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馬場正博: 元IT屋で元ビジネスコンサルタント。今は「A Thinker(?)]というより横丁のご隠居さん。大手外資系のコンピューター会社で大規模システムの信頼性設計、技術戦略の策定、未来技術予測などを行う。転じたITソリューションの会社ではコンサルティング業務を中心に活動。コンサルティングで関係した業種、業務は多種多様。規模は零細から超大企業まで。進化論、宇宙論、心理学、IT、経営、歴史、経済と何でも語ります。

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食料自給率の愚
日本の食料自給率は40%

中国製の冷凍餃子に農薬が含まれていたことで、食料自給の低さが、改めて論じられるようになりました。TVでコメンテーターや有名人が、「日本の農業を復活させなければならない」とか、果ては「自分で食べるものは自分で作るのが当たり前だ」とまで言いだしました。

言葉は勇ましいのですが、「自給率を高くしろ」「食料を外国に頼るのは危険だ」と言っている人の誰も、自分で農業をしようとは思っていないでしょう。かりに食料自給率を高くするために、日本でもっと沢山の農産物を作るとしても、それは誰か他人の日本人で自分ではありません。

現在の日本の食料自給率は40%程度と言われています。 江戸時代の日本の食料自給率は100%ですが、日本人の90%以上は農民でした。それでも、一般的日本人の栄養状態は極めて悪く、男女とも平均身長は現在と比べ10センチ以上低い状態でした。江戸時代の人口は3千万人程度ですが、段々畑を山の上までつくるほど、耕地は高度に利用されていました。土地も人的資源も全て農業に注ぎ込んでも現在の人口の4分の一も養えなかったのです。自給率を高めることなど可能なのでしょうか。

可能なはずだという根拠に、現在の40%という食料自給率が、先進諸国と比べ著しく低いことはよく指摘されます。日本の40%という食料自給率に対し、オーストラリアが237%、アメリカ、カナダの128%、145%は当然としても、フランス、ドイツ、イギリスも122%、84%、70%となっています(すべて2003年度の数字 農水省調べ)。日本の食料自給率が突出して低いのは事実です。

段々畑
段々畑は日本人の勤勉さの象徴

日本の食料自給率が低いわけ

「自給率を高めろ」という人が自分が農民になるなど夢にも思わないのも、日本が食料品の多くを輸入に頼るのも、経済学的には「比較優位の原則」で説明がつきます。話を単純化して二つの国同士の貿易で考えて見ます。もし、A国で農産物を作れば、一日あたり一人1万円の生産高を上げ、自動車を作れば10万円の生産高をあげるとしましょう。これに対しB国では、農産物では一日で5千円で、自動車なら2万円だったとします。

農産物を作っても、自動車を作ってもA国のほうがB国より生産性が高いのですが、A国は自動車生産に特化し、B国は農産物に特化したほうが、どちらの国にも貿易上有利になります。A国は農業生産でもA国より生産性が高いのですが、A国の国内では農業より自動車産業のほうが実入りが良いので、皆自動車産業に従事しようとします。逆に、B国では自動車産業のほうが農業より実入りが良いのですが、自動車産業ではA国に対し競争力がないので、農業に皆従事することになります。

実際には、貿易は二国間だけではありませんし、実入りがよくても誰もが割りの良い就職口にありつけるわけではないので、話はもっと複雑ですが基本は同じです。テレビのコメンテイター氏は、外国、たとえば中国に対し、比較優位のない農業に従事するより、コメンテイターをしているほうが実入りがずっと良く競争力もあるのです。

TVのコメンテイターには誰もがなれるとは限らないのですが、ワーキングプアと呼ばれる人たちさえ、大部分は農業より比較優位の原則で有利な仕事についているはずです。要は農業など稼ぎが悪くて、日本ではやりたがる人は少ないのです。

