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馬場正博: 元IT屋で元ビジネスコンサルタント。今は「A Thinker(?)]というより横丁のご隠居さん。大手外資系のコンピューター会社で大規模システムの信頼性設計、技術戦略の策定、未来技術予測などを行う。転じたITソリューションの会社ではコンサルティング業務を中心に活動。コンサルティングで関係した業種、業務は多種多様。規模は零細から超大企業まで。進化論、宇宙論、心理学、IT、経営、歴史、経済と何でも語ります。

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スパコン開発中止は正しい判断
EarthSim.jpg
かつては世界最速を誇った国産スパコン「地球シミュレーター」

鳩山首相が「政権の目玉」と位置づける事業仕訳が始まっています。無駄な支出、効率的でない支出、国が行う必要性が乏しい支出を絞り込んで、3兆円以上の支出を切り詰めようという事業仕訳ですが、その中で267億円の次世代スーパーコンピューター(以下スパコン)開発プロジェクトの支出が削減の対象になりました。

このプロジェクトは、秒速1京回の計算を行い2012年に予定されている完成時点で世界最高の性能を持つスパコンを開発しようというものです。野心的なスパコン開発プロジェクトをバッサリ切って科学立国日本は大丈夫なのか心配する人も多いのではないかと思います。事業仕訳自身の仕組みややり方についての評価はここでは深入りせず、スパコン開発を行う意義を検証してみたいと思います。

スパコンというのは、計算を得意とするコンピューターの中でも特に大規模で高速に計算を行うために作られたものです。もともと、コンピューターが最初に作られた目的は高速で計算を行うためでした(ノイマン型コンピューター参照)。その意味でコンピューターとは生まれながらにスパコンであったということができます。

ところが、コンピューターは高速に計算を行うのと同時に、情報処理を行う機能を持っています。コンピューターが普及したのは、この情報処理の能力を企業が活用しようとしたからです。コンピューターの使用方法として高速に計算を行うことの重要性は少なくとも事業としては相対的に小さくなり、情報処理をいかに効率的に行うことができるかがコンピューターの発達の中心となりました。

しかし、どんなにコンピューターの活用方法が多様化しても、高速に計算を行うというニーズがなくなったわけではもちろんありません。情報処理を素早く行うためには、コンピューターの計算速度も高くなくてはいけませんから、コンピューターの発達と歩調を合わせて、高速計算を重視したコンピューターの進歩も続きました。

1960年代になるとコンピューター業界ではIBMの支配力が圧倒的になります(日の丸コンピューターを再評価する(1)参照)。その中で1964年CDC(コントロールデータ社)は、当時のIBMの最強機種Stretch(IBM7030)の3倍の計算速度を持つCDC6600を発表します。

StretchコンピューターはIBM技術の粋を結集したものでしたが、高性能と引き換えに極めて高価で商業的には失敗作でした。数千人の研究者を擁するIBMが、CDCという小さな会社(CDC6600開発に従事したのは僅か34名だったと言われています)にIBMのフラッグシップともいうべきコンピューターを上回る性能のコンピューターを開発されたのは大きな衝撃でした。

あせったIBMはCDC6600と同じ年に発表されたシステム360ファミリーの最大機種に後に「ペーパーコンピューター」と揶揄されたモデル90を加えます。そのモデル90の開発は遅れに遅れ、IBMはCDCのビジネスを阻止する目的でモデル90を発表したと独禁法で訴えられることになります。

その後IBMはしばらくスパコンと呼ばれる領域から離れてしまいます。情報処理の性能を追求する製品ラインとスパコンの開発はあまり相乗効果が期待できないと考えたからです。そして、スパコンの開発はCDCやさらにCDC6600の開発責任者だったセイモア・クレイが設立したクレイ社のような小さな企業が中心に行われることになります。

スパコン開発に再び大企業が参加したのは、80年代になって日本メーカーが現れてからです。アメリカではIBMがスパコンの開発から撤退し、スパコン市場はクレイが独占していました。そこに、豊富な資金と技術力を持つ日本メーカーが世界最高速を争う機種を次々にスパコンを市場に投入するようになったのです。

その頃は汎用機あるいはメインフレームと呼ばれる大型コンピューターが全盛の時代でした。日本のメーカーは官民一体となったコンピュータ産業育成策が功を奏して、IBMに対し汎用機市場で唯一の強力な競争相手になっていました。日本メーカーは大型汎用機のために開発した半導体技術をスパコンに応用し、世界最高水準のスパコンを生み出したのです。

現在の日本のスパコン開発は、80年代のスパコン開発の延長線上にあると言えます。つまり、高性能スポーツカーをレーシングカーに改造するように、数値計算に特化した機能を持たせた特注品の半導体を性能向上の核にするのです。

