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馬場正博: 元IT屋で元ビジネスコンサルタント。今は「A Thinker(?)]というより横丁のご隠居さん。大手外資系のコンピューター会社で大規模システムの信頼性設計、技術戦略の策定、未来技術予測などを行う。転じたITソリューションの会社ではコンサルティング業務を中心に活動。コンサルティングで関係した業種、業務は多種多様。規模は零細から超大企業まで。進化論、宇宙論、心理学、IT、経営、歴史、経済と何でも語ります。

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ワシントンベービーシッター協同組合
WBC.jpg

ベビーシッター協同組合の経済モデル

昨年ノーベル経済学賞を受賞したアメリカの経済学者のクルーグマンは、コラムへの寄稿や一般向けの経済著書を多数書いていることでも知られていますが、その中で経済政策をわかりやすく説明するために、ワシントン・ベビーシッター協同組合(Washington Babysitter Co-op: WBC)というモデルを何度か使っています。

WBCの話はクルーグマンも書いているように、彼のオリジナルではなく、Joan and Richard Sweeneyの"Monetary Theory and the Great Capitol Hill Baby-Sitting Co-op Crisis." という記事が元になっているのですが、単なる比喩を超えて、通貨政策、マクロ経済を理解するすぐれた経済モデルになっています。

WBCは架空の話ではありません。1970年代に実際にワシントンで働いていた150組ほどのカップルが、お金を節約しながら、安心できるベビーシッターに子供を預けたいという要望を満たすために仲間内で作ったものです。WBCでは会員は他人の子供を1時間預かると、1時間分のベビーシッターをしてもらう権利の証書を得ることができます。

信頼できる人同士で作るこのようなグループは、当時一般的だったようで、参加者は相互に利益を得ることができました。ところがWBCでは、ある寒い冬に問題が起きます。普通どのカップルも必要な時に備えて、証書をある程度ため込んでいたのですが、寒さで皆あまり外出せず、ベビーシッターを頼むカップルが減ってしまい、ベビーシッターをして証書を得るチャンスが減ってしまったのです。そうすると、多くのカップルが自分のため込んだ証書では不十分ではないかと感じ始め、気楽に証書を使ってベビーシッターを頼むのを控えるようになりました。

皆がベビーシッターを頼むのを控えるようになると、証書を受け取れる機会はますます少なくなります。そして、皆はますます証書をため込もうとします。これはベビーシッターの需要が一層減少することを意味します。そうです、WBCは需要不足による不況に陥ってしまったのです。

WBC準備銀行の不況対策

もともとWBCを最初に始めたときは、誰もまだ証書を持っていません。しかし、それでは誰もベビーシッターを頼むことができず、システムは全くスタートできないことになります。そこで最初に加入したとき、加入者が信頼できるという条件(これは仲間内で作ったグループなので大丈夫です)で、何時間分かの証書を渡しておくことが必要です。この最初に証書を渡す仕組みをWBC準備銀行、WBCRBとよぶことにしましょう。WBCRBはWBCのシステムの中央銀行です。

WBCが不況に陥った時にWBCRBはどんなことをすればよいのでしょうか。証書を皆が貯め込むことで不況になってしまったのですから、余分な証書を皆に貸してあげるのです。そうすれば、皆もしもの時のために証書を貯め込むことをそれほどしなくなるでしょう。この証書は誰かがベビーシッターをしたことに対して発行されたものではありません。将来ベビーシッターをするだろうと信用して証書を貸し出すわけです。つまり「信用」が作り出されたことになります。

ただ、WBCRBがいくらでも証書を貸してくれるのなら、誰もベビーシッターをしなくなります。そこでWBCRBは証書を貸し出す時に、利息を取ることにします。つまりWBCRBから1時間分の証書を借りると、利率に応じて、それより少し長めにベビーシッターをしなくてはいけないことにするのです。

WBCRBはここでシステムを一歩先に進めます。ベビーシッターの需要は季節により変動しますが、ベビーシッターの需要が少ない季節には利率を低くし、逆の時には利率を高くするのです。そうすればベビーシッターの需要が少ない時に、証書を借りてベビーシッターを頼もうとする人が増えるでしょう。WBCRBは証書貸出の利率を変えることで、ベビーシッターの需要をコントロールすることができることになります。

