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馬場正博: 元IT屋で元ビジネスコンサルタント。今は「A Thinker(?)]というより横丁のご隠居さん。大手外資系のコンピューター会社で大規模システムの信頼性設計、技術戦略の策定、未来技術予測などを行う。転じたITソリューションの会社ではコンサルティング業務を中心に活動。コンサルティングで関係した業種、業務は多種多様。規模は零細から超大企業まで。進化論、宇宙論、心理学、IT、経営、歴史、経済と何でも語ります。

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原発を考える(1):原発に巨大魚という都市伝説
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映画「放射能X」では放射能で巨大化したアリが人間を襲う

原発について少し調べようと思っています」と始めたですが、やはり「少し」かじれば判るほど簡単な話ではなさそうです。簡単にはいかない理由の一つは、原発推進派と反対派、特に反対派の方が事実と想像を混ぜこぜにした原発非難が多いことです。事実を確かめながら作業を進めるのは、門外漢にとって楽なことではありません。ということで、シリーズもので何回か不定期連載でアプロチしようと思っています。この記事が第1回ですが、第2回は少し先になると思います。

原子力発電所の近くで異常に巨大な魚が取れるという噂があります。あくまでも噂のレベルでマスコミの報道などはないようなのですが、ネット上で「原発 巨大 魚」というキーワードで探すとかなりのエントリーが見つかります。

柏崎刈羽、玄海などの原発で巨大魚が見つかったという話があるのですが、海外では1986年に史上最大の原子力発電所事故を起こしたチェルノブイリ周辺で数メートルにおよぶ巨大魚が目撃されたという報道がありました。また、魚だけでなくアワビ、ウニのような他の海生生物の巨大化の噂もあります。

放射能の影響で原発の周辺で巨大魚が発生することがありうるのでしょうか。放射能で生物が巨大化する話は、原子力が実用化された初期の頃からSFのお気入りのテーマです。「ゴジラ」の第1作ではゴジラは放射能で巨大化して火炎を吐くようになったという設定でした。同じころアメリカでは「放射能X」というアリが巨大化して人間を襲うというSFホラー映画が作られました。

放射能、正確に言うと放射能を持つ物質から出る放射線は生物の細胞と細胞の中にあるDNAを直撃します。放射線が強ければ生物は死んでしまいますが、細胞が死ぬほどの強い放射線でなくても遺伝情報を持つDNAが損傷を受けると細胞分裂に異常が起き、ガンや白血病を発症する危険があります。細胞の中でも性細胞(精子、卵子)が損傷を受けると子孫に影響が出てきます。

それでは放射線でDNAの情報が書き換えられることで生物が巨大化することはあるでしょうか。実際にはその可能性は極めて低いと考えられます。放射線でDNAが損傷を受けると細胞は正常な分裂ができずに死んでしまうか、生き残った場合でも奇形の発生のような異常が起きます。しかし生物が巨大化するためには一つの遺伝子だけではなく沢山の遺伝子が関係しなければなりません。いくつもの遺伝子が一度に巨大化のような方向性を持った変異を起こすことはあり得ないと断言してよいでしょう。

巨大化の噂には魚だけでなく、ウニやアワビのような生物の系統ではるかに遠いものも含まれます。放射線が一般的にどんな生物でも巨大化させてしまうような働きはありません。放射線を自動車工場を襲った大竜巻のようなものだと考えると、巨大生物は竜巻の後の工場に巨大なSUVが完成しているようなものです。偶然だけでそんなことはあり得ないでしょう。まして同じような偶然がどこの原発でも起きることは、ますます考えられません。

巨大魚は幻なのでしょうか。必ずしもそうとは言えません。原発は海や大きな湖、川に沿って建設されるのが普通なのですが、原発の立地が水辺に限定されるのは、原発が核分裂で発生した膨大な熱を利用して発電を行うからです。つまり原発は発電時に大量の水と熱交換を行うことで発電を行い、環境に大量の温水を流す必要があります。採取した水より7-8度高くした場合、排水量は発電100万千キロ当たり毎秒70トン程度と見積もられます。

温排水量は世界最大の原発である柏崎刈羽発電所では1秒に800トンにもなります。これは利根川のような大きな河川の流量も上回るほどの量です。それほどの温排水を出せば放射能汚染以前に環境に重大な影響を与えないかという疑問が生じます。

実際、原発の建設では漁業補償が大きな問題になります。漁業補償費は場合によっては、漁業を廃業しても良いほどの額に達することも稀ではありません、また、原発の近くの漁場から取れた魚は市場で嫌われることが多いため、漁業が成り立たなくなってしまうということもあります。

