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馬場正博: 元IT屋で元ビジネスコンサルタント。今は「A Thinker(?)]というより横丁のご隠居さん。大手外資系のコンピューター会社で大規模システムの信頼性設計、技術戦略の策定、未来技術予測などを行う。転じたITソリューションの会社ではコンサルティング業務を中心に活動。コンサルティングで関係した業種、業務は多種多様。規模は零細から超大企業まで。進化論、宇宙論、心理学、IT、経営、歴史、経済と何でも語ります。

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原発を考える(2): WWFが原発に反対するわけ
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原発は温暖化ガス削減の切り札ではない?

パンダのロゴで知られているWWF (World Wildlife Fund:世界自然保護基金)は、スイスに本部のある世界的な環境保護団体です。WWFは生態系の多様性の維持という目標を掲げ、絶滅の恐れのある動植物の保護に取り組む一方、森林の保全や環境汚染の改善のための活動を行っています。

日本人の立場からはWWFがグリーンピースなどとともにクジラやイルカの保護に熱心であることは、ある種複雑な思いを抱かせるかもしれません。また、多くの環境保護団体がそうであるように組織の出発点の根底には「有色人種に任せておくと自然が目茶目茶にされてしまう」と心配するような白人優越の考えがあることも認めなければならないでしょう。

しかし、WWFはグリーンピースやましてシーシェパードのような過激な行動はとりませんし、活動の質の高さは広く認められています。そのWWFは地球温暖化にも懸念を示しており、温暖化ガスの削減を訴えています。原発は二酸化炭素に代表される温暖化ガス排出を抑制する切り札とも言われる技術です。しかし、2003年にWWFは原発には明確に反対する姿勢を明らかにしています(WWF POSITION  STATEMENT NUCLEAR POWER )。なぜなのでしょうか。WWFの原発に反対する理由を見てみましょう。

(1) 原子力は再生可能エネルギーではない

WWFは2020年までに再生可能エネルギーを総エネルギー使用量の20%、2080年までに100%にすべきだとしています。ここでWWFは再生可能エネルギーとして、風力、太陽、地熱、海洋などをあげていますが、原子力は化石燃料とともに再生可能エネルギーではないとしています。

WWFはその理由として、核燃料が採取から廃棄物の処理までのライフサイクルで大量の有毒物質を生じること、特に廃棄物から何千年もの間、有毒物の流失の危険があることを指摘しています。核廃棄物という極めて有毒な物質の貯蔵と管理の問題は、WWFは未解決の問題であるとして、有毒な廃棄物を積み上げるしかない原発は再生可能エネルギーとは言えないというのがWWFの見解です。

(2) 原発は危険で制御が難しい

WWFは1986年のチェルノブイリの事故を見てもわかるように、原発は依然として危険で制御が難しく大事故の発生の可能性が本来的にあるとしています。

(3) 原発は経済的ではない

WWFは原発の建設には莫大な資金が必要で、結果的に再生可能エネルギーに投入すべき資源を奪っていると考えています。さらに、WWFは原発が一定の出力を維持する必要があるため、エネルギーを節約しようというインセンティブを失わせる結果になるという点を指摘します。

また巨大な原発は大規模な送電網を必要とし、分散型のエネルギー供給システムより多くの場合不経済だと、WWFは断じています。WWFはその傍証として、原発のほとんどは国から直接間接に資金面で援助を受けており、OECD諸国では2010年までに建設が計画されている原発はフィンランドで1っあるだけだという事実をあげています(報告書の出た年は2003年)。

(4) 原発は核兵器非拡散への脅威

開発途上国が原発に熱心なのは核兵器の材料にアクセスする道を開くからだとしています。つまり原発の普及は核兵器非拡散条約(NPT)に対する脅威になるとWWFは考えています。

(5) 原発は電力しか作れない

原発のエネルギーはすべて電力としてしか取り出せないが、エネルギー消費のかなりの部分は熱エネルギーで、この部分を化石燃料に頼っては、原子力で温暖化ガスを削減する効果は限定的なものにならざる得ないことが指摘されています。WWFでは、コジェネ・システムのように分散型の電気と熱の両方を生み出す方式の方が温暖化ガス削減という点でも効率的だと考えています。