それにしてもなぜ日本だけ、他の先進諸国と比べて、かくも農業の生産性が低いのでしょう。ひとつには日本は狭い上に山岳部が多く、ヨーロッパ諸国と比べても、耕地可能面積が少ないことがあります。国民一人あたりの耕地可能面積で見ると、フランスが0.3ヘクタール、イギリス、ドイツが0.1ヘクタール前後なの対し、日本は0.03ヘクタールです。

日本人が長い歴史を通じて営々と耕してきた、山間部の段々畑などは大型機械での耕作には適していません。日本が農業で競争力を持つのは、基本的に難しいように思えます。しかし、耕地可能面積が小さいことは、必ずしも原因の全てではありません。

実は、どの国でも耕地可能面積の中で、農地にしている部分はほんのわずかです。フランスでは耕地可能面積の6%が農地ですが、ドイツでは2%以下、日本でも8%です。イギリスにいたっては1%以下に過ぎません。耕地可能面積の狭さは問題の一部かもしれませんが、自給率向上の根本的な障害ではありません。

日本の農業の大きな問題は、生産高に比べ異常なほど農業従事者が多いことです。日本の農業人口は国民の1.8%ほどですが、ドイツ、イギリスでは1%以下、食料自給率が122%と日本の3倍もあるフランスでも、1.2%です。日本の農業は一人当たりで考えると生産性が著しく低く、そのため経済的に農家が沈滞し、その結果また自給率も生産性も下がるという悪循環に陥っているのです。

現在の日本の農業は兼業が前提です。しかも、兼業農家の多くは地元で唯一の産業ともいえる、公共事業をあてにした土木事業に従事しています。公共事業の削減は農家を直撃することになります(また公共事業ですか)。長年、生産性の低かった日本の農業を支えたのは、出稼ぎを含む兼業と、国際価格から見て数倍に維持された米価です。

食事の欧米化が進む中、米の消費量は激減しました。零細な農家でもかろうじて採算のとれていた米作は過剰となり、財政赤字と国際的圧力の前で、米価は大幅に切り下げられてきました。端的に言って、日本の農業政策は「産業」としての視点を欠いたまま、農業従事者への所得保障という面ばかりが強調され、結果として崩壊に向かっているのです。

低い食料自給率は国家の危機って本当?

最近サブプライム問題でアメリカ住宅市場が崩壊して、投機資金が穀物取引に向かって穀物が高騰しているとか、マグロを中国人が好むようになってきて日本人が「買い負け」しているとか、日本の食料自給率が低いことで、日本人が食料を得られなくなるというセンセーショナルな論調がよく聞かれます。

これは全く馬鹿げた議論としか言いようがありません。価格の高騰と、供給の不足が混同されているのです。確かに、穀物の値段が上がれば、日本人の買う食品の値段も上がります。良いことではありませんが、金さえ出せば供給がなくなることはありません。世界全体を考えれば、穀物の奪い合いになれば、負けるのは貧しい国々です。香港の金持ちに最上級トロを取られるようなことはあるかもしれませんが、日本が「買い負け」などするはずがありません。

戦争になって食糧輸入が途絶えたらどうするのか、という心配もあります。しかし、これは富士山が爆発したらどうしようかという程度の確率の設問です。かりに、日本が中国と戦争して、海上封鎖をされたらどうするのかというのなら、自給率の改善を考えるより、軍事力の増強を考えたほうが、備えとしては現実的かつ有効でしょう。

だいたい食料の輸入がまったくできないのなら、99%以上輸入に頼っている石油も入ってきません。農機具も動かせず、農薬や、肥料も使えず、できた農産物を移動させることもできません。手に入った食料の煮炊きも都会では困難です。食料自給率だけ取り上げて、高いの低いのと言うことは無意味です。

江戸時代は石油なしで食料自給を果たしていましたが、そのために糞尿を徹底的に活用しました。江戸には周りの農家が糞尿を買いにやってきたので、江戸の市民が糞尿の処理に頭を悩ます必要はありませんでした。見事な循環型社会ですが、糞尿に混ざっている寄生虫が無限に循環するという衛生情況でした。こんな状態に戻れと言うのでしょうか。とても現在の日本人が受け入れられるものでありません。