原発の周囲では漁業が行われなくなり、そのために捕獲されない生物がどんどん大きくなることは考えられます。また温排水に適した生物がますます巨大化することも考えられます。チェルノブイリ周辺では住民がいなくなってしまった地域も多く、人間という天敵がいなくなった結果大きくなった魚が目撃されるということもあるでしょう。

しかし、原発の放射能のせいで巨大魚が発生するというのは一種の都市伝説です。巨大魚は放射能の薄気味悪さを象徴するものかもしれませんが、放射能の影響で魚が巨大化するようなことは科学的にはないと断言できます。

巨大魚が都市伝説だとしても巨大魚を作り出した恐怖「原発は放射能を撒き散らしているのではないか」という懸念はあたっているのでしょうか。何しろ原発は大きな河川に匹敵する海水を排出しています。僅かでも排水や排気に放射性物質が含まれていれば、総量では莫大な量の放射性物質を環境に放出するのではないでしょうか。

原発が事故ではなく通常の操業時に外部に放射性物質を放出しているかどうかということについては、反原発派の人々の多くはほとんど既成事実として「放出がある」としていますが、公式にそのような説を裏付けるデーターはありません。少なくとも自然環境と比べて相当量の濃度の放射性物質を排出はしていないと考えてよいでしょう。

原発が放射能を垂れ流しているとする有力な情報源*に、原子力発電所のプラント配管技能士だった平井憲夫氏の書いた「原発とはどんなものか知ってほしい」という文章があります。その中で平井氏は原発の2次冷却水(外部に排出される冷却水)も不可避的に放射能を含んでいると断言しています。これは少なくとも電力会社が原発の周辺で常に測定している放射能汚染の検査とは一致しません。

電力会社側が嘘をついている可能性はありますが、原発内部の話ではなく、測定すればすぐに判る外部環境の放射能の測定値を誤魔化すというのは正直あまり考えられません。平井氏の原発放射能垂れ流し説は放射能の強さに関する記述もなく(人体も含めどんな物質もゼロでない放射能を含んでいます)、2次冷却水が放射能を帯びる科学的根拠も不明確です。

平井氏は原発のエンジニアで、内部被曝の影響の可能性があるガンで1997年に亡くなっているのですが(ガンが放射線被曝によるものかどうか個々のケースで判定することは不可能です)、原発が内部の作業員の被曝に無神経に操業されていたことが事実であっても、外部への放射能の排出を平気で行っていたというのは信用できる話ではありません。

巨大魚の噂にしろ原発の放射能垂れ流し説にしろ原発の恐ろしさを一般受けする根拠のない怪談話に仕立てていると言われても仕方ないでしょう。確かに反原発派には科学的な厳密さで原発の危険を証明しようと思っても資金も技術も十分にないということはあります。それでも頭から原発は危険と決めつけて、原発の恐ろしさを伝えるためなら何を言っても構わないという姿勢が良いはずはありません。いい加減な非難に対してはいい加減な答えしか期待できないからです。

しかし、反原発派の言っていることがいい加減でも、原発と放射能を巡る問題のすべてが根拠のないものと言い切るのは楽観的過ぎます。少なくとも正常に稼働している限り危険なレベルの放射性物質を排出しなくても、いったん事故が起きれば核兵器数百発分にも相当する放射性物質が撒き散らされる危険があるのは確かなのです。

また、外部に排出される放射能が非常に希薄な濃度でも、大量に放出されたものが食物連鎖を通じて濃縮されることはないかという懸念は残ります。それに普通の原発は生物に有害なほどは放射性物質を排出していなくても、六ヶ所村の核燃料の再処理施設はではその数百倍も放射性物質を放出します。放射能排出の危険を無視するわけにはいきません。

巨大魚のような現代の怪談話は原発問題がイデオロギー論争になっている端的な例です。イデオロギーは往々にして、信条のために嘘やでたらめを言うことを平気にさせます。原発が放射能を常に垂れ流していると確たるデーターも無しで言ったり、反原発派の論拠の多くは嘘とは言わないまでも粗雑で科学的な慎重さにひどく欠けていると言わなければなりません。原発を推進するかどうかは最後は政治的な判断ですが、だからと言って科学的な分析がなくて良いはずはありません。原発の安全性が技術の問題だということには間違いないからです。

