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馬場正博: 元IT屋で元ビジネスコンサルタント。今は「A Thinker(?)]というより横丁のご隠居さん。大手外資系のコンピューター会社で大規模システムの信頼性設計、技術戦略の策定、未来技術予測などを行う。転じたITソリューションの会社ではコンサルティング業務を中心に活動。コンサルティングで関係した業種、業務は多種多様。規模は零細から超大企業まで。進化論、宇宙論、心理学、IT、経営、歴史、経済と何でも語ります。

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ハイジャック撃退装置の作り方
airport-security.jpg

厳しいセキュリティーチェック

空港でうんざりさせられるのは、セキュリティーチェックの長い行列です。特にアメリカは911テロ以来格段にチェックが厳重になり、うっかりすると搭乗便に乗り損ないかねません。今では靴まで脱がねばならなくなり、そのうち全裸でボディーチャックをさせられるようになるというも、あながち冗談とばかりも言えないような状況です。

しかも、持ち込み禁止になる荷物の種類はますます増えています。液体は化粧品、シャンプーの類も含め、一つ100mlまで、合計して1リットルの袋にはいるだけ。リチウム電池は機器に装着しているものはよいが、予備は2個までと細かく決められていて、とても覚えきれるものではありません。

案外なのは喫煙用のライターやマッチは、預け入れ荷物には入れられないのに、機内には1個は持ち込めることです。これは煙草メーカーがアメリカで、売上維持のための強いロビー活動を行った結果です。

煙草メーカーの頑張りで、乾燥して可燃物だらけの旅客機の中に、火をつける道具を堂々と持ち込めることになっているのはどうかと思うのですが、原則は危険物は何も持ち込ませないという姿勢には間違いありません。

ところが、旅行客に多大な時間を強いて行っているセキュリティーチェックは完璧には程遠いというのが現状です。多少旧聞に属しますが、911テロの翌年、2002年にアメリカ政府が行った覆面テストでは、主要32空港で24%は武器(ただし玩具)をセキュリティーチェックを通過させることができました。特にロサンジェルス空港、ラスベガス空港はそれぞれ40%、50%通過率でした。2回に1回は見逃してしまったわけです。

これとは別にアメリカ運輸省の行った覆面テストでは、銃器の30%、ナイフは70%、爆発物も60%が見逃されてセキュリティーチェックを通過しています。これでは何のために長い時間行列に並ばされるかわからなくなってしまいます。

指摘されたことの一つにセキュリティーチャックを行う職員が時給6-7ドルとマクドナルドの店員並みの給料だということです。マクドナルドの従業員が不真面目だということはないのですが、殺気立った乗客を相手に、X線画像を見続けながら確実に危険物を見つけ出すというのは、それほど簡単な仕事ではありません。セキュリティーチェックがハイジャック防止の最後の砦だと考えると、かなり不安が残ります。

もっとも、仮に半分でも凶器の類を発見できるのであれば、組織的なテロ集団がハイジャックを行うことの相当な抑止力にはなるでしょう。少なくとも正面切って武器を機内に持ち込もうとはしないはずです。

しかし、個人的な、もっと言うと頭のいかれた人間が正々堂々(?)武器を持ち込む場合、すべては防ぎきれないだろうというのは事実です。ただ、頭がいかれていても、ハイジャックを行おうという人間は、意外なほど緻密に犯罪計画を立てることも多いので、そのような連中を防止することはできます。

現在の厳しいセキュリティーチェックは、それなりの効果があることは期待できますが、膨大な設備や人件費は大きな負担です。911テロ後、アメリカでは緊急に空港のセキュリティーチェックのレベルを高くするために、250億円が必要とされました。

その後継続的に発生する運営費、さらに旅行客の時間ロスを考えると、ハイジャック防止のコストはほとんど天文学的です。テロリスト達の目的が西欧文明社会に損害を与えることだとすると、それはかなり達成されたことになるかもしれません。

それでもハイジャックは起こるかもしれない

そこまで犠牲をはらっても、ハイジャックが完全に防げるかと言うと、誰も確信は持てないでしょう。セキュリティーチェックで完全に危険物を発見できない以上、個人的で無茶な犯罪者が武器や爆発物を持ち込む可能性は否定できません。

組織的なテロ集団はセキュリティチェックの正面突破をはかることはしないかもしれませんが、空港関係者を買収したり脅迫したりして、セキュリティーチェック後に武器を入手することはあり得るでしょう。

問題はハイジャック防止はすべての空港が同じように厳しく実施しなければ、効果が著しく低下してしまうということです。航路によってはバスのようにいくつもの空港を経由して目的地に到達するものがありますが、トランジットで乗り入れる空港の中で、従業員管理やセキュリティーチェックがいい加減がところが一つでもあれば、武器の持ち込みはできてしまいます。

