本全体の人口が減っている以上、いろいろ試しても、産業も観光資源もない場所は最終的に農家以外ほぼ誰もいなくなるでしょうから、そのような場所にはますます新規の公共投資をすべきではないですね。
【2008/01/11 21:50】 URL | kaz #WzzJX4NY [ 編集]


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