この問題を解決するために、新たにどのカップルも一月に一度は外出するようにという規則をつくることも考えられます。 実際のWBCも、そのメンバーの多くが弁護士だったので、そのような解決策をまず考えました。しかし、もともと参加メンバーに与えられる証書があまりに少なければ、無理に外出すると貯えがすぐになくなってしまうで、かえて外に出るのを嫌がるようになる危険があります。結局、WBCの不況の原因がWBCで流通している証書の量が少なすぎる場合には、規則ではなくWBCRBが証書を増加させる、つまり証書を貸しで信用創造を行うという通貨政策が必要ということになります。

さて、WBCRBが通貨つまり証書の流通量を増やすことで、どのようなことが起きるでしょうか。ここから先はクルーグマンは触れていないのですが、証書を貯め込む必要が少なくなったので、多くの人は外出を増やすでしょう。その結果、新しい趣味を見つけて、もっと外出が増えるということもあるでしょう。WBCの経済は拡大に転じることができるようになったのです。もちろん夫婦で外出することが増えることで、夫婦仲が円満になることも期待できます。そこでもっと子供を作ろうということにでもなれば、需要はさらに増加します。WBCはWBCRBの経済政策がうまく機能して、力強い成長を続けることができることになります。


大不況に立ち向かうには-定額給付金も悪くない

WBCRBは利率を変えることで需要をコントロールすることができるようになりましたが、利率を少しくらい下げても、将来証書に利率をつけて返せる見込みがなければ、どのカップルも外出を控えるようになるかもしれません。これは極端に需要が落ち込んで、将来の収入に対する期待値を皆大幅に切り下げてしまうという、大不況あるいは恐慌とも言うべき状態です。ここまでくると証書の利率を下げるという単なる不況対策では解決できません。このような時は、証書を貸し出すのではなく、何時間分かただで配ってしまうことで確実な効果が得られます。そう、定額給付金のように返済の必要のない証書を配ってしまうのです。

しかし、ここで考えなくてはいけないのはどのくらいの時間分の証書を配ればよいかということです。10分、20分程度ではただで証書をもらったからといって、外出の機会をそれほど増やすとは思えません。かといって何十時間分も証書を配ってしまったら、実際に会員がベビーシッターをできるより、ずっと沢山の証書が流通してしまうことになります。そうすると、誰も1時間分の証書で1時間のベビーシッターをするのを嫌がって、実際の時間より水増しした証書を渡さなくてはいけなくなります。WBCはインフレになってしまうわけです。

恐慌状態になった時に、どれくらい証書をただで配ればよいかは、色々な条件が関係するでしょう。WBCがコンスタントに会員を増やしているのなら、会員の増加に応じて証書の流通量を増やさなければなりません。極端にベビーシッターを頼む人が減ってしまって、とにかく証書を貯め込んで、利率のかかる証書の借入を返済してしまいたいと、多くの人が思い込んでいるなら、ある程度まとまった証書を渡してあげる必要があります。いずれにせよ、ベビーシッターの需要が落ち込んで、利率がほとんどなくても、証書を借りてまでベビーシッターを頼む人がいなくなった時は、思いきった政策が必要になります。

バブル経済で落ち込んだ日本経済は利率がほとんどゼロに近づいても、経済成長を行うことができませんでした。その日本経済を不況から救ったのは、アメリカの旺盛な需要でした。しかし、そのアメリカの需要に依存した日本経済は、アメリカと一緒になって大不況に突入してしまいました。

利率ゼロで成長できなかった経済を救うには、ただで証書、つまりお金を配ることです。配る方法は、公共投資、社会福祉色々あるでしょうが、みんなにとにかく等しくお金を配る定額給付金は決して愚策ではありません。ただし、一人当たり1万2千円というのは、多分10分間のベビーシッター証書程度の効果しかないでしょう。外に出かける気にするには、少なくとも2時間程度、定額給付金なら20万円くらいは必要なはずです。かかる費用は25兆円ですが、1,400兆円の個人金融資産から見ると2%にもなりません。第一もう7百兆円とか8百兆円も国債を積み上げてしまっているのですから、いまさら20兆円や30兆円増えたところで、何だというのでしょうか。WBCでは会員たちは寒い冬に出かけることもままならず、家で退屈な時間を過ごさなければいけませんでした。しかし、派遣切りで住む場所も奪われた人たちは、それすらままならないのです。

派遣村
派遣村に集まった人々

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この記事に対するコメント
どーもです!
はじめまして!

ちょっと興味を持ち拝見させていただきました♪

ヨロシクです(^^)v
【2009/03/01 21:31】 URL | ★なべちゃん #- [ 編集]


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