危険物も液体は何でもかんでも100ml越えてはダメとされていますが、化学に詳しければ機内で致命的な損害を与えるような爆発物や毒物を作ることは可能でしょう(そんなレシピがネットで広まったりしないことを祈りますが)。

セキュリティーチェックも、身につけているものは金属探知機が頼りですから、硬質プラスチックでナイフを作れば通過できてしまいます。その程度の武器でも、軍事訓練を受けた人間が数人いれば、機内を制圧するには十分でしょう。

911テロでも、ハイジャックに参加せずに逮捕された、アルカイダのメンバーの何人かは「筋力」でハイジャックを行うように訓練されていました。ハイジャックされた3機の飛行機のうちユナイテッド93のハイジャック犯人はナイフを持っていたことが確認できていますが、他の飛行機については不明で、素手で乗っ取ってしまった可能性もあります。

ハイジャック撃退装置

アメリカやイスラエルではスカイマーシャルと称する、武装した当局係官を乗務させています。日本でもスカイマーシャルの制度はあり、アメリカ行きの便に配備されることはあるようです。どのような装備で何人くらい乗務するかは非公開ですが、実際には全ての便ではなく、一部にとどまっているようです。スカイマーシャルが配備されている場合は、パイロットはコックピットに立て篭もり、ハイジャック犯への対応はスカイマーシャルに任せることになっています。

しかしスカイマーシャルがいても、ハイジャック犯がスカイマーシャルの手に余るような人数である可能性もあります。また、日本の対応がそうであるように全ての便にスカイマーシャルを乗務させることは費用や体制の面で、それほど簡単なことではありません。スカイマーシャルの存在が伏せられていることで、組織的なハイジャック犯に対し一定の威圧効果を期待するというのが現実的なところでしょう。

もっとスマートに、ハイジャック犯を睡眠ガスで眠らせてしまうようなことはできないでしょうか。飛行機は密封されていますし、緊急時に酸素マスクで酸素を供給するように配管ができています。パイロットも眠ってしまうと困りますが、操縦席の換気を別系統にするとか、パイロットがマスクを着用すれば解決できそうです。

手術の際、麻酔で良く用いられるものに亜酸化窒素または笑気ガスと呼ばれるものがあります。ありふれたもので、安全性も高いのですが、眠らそうとすると、少なくとも呼気の30%以上、確実性を考えると60%程度の濃度にする必要があります。これではいくら密封された空間といっても相当量を積み込んでいなくてはなりません。

しかも、笑気ガスも通常は単独で使われることはなく、静脈注射を別に行って、笑気ガスは鎮痛効果などのために用いられるのが普通です。おまけに、笑気ガスの催眠作用は持続的なものではなく、吸入し続けなければ比較的簡単に醒めてしまいます。沢山の乗客が乗り込んで機内の空気の換気を行わないわけにはいきませんから、短時間しか有効ではないことになります。

他の麻酔ガスはどうでしょうか。犯罪ドラマなどでクロロフォルムを染み込ませたハンカチを口にあてて誘拐してしまうというシーンが出てきたりしますが、クロロフォルムはそれほどの即効性はありません。笑気ガスと同様に、静脈注射などと併用するのが普通です。一気にハイジャック犯を黙らせる役には向いていません。

それにクロロフォルムは可燃性があります。クロロフォルムに限らず、麻酔ガスの多くはエーテル系で可燃性があるため、電気メスを使う最近の手術では使われることがなくなってしまいました。飛行機の中で可燃性のガスを充満させるというのは、ハイジャック犯で考え付かないような恐ろしい仕業ですから、とても使うわけにはいきません。

麻酔ガスに限らず、人の意識を完全に失わせるような薬物の使用は危険を伴います。手術の場では専門の麻酔科医が慎重に患者の様子を観察しながら、薬物の投入量を調整します。簡単に眠らせ、追加の投入がなくても効き目が持続し、しかも安全、こんな麻酔ガスがあれば麻酔科医は失業してしまうでしょう。どうも麻酔ガスでハイジャック犯を撃退するというアイデアは難しそうです。

モスクワ劇場占拠事件

ここまでは、物騒ではありますが、思考実験のようなものです。実際に麻酔ガスを使って、人質犯に対応するというのは、他にどんな手段があるか、使用環境が適しているかどうかなどを相当慎重に考えなければならないでしょう。本当に効果があるかという点でも、実験してみなければわかるものではありません。ところが、ハイジャックではありませんが、ロシアは麻酔ガスを使った人質奪還をいきなり実行してしまいました。

911テロの翌年、2002年の10月23日から26日にかけて、チェチェンのからのロシア軍撤退を要求する42名のチェチェン独立武装勢力が、モスクワのブロフカ・ミュージアム劇場を観客922名を人質に占拠しました。