ところが汎用機がコンピューターの主役の座を降りてから、世界のスパコンの計思想は大きく変わります。少量生産で高性能の半導体ではなく、パソコンやワークステーション、さらにゲーム機に使われるマイクロプロセッサーを大量に連結させて計算能力を得るようになったのです。

現在開発中の「京速」スパコンは、もともと日立、NECがベクトル型という、数値計算を高速に行う半導体チップと、富士通が開発するスカラー型という普通の高性能マイクロプロセッサーを組み合わせる方式で考えられていました。ところが今年になり、ベクトル型計算を行う半導体チップ開発を日立、NECが経営悪化のため、降りてしまったために、ベクトル部分なしで開発が続くことになってしまったのです。

スカラー型プロセッサーだけでスパコンを組み立てるのはむしろ世界の主流です。世界のスパコンをランキングしたTop 500 Supercomputer Sitesを見ると上位を占めているのは全て、IBMのPOWER PCやインテルのマイクロプロセッサーのような、大量生産の半導体製品をベースに作られています。日本だけがベクトル計算に特化した半導体を開発しようとしていたのは、一重に政府の援助があったからに他なりません。

それでも、大量生産の製品ではなく、ひたすら高性能を追及する半導体を開発するのは無駄ではないという考えもあるでしょう。しかし、それは間違いだと断言できます。下の図は先程のTop 500 Supercomputer Sitesにあるものですが、スパコンの最大機種の性能は年に2倍の率で向上しています。


Top500.jpg

日本のスパコン開発計画は2012年の時点で世界最高速を目指すもので、製品が完成すれば(NEC、日立が降りて銅のように達成するか不明ですが)第一位になることはほぼ確かなのですが、その後すぐにさらに2倍4倍と強力なスパコンが出現することも確実です。世界一の座は数年も保つことはできないでしょう。

大量生産型のマイクロプロセッサーは毎年性能が向上しています。世界のスパコンの大部分は、開発サイクルが長い超高性能の半導体ではなく、もっと小回りが利くマイクロプロセッサー技術を中心にしているのです。現代のスパコン開発の焦点は、大量のマイクロプロセッサーを冷却する技術や、プロセッサー間のコミュニケーションを高速で行うデータバス、そして計算問題を多くのプロセッサーに効率的に分散させるプログラミング技術です。特殊な高速計算に特化した半導体を開発するのは、時代錯誤と言われても仕方ありません。

NEC、日立の脱落で結果的には日本のスパコン開発は世界の主流に沿ったものにならざる得ないでしょう。根本的な前提が変わっても予算執行は決めた通り行うのは、いくら科学技術のプロジェクトでもまっとうではありません。まるで、「治水」目的のダムをいつの間にか、正反対の「利水」目的にして作り続けるような話です。

日本のスパコンが時代錯誤の特殊な半導体開発に多大の資源を投入してきたのは、60年代からの国産コンピューター産業育成策が生き残ってきたためだからです。科学技術の育成を事業仕訳的な方法で切り捨てることに大きな疑問はあります。しかし、今の見当外れのスパコン開発は大幅な軌道修正をすべきです。「中身がわからない時は、銭勘定で判断する」というのも、悪くはないという一つの例と言えるでしょう。



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この記事に対するコメント

次世代機が1位じゃないということは、そのままズバリ技術的に先を越されたという事。
他国の後追いをすることがいかに不利益をもたらすか考えたことがありますか?
【2011/06/20 23:20】 URL | 匿名 #- [ 編集]

「スパコン開発中止は正しい判断」は正しい
ここで、主さんがおっしゃられていることは、
「先端技術開発費が不要」といっているのではなく、
「政府と産業界の考える先端技術が違っている」ということだと思います。

今回一位になったスパコン開発が、日本の産業発展に貢献するようなものではなく、
単に世界記録を更新するためだけに税金を使っていることは良くない。
以前は、「世界最速=産業として利用性」が成り立ったのでしょうが、
今、日本の産業発展に役立つ技術開発は、クラウドや分散型並列処理などであり、
そういう応用技術の開発費などに宛てるべきではないのかという主旨だと思われます。

つまり、日本型スパコンは次世代機ではなく、これが一位になっても何の貢献も無く、
税金の無駄遣いであり、その分本来の次世代機に切り替えろということでしょう。
このままでは、google など外資に日本企業は勝てません。
その意味では TRON プロジェクトの方がよっぽど成功しているのでは。

この点では私も同じ様に考えています。
【2011/06/28 15:43】 URL | 日本は技術立国でなくなってしまった #D64x0p0M [ 編集]


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