WWFは正しいのか

WWFは原発が日常的に放射能を撒き散らしているとか、原発の周りに巨大魚が泳ぎ回っているというような、科学的には疑わしい反対論は述べていません。しかし、いくつか基本的な問題はあります。

まず、WWFの掲げる2020年までにエネルギー消費に占める再生化エネルギーの割合を20%、2080年までに100%にするということの実現可能性です。確かにこの目標が原発抜きで達成できるのなら、温暖化ガス削減の切り札が原発だという主張は成り立ちません。しかし、控えめに言っても、相当困難な目標だということは間違いありません。

実際に風力や太陽エネルギーを利用しようとすると経済性が障害になります。採算性、経済性は条件の取り方でいかようにも変わってきて、それが原発の評価の難しさにもなっているのですが、太陽電池を使った電力供給を原発を置き換えるほど大規模に行うことは現時点ではとても経済的に引き合うものではありません。

風力発電も機器が意外なほど簡単に故障、破損するという問題を抱えていますし、低周波の音を発生して健康被害を引き起こすという新しい公害を生み出してもいます。つまり、現在再生可能エネルギーと目されているものは既存エネルギーを補完することはできても、大規模な発電を行うという点では、置き換えるという段階には達していません。

さらに、原発の問題点として指摘されている、出力調整の難しさという点でも、風力発電、太陽発電は問題があるというより、基本的にできません。風の吹いているとき、太陽が出ている時しか発電できなければ、よほど効率が高く大容量の蓄電システムと組み合わせない限り、補助的な役割以上のことはできません。そして、そのような蓄電システムはまだ実用化にいたっていません。

風力や太陽以外の地熱や潮位発電も規模や経済性で難点があり全面的に既存の発電システムを置き換えることはできません。つまり再生可能エネルギーがどこまで既存のエネルギーを代替していけるかは、今後の技術開発にかかっていることになります。

かりに再生可能エネルギーへの置き換えが急速には進まない場合、温暖化ガスと放射性物質のどちらが環境負荷が高いかという話になります。WWFは原発で温暖化ガスを減らそうというのは「根源的な環境問題の一つを別の環境問題で置き換えることだ」と言ってしまいます。その通りかもしれませんが、どちらか選べと言われたらどうしたらよいのでしょうか。

もっとも、この質問はWWFに言わせれば「自殺するのに、青酸カリがいいですか、拳銃がいいですか」と聞いているようなものかもしれません。目ざさなければならないのは死ぬことではなく、生き抜くことのはずです。化石燃料も原発も所詮は上手な死に方の選択の問題なのでしょうか。

答えを出すためには、現時点では判らないいくつかの前提を決める必要があります。

1:地球温暖化は本当に起きるのだろうか。その時期と程度はどのくらいなのだろうか。温暖化ガスの削減は地球温暖化を防ぐのに有効な手段なのだろうか。

2:原発の廃棄物を安全に管理することはできるのだろうか。地底や海底に捨てられる核廃棄物は将来に渡って環境に悪影響を与えないのだろうか。影響の程度は化石燃料から発生する温暖化ガスより大きいのだろうか、小さいのだろうか。

3:原発がチェルノブイリあるいはそれ以上の重大事故を起こす可能性はどれくらいないのだろうか。原発を導入するすべての国が十分な安全管理体制を維持することが可能だろうか。

4:再生可能エネルギーや電力量を制御するための蓄電システムを十分経済的なレベルで開発できるだろうか。できるとしてもどれくらいの期間が必要だろうか。

5:核燃料の再処理で環境に出される放射能、最終廃棄物は世界全体で許容できる環境への影響にとどまるだろうか。原子力への依存度が大幅に増加し、原発の発電量が飛躍的に増えても大丈夫だろうか。

6:化石燃料の価格は長期に安定的に上昇するだろうか。省エネや代替エネルギーの普及によりむしろ低下するのではないだろうか。低下した場合、代替エネルギーの中で原発に対し相対的に価格競争力の弱いものは淘汰されてしまうのではないだろうか。