追記:倍数体について
巨大魚に関して、倍数体によるものではないかというご指摘がありました。普通生物の染色体は雌雄の両親から受けついだ2N個あるのですが、3N、4N個またはそれ以上のものがあり倍数体とよばれています。3N個の場合は雌雄での繁殖はできないのですが、植物にはよくみられます。また、動物でも魚には4N個の染色体を持つものがあり、この場合通常の染色体数をもつものより巨大化するのが普通です。

倍数体は自然に発生することもありますが、温度、圧力、薬品などで倍数体を作ることもできます。放射能も外部の刺激の一つとして倍数体を作ることは考えられますが、一般的に放射能がかなりの確率で倍数体を作るということはないようです。

原発周辺に巨大魚が現れ、放射線の影響が疑われるのなら、まず捕獲して倍数体かどうか染色体数を検査するのが最初でしょう。また、巨大魚が倍数体であったとしても、日本の原発周辺の魚類には異常な放射能蓄積は見られないことから別の原因も考える必要があるでしょう。

有力な情報源というのは適切ではないかもしれません。有名ですが「トンデモ」文章といった方が当たっているようで、原発に技術的にある程度詳しい人たちからは冗談の種にされるほど滅茶苦茶とされています。反原発派が平井氏の生前の講演に勝手に尾ひれを付けてでたらめだらけの物を作ってしまったようです。

原発を考える(1):原発に巨大魚という都市伝説
原発を考える(2): WWFが原発に反対するわけ
原発を考える(3): 原発はどこまで危険か
原発を考える(4):反原発論は間違いだらけだが原発も欠陥だらけ
東海地震と浜岡原発
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この記事に対するコメント

RealWaveさま

おはようございます。山崎元のロバ耳から飛んできました。

私もそうですが、皆さん感情に基づく意見は強くお持ちでも原発についての事実に基づく情報を持っているかには、ダンマリですね。

>白血病、ガンの発生率が高いかどうかという疑問は、原発対策費の何百分の一かの経費を使って疫学的調査を行えば結論は簡単に出るはずですが

素晴らしいツッコミだと思います。
ただ一般に検査の主体やその資金の出所は、利害関係者では信用がいまひとつです。困ったことに現状では政府も原発推進にかんでいますから、完全に公正中立な機関などないんですよね。

これからの「原発を考える」シリーズを楽しみにしています。
RealWaveさんの過去の記事も面白いです。
【2010/03/26 06:55】 URL | 佐藤健 #- [ 編集]

結局は
 広瀬 隆が、原発が危ないという運動みたいなことをやっていたことがあって、当時彼の著書を読んだのですが、原発は設計どおりに造られれば、危ないことはないのですよね。人為的な手抜きとか、問題が発生した時に、専門的には問題がないと判断したので公にしないとする体質が問題な訳です。しかし彼のように興味がある人々には、公開して説明する価値があるでしょうが、国民の教育レベルからすると、大方の理解を得るのは難しい訳で、隠す気持ちも解らないではないかなという感想でした。
 原発の話は結局のところ、この国のエネルギー供給を考えれば、その存在は必須ということになり、多少危なくても受け入れる以外になく、わたし自身も推進はしないものの、心中覚悟でいます。
【2010/03/27 09:13】 URL | 桃栗 #- [ 編集]

Re: 結局は
>  広瀬 隆が、原発が危ないという運動みたいなことをやっていたことがあって、当時彼の著書を読んだのですが、原発は設計どおりに造られれば、危ないことはないのですよね。人為的な手抜きとか、問題が発生した時に、専門的には問題がないと判断したので公にしないとする体質が問題な訳です。しかし彼のように興味がある人々には、公開して説明する価値があるでしょうが、国民の教育レベルからすると、大方の理解を得るのは難しい訳で、隠す気持ちも解らないではないかなという感想でした。
>  原発の話は結局のところ、この国のエネルギー供給を考えれば、その存在は必須ということになり、多少危なくても受け入れる以外になく、わたし自身も推進はしないものの、心中覚悟でいます。

原発が単なる必要悪かどうか、廃止論は無責任で無知な理想論かどうかは、もっと色々な角度からの検討が必要だと思います。取りあえずはオカルト的な議論は排除したいというのが、今の段階です。
【2010/03/27 15:59】 URL | RealWave #OVWif65Y [ 編集]


ブログを見るのをとっても楽しみにしています☆これからも楽しく読ませて頂きますね(*^_^*)
【2010/12/22 17:39】 URL | 栃木 美容院 #LUf8kOxY [ 編集]


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