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馬場正博: 元IT屋で元ビジネスコンサルタント。今は「A Thinker(?)]というより横丁のご隠居さん。大手外資系のコンピューター会社で大規模システムの信頼性設計、技術戦略の策定、未来技術予測などを行う。転じたITソリューションの会社ではコンサルティング業務を中心に活動。コンサルティングで関係した業種、業務は多種多様。規模は零細から超大企業まで。進化論、宇宙論、心理学、IT、経営、歴史、経済と何でも語ります。

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チキンゲームは慎重に
Tepodon.jpg

チキンゲームを買った日本

もともと、北朝鮮というチキンゲームの専門家(?)に対し、日本はアメリカの後について、比較的安全なポジションでチキンゲームに参加していました(チキンゲームは終わらない)。その上、さらにちゃっかりとミサイル防衛網を作り上げるという、世界でも例のない有利な位置に立つことに成功しました(チキンゲームはゲームはもう終わり?)。

チキンゲームで相手を翻弄しているはずの北朝鮮に対し、日本はそれなりに結構うまく立ち回っていたはずなのですが、今回、北朝鮮が始めたテポドンを打ち上げを予め発表するるというチキンゲームに、今度は自分が先頭を切って参加することになってしまいました。北朝鮮のテポドン発射計画を受けて、日本はミサイルが落下したら撃墜すると言って、PAC3を秋田に配備したのに対し、北朝鮮は「そんなことをしたら日本に反撃する」として対抗しています。

現時点(2009・4・3)では、アメリカはゲーツ国防長官が「アメリカには飛んでこないので撃墜しない」と言明していますし、韓国に至っては、秋田でロケをしている韓流スターの身の安全を気にする報道があるくらいで、北朝鮮のミサイル発射に大した脅威を感じていないようにさえ見えます。ロシアや中国は、北朝鮮を支持するまではしませんが、とりたててテポドン発射に制裁を加えようとはしていません。

結局、北朝鮮の仕掛けたチキンゲームに真面目に反応しているのは日本くらいです。これはチキンゲームを使って、自分の都合の良いように事態を動かそうとしている北朝鮮にとっても、あまり面白い状況とは言えません。チキンゲームは、相手が対抗手段に、より強烈な対抗することで展開されるからです。

チキンゲームの必勝法

チキンゲームは、もともとアメリカのカリフォルニアあたりのいかれた若者たちが、全力で二台の車を正対して疾走させ、恐怖に駆られて先にハンドルを切って回避行動を取った方を「チキン(チキン:臆病者)」と言って罵るゲームが語源です(チキンゲームと北朝鮮)。

チキンゲームの必勝法は相手に「自分は相手より勇敢だ(あるいはよりアホだ)」と信じ込ませることです。つまりチキンゲームに勝つには、相手に自分が破滅することを全く躊躇しないほどイカレていると思いこませることなのですが、自分を無茶苦茶なアホだと思わせることにかけて北朝鮮より優れたプレーヤーはいません。

北朝鮮が本当にそう思い込んでいるかどうかは実はわからないのですが、北朝鮮の内情が非常に分かりづらく、外に出てくる言葉は過激なものばかりですから、どうしても相手はハンドルを切ってしまいたくなってしまいます。

チキンゲームの必勝法を実行する(つまり、アホに徹する)には、自分の意思がそれほど強くないと思っている場合は、ハンドルを固定してしまう方法もあります。米ソの冷戦時代、双方はいったん相手が核攻撃をしかけたら、潜水艦その他多くの核兵器が、ほぼ自動的に反撃するようになっていました。命令を出す大統領が死んでいても、反撃は行われるわけです。このような仕組みがあれば、ブラフで相手を脅かしてチキンゲームに勝つ方法は通じなくなります。ただし、この方法は相手にハンドルが固定されているということを、きちんと知らせ、信じさせる必要があります。

この他チキンゲームの必勝法には、本当に正面衝突してしまっても、何ともないように車を丈夫に作っておくというやり方があります。少なくとも90年代まではアメリカは北朝鮮に対し、そのようなポジションをほぼ保っていました。行くところまで行って戦争が勃発しても、北朝鮮は滅亡するが、アメリカを直接攻撃する有効な手段はなかったからです。

日本のミサイル防衛システムが100%有効に機能してくれれば、日本もそれに近い状態になれます。ミサイル攻撃さえ防げれば、北朝鮮が日本を攻撃する手段はほとんどありません。ゲリラを潜入させて、原子力発電所を攻撃することは考えられますが、よほどうまくやらない限り大規模な成功は覚束ないでしょう。しかし、100%の成功確率を断言することは誰にもできないでしょう。

本当に戦争になったらどうなるか

チキンゲームを続けてお互い譲らなければ、最後は正面衝突になってしまいます。北朝鮮との関係では戦争です。ノドンやテポドンが、もしかすると核兵器を搭載して日本に飛んでくることになるでしょう。

