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馬場正博: 元IT屋で元ビジネスコンサルタント。今は「A Thinker(?)]というより横丁のご隠居さん。大手外資系のコンピューター会社で大規模システムの信頼性設計、技術戦略の策定、未来技術予測などを行う。転じたITソリューションの会社ではコンサルティング業務を中心に活動。コンサルティングで関係した業種、業務は多種多様。規模は零細から超大企業まで。進化論、宇宙論、心理学、IT、経営、歴史、経済と何でも語ります。

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テロリストと犯罪者の間
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拘束された金賢姫(自殺防止のために口をふさがれている)

大韓航空機爆破の実行犯として死刑判決を受けた(後に特赦)元北朝鮮工作員の金賢姫が来日し、日本側がVIP待遇をしたことがかなりの波紋を呼びました。

1987年11月17日バクダッドを飛び立ちソウルに向かった大韓航空858便の乗客のほとんどは、韓国人建設労働者でした。当時、アラブ諸国では建設労働者として多数の韓国人が働き、不足しがちであった外資を稼いでいました。また、建設労働者として韓国人を送り込むことが、韓国の建設会社が海外で受注を獲得する大きな強みとなっていました。

大韓航空858便はバクダッドから最初の着陸地のアブダビに降り立ちました。そしてアブダビを飛び立った後、858便は突如墜落します。犠牲者は乗客、乗員合わせて115名におよびました。

墜落原因に様々な憶測が飛び交う中、アブダビで降りた乗客中に、蜂谷真一、蜂谷真由美と名乗る不審な2名の日本人男女がいることが判ります。二人は拘束されますが、男は隙を見てカプセル入りの青酸カリで自殺してしまいます。女も自殺を図りますが失敗し逮捕されます。その後女は韓国に引き渡され取り調べを受け、最後は自分が北朝鮮の工作員、金賢姫であることを自白しました。

自供により、二人の北朝鮮工作員は大韓航空858便にトランジスターラジオ時限爆弾を仕掛け爆破したことが判ります。金賢姫は裁判を受け1990年3月に死刑判決が確定しますが、翌月に盧泰愚大統領は「事件の生き証人」として特赦を行いました。

特赦には韓国人遺族から強い抗議ありましたが、元北朝鮮工作員の金賢姫に北朝鮮への批判的な言動を行わせることの政治的効果は十分にあったと思われます。なお、北朝鮮は今日に至るまで一貫して、大航空機爆破に関与したことも金賢姫が北の工作員であったことも否定しています。

金賢姫が日本にとって大きな意味を持ったのは、金賢姫が日本人になりすますために、李恩恵という朝鮮名をもつ日本人の教育係がいたと語ったことです。彼女の証言から李恩恵が行方不明だった田口八重子さんにほぼ間違いないことが判明したのです。

それまで、北朝鮮による日本人拉致問題を日本政府は熱心に取り上げていませんでした。色々な疑惑はあったものの拉致の事実の決定的証拠がなく、政治の場で取り上げることに外務省も政府も及び腰だったのです。

金賢姫の証言をきっかけに横田めぐみさんを始め多くの日本人が北朝鮮による拉致の可能性が高い認定されることになります。金賢姫が拉致問題を日の当たる場に出すことに大きな役割を果たしたことは間違いありません。

しかし、今回の来日が拉致に関して何も新しい情報をもたらさないのは明白でしょう。金賢姫が拘束されてすでに20年以上が経過しています。金賢姫は「横田めぐみさんが自殺したとは考えられない」とも言っていますが、北朝鮮が横田めぐみさんが自殺したとしている1994年は金賢姫拘束の7年後です。

情報としてはあまり価値のない金賢姫の来日ですが政治的な意味は小さくありません。韓国が太陽政策を実行し北朝鮮との融和を進めた金大中、盧泰愚政権の時代は、大韓航空機爆破そのものが韓国情報部の陰謀だったと主張する意見まで出て、北朝鮮のテロ活動の象徴的存在だった金賢姫は不遇を強いられます。金賢姫の来日などは全く考えられない状況でした。