この4日におよぶ占拠事件は、ロシアが特殊部隊スベツナズが突入させ、武装勢力を全員殺害することで終了したのですが、この時ロシア軍は突入時に、催眠ガスであるKOLOKOL-1を使用しました。KOLOKOL-1はモルヒネの200倍の鎮痛効果のあるフェンタニル系の薬物で、1-3秒で効果をあらわし、6時間程度持続すると言われています。

KOLOKOL-1が武装一派の制圧にどれほど効果があったか不明ですが、人質は922名中129名がガスのために中毒死しました。強力な麻酔ガスを劇場のような大きな空間で多数の人質がいる中で使用するというのは、先進民主主義国家ではほとんど考えられないような暴挙です。空間が広いと均一なガス濃度を作るのが難しく、死者の多くは非常に高い濃度のKOKOLO-1に曝されたと考えられます。

狭い航空機の機内であれば、より小さな被害でもっと大きな効果を得た可能性はあります。しかし、これを見ても麻酔ガスを使うのは非常に危険の大きな方策だということがわかります。

ハイジャックに遭遇したら

ハイジャックに遭遇してしまったら、どうしたらよいでしょうか。生死の不安に脅かされながら、長い時間を耐えなければならないことを考えると、とても楽しい経験とは言えません。しかし、飛行機ごと爆弾兵器に仕立ててビルに激突するという911テロが出現するまでは、ハイジャックで乗客が殺されてしまうことは非常にまれでした。

日本の航空機がハイジャックされた事件では、1999年にコンピュータゲームのフライトシミュレーターで磨いた飛行機技術を実践して、レインボーブリッジをくぐってみたかったという異常者に機長が刺殺されてしまった以外、死者は一人も出ていません。

しかし、1977年に日本赤軍がバングラデシュのダッカ発の日本航空機をハイジャックした事件で、日本政府がハイジャック犯の要求に屈して「超法規的措置」として服役中のメンバー6名を釈放したことが国際的な非難を浴びて以来、容易ハイジャック犯の要求には屈しないという原則が政府の対応として確立されたと思われます。

この事件をきっかけとして、日本では警察組織に特殊急襲部隊、SATが設立され、ハイジャック、重大テロ事件などに対処することになりました。SATの隊員は高度の訓練を受け、武力によりハイジャック犯から人質を解放することを想定されています。日本政府も、もはや「人の命は地球より重い」と言ってハイジャック犯の要求を丸呑みするようなことはないと考えてよいでしょう。

ハイジャックに対する当局側の厳しい姿勢が、事実上の国際的な合意事項として確立されてきたため、当局と「交渉」しようとするハイジャック事件は、1980年代から減少傾向にあります。1990年以降は組織的なハイジャックはほとんどなくなりました。911テロは交渉によって当局の譲歩を引き出すのではなく、ハイジャックした飛行機を兵器として使うという意表をついたものだったのです。

乗客の側からみると、「ハイジャック犯とは交渉せず武力による解決を行おうとする当局」と「交渉せず破壊による攻撃を企てるハイジャック犯」という、はなはだ危険な組み合わせになってしまっているわけです。ハイジャックされた飛行機に乗り合わせるということは、相当高い確率で命を失うことが予想されるということになります。
terrorism-airport-security.jpg

それでも長い行列は・・・

ハイジャック撃退装置を麻酔ガスベースで作るには、安全かつ強力で素早く効果をあらわし、しかもその効果が長時間持続するようなガスが開発される必要があります。そのようなガスが開発されない限り、ハイジャック撃退装置は作れそうにありません。

とは言っても、ハイジャック犯だけでなく当局も乗客の生命を最重要と考えてくれないとなると、少々不完全でもハイジャック撃退装置を実用化してくれた方がありがたいようにも思えます。そんな装置が全ての航空機に装着されるまで、セキュリティーの長い行列はがまんするしかなさそうです。21世紀になってこんな目に合うとは、誰も予想してなっかのではないでしょうか。
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この記事に対するコメント

>それにクロロフォルムは可燃性があります。

通常の条件では不燃性です。
よっぽど燃えやすい条件にしないと燃えません。

>クロロフォルムに限らず、麻酔ガスの多くはエーテル系で可燃性があるため、電気メスを使う最近の手術では使われることがなくなってしまいました。

エーテル系の吸入麻酔薬は、基本的にはフルオロエーテルなどのハロゲン化エーテルであるため、燃えません。
だからこそ最近の手術ではこれらが選ばれているのです。

作用の早い麻酔薬としては、セボフルランやデスフルランがあります。
ただしこれらはある程度の量がなければ効果がないため、作用は遅いものの少量で効果のあるメトキシフルランと併用するなどの方法が考えられます。

ただ、麻酔薬によっては呼吸を止めてしまうため、そこら辺についてはもっと詳しく調べる必要があります。
【2010/11/30 01:04】 URL | 猫 #- [ 編集]


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