7:原発が技術革新により大幅に安全になることはないだろうか。100年間連続稼働できるTWRのような技術が実用化されることはないのだろうか。

WWFは上記の質問にすべてどころか一つも答えることはできないでしょう。それにWWFが答えたとしても誰もその答えが正しいかどうか判定することはできません*。つまりWWFの問題は皆の問題であるということができます。批判は簡単にできるのですが、本当に建設的かつ実際的な答えを人類は見つけられていないのです。

ここでは原発が現状では廃棄物や潜在的危険性の大きさから、手放しで推進してよい技術でなさそうだと言っておきます。少なくとも地球温暖化の問題が大きくならなければ、原発はむしろ衰退させるべき技術だったでしょう。最近の資源価格の高騰で事情が変わってきましたが、それまではドイツ、スウェーデン、ベルギーでは原発は廃止の方向に進んでいました(ただしドイツは依然として電力の30%は原子力に頼っています)。

温暖化ガスの削減も原発の廃棄も莫大な経済的負担を必要とします。しかし、経済的負担は逆説的には代替エネルギーの推進力にもなります。次は原発の危険性について、もう少し考えてみたいと思います。

*これには原発の専門家から異論があるかもしれません。原発事故の発生確率はPSA(Probabilistic Safety Assessment)という手法で予測することがあります。PSAを用いて原発が致命的な事故を起こす確率は1原子炉あたり5千万年に一回程度という数字が出ることもあるのですが、現実にチェルノブイリ原発のような大事故が発生することを見ると、そのまま鵜呑みにするのも危険でしょう。

原発を考える(1):原発に巨大魚という都市伝説
原発を考える(2): WWFが原発に反対するわけ
原発を考える(3): 原発はどこまで危険か
原発を考える(4):反原発論は間違いだらけだが原発も欠陥だらけ
東海地震と浜岡原発
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この記事に対するコメント
原子力以外も準備しておく必要がある
RealWave様

こんばんは。
いずれ化石燃料同様枯渇の恐れがある点でWWFに賛成します。
高速増殖炉や核融合の実用化にめどが立っていない現状では、別のエネルギーも是非欲しいです。
電気より石油の方が使い勝手のよい場面があるのでその点も解決する必要があります。
ただし核兵器拡散を恐れるなら、なおさら早くウランを掘り尽くして利用し切る方が心配が少ないと思います。

西澤潤一 上野黄著『人類は80年で滅亡する「CO2」地獄からの脱出』という著書はご存知でしょうか。CO2の大気中濃度が3%に達すると人は死ぬという主張です。呼吸困難ですね。指数関数的にCO2が増加している現在のペースだと早くて80年後、遅くとも150年後の人類絶滅を予想しています。
化石燃料の大量消費は、例え気温が上がらなくても止めなければいけないようです。
【2010/03/30 23:38】 URL | 佐藤健 #- [ 編集]

Re: 原子力以外も準備しておく必要がある
> RealWave様
>
> こんばんは。
> いずれ化石燃料同様枯渇の恐れがある点でWWFに賛成します。
> 高速増殖炉や核融合の実用化にめどが立っていない現状では、別のエネルギーも是非欲しいです。
> 電気より石油の方が使い勝手のよい場面があるのでその点も解決する必要があります。
> ただし核兵器拡散を恐れるなら、なおさら早くウランを掘り尽くして利用し切る方が心配が少ないと思います。
>
> 西澤潤一 上野黄著『人類は80年で滅亡する「CO2」地獄からの脱出』という著書はご存知でしょうか。CO2の大気中濃度が3%に達すると人は死ぬという主張です。呼吸困難ですね。指数関数的にCO2が増加している現在のペースだと早くて80年後、遅くとも150年後の人類絶滅を予想しています。
> 化石燃料の大量消費は、例え気温が上がらなくても止めなければいけないようです。

佐藤様、
いつもご訪問ありがとうございます。
ご案内の本は読んでいませんが、3%の炭酸ガス濃度は、現在の350PPMの100倍にもなります。地球の化石燃料を全部燃やしてもそこまでいくかどうか。 ただし、単純な指数関数的伸びどこかで破滅的にとまってしまうようなことは避けたいですね。
【2010/04/01 06:36】 URL | RealWave #OVWif65Y [ 編集]


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