話題の食の安全はどうなのでしょうか。食物は体内に入るわけですから、安全性が最重要であることは間違いありません。数年前まで中国産の農産物は残留農薬が付着している危険がありました。しかし、実際にはもはや危険はほとんどありません。

このようなことを言うと反発を感じる人が多いと思いますが、BSEも含め輸入食品で死亡事故を起こしたという話は皆無です (もっとも餃子の農薬混入事件は危険な段階になりましたが)。今でも食中毒が、報告されるものだけで年間千件、死亡事故が10人程度起きていることを考えると、家庭での食品保存や調理のほうが実際にはよほど注意が必要です。

食料自給率は農業政策失敗の隠れ蓑

農業政策が失敗し国際競争力の低い、日本の農業を守る根拠の一つが食料自給論です。日本の高すぎる米価を批判されるたびに、政治家や官僚はありとあらゆる論理を考え出しました。「米は日本の文化」「米作は環境維持に必須」など、価格以外の価値を強調することで、農産物とくに米の自由化に反対してきました。

その中で、考え出されたのが食料自給率という考え方です。ここまで日本の食料自給率を40%としてきましたが、これはカロリーベースの計算で、価格ベースで計算すれば70%をわずかに切ったくらいです。カロリーベースで計算するというのは、穀物に大きな比重をかけるやり方です。米作から野菜や果物に転作すれば、普通はカロリーベースでの自給率は下がります。

穀物は日本人の食生活が、パンやスパゲッティーのような欧米の主食に置き換われば、米から小麦へ需要が変わるので、それだけでも低下します。カロリーベースの食料自給率を維持しようとすれば、米の完全自由化などとんでもないということになります。

日本の食料自給率が低くなる理由として、耕作可能面積が狭いことと、農業の崩壊をあげました。しかし、金額ベースで70%の自給率というのは必ずしも低い値ではありません。米価の維持や、土木事業への資源配分が行われる中、それでも日本の農家は付加価値の高い、飽食の日本人に好まれる産物を作ってきたのです。

食料自給率を安全保障や危機の観点で、論じるのはコストを無視しろというメッセージと考えられます。成田空港や、羽田空港が外資に狙われると国交省は大騒ぎをしていますが、問題視している根拠はテロリストが入国しやすくなるとか、言いがかりとしか言いようのないものばかりです。国交省の役人の本音は重要な天下り先である、空港会社が外資に支配されて、天下り先がなくなることを恐れているのです(天下りを考えるを参照してください)。食料自給率というのは農水省発のプロパガンダと言っても過言ではないでしょう。

食料自給率の論議を聞いていると、農業に対し特別な思いがあることがうかがえます。農業は食料を作る、人間の生きる源を作るという意味で特別なものはあるのかもしれませんが、産業として考えれば経済原則の適用を免れるわけにはいきません。農業は産業ではない、心の問題だとまで言ってしまえば、農業は宗教になってしまいますが、口で農業は大切と言っている人たちも大部分は自分で農業をする気はないわけですから、あまり熱心な信者はいないようです。

低下する一方の食料自給率と、食の安全をからめて話をされると、どうしても「日本の農業を復活させろ」というふうに話は傾きがちです。しかし、低下する食料自給率は、経済原則に従った結果であり、経済原則にしたがった方法しか本当の解決策はありえません。役人の脅しに乗る前に、少し冷静になる必要がありそうです。
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この記事に対するコメント

最近中国餃子問題を食糧自給率に絡めて話す評論家が多いですね。
これで世論が食糧自給率が低いから大変だ、となると農水省の思うツボでしょう。
食糧自給率が安全保障の話ではなく、予算バラマキ・利権の話になってくるからです。
ここは冷静に考える必要がありそうです。

しかしホントに農水省って必要ですかね?私は潰しても問題ないように思えるんですが。
【2008/02/14 12:59】 URL | KS #- [ 編集]