日本がどの程度の被害を蒙るかはわからないのですが、下手をすると十万人単位で死亡者がでることになります。最悪のケースとして東京に原爆を落とされたら、かなり致命的な事態となります。

なぜかノー天気な韓国はもっと深刻な事態になるでしょう。韓国には同一民族の北朝鮮が韓国を攻撃することはないと思っている人が沢山いますが、常識的には一度戦争状態が始まると、北朝鮮が攻めてこないということは極めて考えにくいことです。

日本が攻撃されると、安保条約を結んでいるアメリカ軍も北朝鮮を攻撃します(これは「期待」でしかないのですが、条約の存在やアメリカの世界戦略から相当蓋然性が高いと考えてよいでしょう)。その前に、北朝鮮は韓国のアメリカ軍を攻撃するかもしれません。いずれにせよ、38度線に張り付いている、大砲、ミサイルはソウルを一斉に攻撃するはずです。被害者は数百万人に達するかもしれません。

下手をすると地上戦は北朝鮮全部が硫黄島になったような凄惨なものになりかねません。少なくともイラク軍のように簡単に北朝鮮軍が屈伏することはありそうもありません。そのため、朝鮮半島での戦闘でアメリカ軍が核兵器を使う可能性は小さくありません。

それでも最後は北朝鮮は崩壊するでしょう。しかし、その前には何百万人の犠牲者がでている可能性があります(多分そうなるでしょう)。そして戦争が終われば、疲弊し飢えた北朝鮮の面倒を全面的に見る必要があります。つまり、戦争が起これば北朝鮮は国がなくなり、勝った方も甚大な損害を受けた挙句に面倒な問題を抱え込むことになります。

日本はどうすればよいのか?

このチキンゲームは正面衝突までいくと、北朝鮮は絶命、韓国は大打撃、そして日本にとっても命は失わなくても、新品の車を滅茶苦茶にされる程度の事態が予想されます。アメリカも、中東で大忙しなのに、その何倍もの負担を背負い込むことになります。つまり、チキンゲームの結末を容易に受け入れる国はないと言えます。

それでも、北朝鮮は自分が得意とするチキンゲームに相手を引きずり込もうとします。少なくとも過去はそれで利益を得てきたし、将来も必ず相手はハンドルを切るだろうと踏んでいるのです。

こんな北朝鮮に、日本のような国が正面切ってチキンゲームを買って出るのは、とても賢い選択とは思えません。「毅然として」とか「断固として」という勇ましいことを言うのは気持ちが良いのですが、相手はその程度で怯むようなヤワではありません。

北朝鮮のようなチキンゲームをほとんど職業としているような、無頼漢とチキンゲームを戦うのは持っているものが多い方(つまり失うものが多い)がむしろ不利なのです。ではどうしたらよいのでしょう。

必要なことはチキンゲームを成立させないことです。北朝鮮にとっては相手は強い態度に出れば出るほど、より強いカードを切る名目が立つので、状況は有利になります(あくまでも自国民の利益などまるで考えないからできることなのですが)。そんな相手には、相手の手に一つ一つ応えて、どんどん掛け金を増やすようなことをせず、不確実な対応、言い換えればチキンゲームに参加しているかどうか、はっきりしない態度に出る方が有効です。

本当は迎撃態勢など作らず、「節度ある行動を求める」程度で半ば黙殺するのが良いのですが、実際は世論の手前もあり、そのような対応は難しそうです。まして、ミサイルが落下して、人命に被害でもあれば、放置するのは国内政治として極めて困難だと考えられます。しかし、仮に日本人の死者が出ても北朝鮮は「余計な迎撃などしたから、本来出ない被害が出てしまった」などと言って、知らんぷりを決め込むでしょう。

その時、さらに断固とした対応を続ければ、最後は戦争するか、どうするかというところまで行ってしまうでしょう。そうなれば北朝鮮が断然有利な立場に立ってしまいます。戦争を止めるために日本は妥協的な政策をとらざる得なくなってしまうからです。気の違った相手にチキンゲームを挑めば、そうなってしまう可能性は高いのです。

第一次湾岸戦争で、イスラエルは何発もイラクからスカッドミサイルを撃ち込まれ、2名の死者を出しましたが、ついに反撃はしませんでした。イスラエルは通常は「目には目を」的な徹底的な反撃を行うのですが、その時は反撃はイラクの反イスラエル連合をアラブに作らせようという陰謀に乗らなかったのです。

北朝鮮は憲法九条至上の宗教的平和主義が通用するような相手ではありません。しかし、だからこそ安易にアルデナリンの放出の赴くまま、「毅然とした態度」を取り続けることは極めて危険です。ピカピカの新車をボロ車に衝突させて壊すような真似は、絶対に避けるべきでしょう。
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