お金さえ出せば、食料は入ってくるものとは思えません。
今後、水資源は食糧問題以上に逼迫するような気がします。
というか、戦略的な兵器以上に圧し掛かってくる『圧力』と考えています。
阪神大震災のとき、水や食料は少しの間、我慢して待っていれば持ってきていただけました。
全日本がその状態になれば、救いの手は何処の誰でしょう?
【2008/02/18 14:43】 URL | なにわダンディ #- [ 編集]

金さえ出せば食糧は入ってきます
コメントありがとうございます。

金さえ出せば食糧は入ってきます。それどころか禁止しても北朝鮮の松茸やウニのように監視の目をかいくぐっても入ろうとします。水資源は世界的に貴重ですし、輸入食品や原材料を生産するために使用した水を考えると、日本は水も大量に輸入しています。だからといって、ダムを作っても、土建業者が喜ぶだけで、食糧自給に役に立つということもありません。

食料に限らず、石油もレアメタルも金さえあれば何でも手に入りますし、金がなければ何も手に入りません。食料が自給できる国でも、貧しく飢えた人がいる国もあります。ソ連時代のロシアは輸送システムが不備で、産地で大量の農産物が腐ることが日常的でした。公平な分配制度、物流システムがなければ(阪神大震災は一時的にそのような状態を作り出しました)、食糧は不足します。

もし、日本が飢えてしまうようなことが起きるのが心配なら、金塊を少し貯め込んでおけばよいでしょう。第一次世界大戦後の大インフレのドイツでは金貨数枚が生死を分けたと言われています。本当に困った事態に日本国が陥ってしまった時に、外国も自国の政府もあまり期待しないことが大切です。

【2008/02/18 21:32】 URL | RealWaveConsulting #- [ 編集]


前の記事へのコメントで申し訳ないです。検索したら出てきたもので。

私は職業柄、国内自給率を重要視しています。でも、いつでも自分の意見はニュートラルに保ちたいと思っています。この記事については納得ができました。なるほど。

お金を出せば食料は入る。
荒っぽく聞こえますが、それが経済の基本ですものね。
ただ、日本が技術でお金を稼ぐと食料が入ってくる考えると、今の日本は技術も若干弱くなってきて、食料は弱いわけで少し不安でありますが・・・。

本当に困ったことになったとき・・・。それで個人の資金がないならば、みんなで自給自足するのがいいのかもしれませんね。
【2008/08/30 08:01】 URL | へるまーた #- [ 編集]

レアアースも入手できないのに食料が入手できるの?
ブログ主様

金があってもレアアースは入手できないことが尖閣事件でわかりました。
レアアースが入手できないのに、食料は入手できるのでしょうか?
政治的なリスクを考えるとリカード理論は全能とは思えないのですが・・・。

【2010/11/08 01:21】 URL | レアアースも入手できないのに食料が入手できるの? #- [ 編集]

Re: レアアースも入手できないのに食料が入手できるの?
> ブログ主様
>
> 金があってもレアアースは入手できないことが尖閣事件でわかりました。
> レアアースが入手できないのに、食料は入手できるのでしょうか?
> 政治的なリスクを考えるとリカード理論は全能とは思えないのですが・・・。

レアアースも結局は製造業に多いな打撃を与えることなく入手できるようになりました。それはそれとして、レアアースは中国の占有率が非常に高く、しかも中国が経済より政治を優先する権力主義的な国という点で、食糧輸入とは違います。

食料の輸入がどこまで可能かという質問は、輸入する金をどこまで払えるかということと同じです。現在の世界で飢えている人は全て金がないから飢えていて金があっても飢えている人はいません。これは国内の小さな世界でも世界全体でも同じです。北朝鮮の飢えは北朝鮮の貧しさのせいで国際社会から孤立したせいではありません。食料輸入が心配なら農業を保護するより、輸出産業の振興を行った方が良いでしょう。
【2010/11/10 06:44】 URL | RealWave #- [ 編集]


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