金賢姫の来日は韓国政府が日本の拉致問題に協力する姿勢の表れと考えられますが、これには韓国の哨戒艦が北朝鮮の魚雷に撃沈されたとみられる事件で日本が韓国への支援の姿勢を明確にしたことに対する見返りと言う意味もあるでしょう。北朝鮮からみれば日韓が結束して北朝鮮への非難の姿勢を強めていると感じるはずです。

日本政府にとっては金賢姫の来日は拉致問題に対する取り組みを目に見える形で示すことになります。日本では拉致問題解決にはマスコミも表向き常に前向きです。たとえ新情報への期待が全くなくても、拉致家族が金賢姫の肉声で拉致被害者の様子を聞いたり、励ましを受けるのを否定的には報道しません。

しかし、金賢姫は特赦を受けたとはいえ、100人以上を殺害したテロの実行犯です。情報のために来日してもらうのはともかく(これも法務大臣の許可が必要です)、「国賓並み」とまで言われる厚遇をするのは良いのでしょうか。

良い悪いを別にして日本人の多くが強い抵抗感を持ったということはなさそうです。金賢姫は北朝鮮で外交官という特権階級(父母は金賢姫の逮捕後収容所に送られた)の出身で品も良く、顔立ちも悪くありません(特赦を受けた後、結婚申し込みが殺到したくらいです)。これが見るからに目つきの鋭い殺し屋風の外見だったら世間の反応は随分違ったものになっていたでしょう。そもそも韓国でも特赦を得られなかったかもしれません。

もちろん外見が上品で優しそうで本人も反省しているからといって、大量殺人が許されることはありません。普通の大量殺人犯と金賢姫の違いは国家の命令を受けて行ったということです。爆破は国家の工作活動の一つで、国家による殺人という点では戦争と変わりません。

アメリカは主権国家による殺人や破壊活動はテロではないという立場のようです。アメリカは韓国の哨戒艦沈没が北朝鮮の魚雷攻撃によるものと断定された後も、北朝鮮をテロ支援国家とは認定しませんでした。アメリカの想定するテロとはアルカイダのような主権国家に属さない集団が行う破壊活動なのです。

確かに、主権国家による殺害、破壊活動は、北朝鮮だけでなくイスラエルのモサドやロシアのFSBが半ば公然と行っていることです。アメリカもCIAが暗殺を行わないとされているのは、議会や大統領が禁止しているからで、国家の権利として暗殺を否定しているわけではありません。

とは言っても、テロを支援するのはいけないが、テロを自分でするのは構わないというのは、すんなりと受け入れるのは難しい論理です。仮にそれを認めたとしても、主権をまだ持っていない独立運動の場合などはどう考えればよいのでしょうか。それは「勝てば官軍」で失敗すればテロリスト、成功すれば英雄ということなのでしょうか。確かに、アメリカ独立戦争が失敗していればジョージ・ワシントンは反逆者として処刑されていたでしょう。

韓国では初代の朝鮮総督(韓国統監)伊藤博文を暗殺した安重根は英雄ですが、日本人のほとんど(といっても安重根自身知られていませんが)ではテロリストとしか思わないでしょう。その伊藤博文も幕末は一種のテロリストとして活動していました。主権国家に属するかどうかでテロリストかどうかを決めるのは割り切り過ぎとも思えます。

主権国家による工作活動がテロでなければ、北朝鮮の拉致はテロではないことになります。拉致は残酷な行為ですが、飛行機爆破より残酷とも言えないでしょう。

今回の金賢姫の取り扱いが「罪を憎んで人を憎まず」とか「韓国でも恩赦を受けたのだから」とかいうのは理屈に合いません。普通は恩赦されようが、刑期を全うしようが一年以上の懲役刑を受ければ日本入国はできないのです。

結局、金賢姫のVIP待遇は拉致家族支援の一環としての政治ショーと理解するしかないでしょう。それでも拉致家族とにこやかに料理を作る映像を公開したり、遊覧飛行を大ぴらにするのは、韓国人遺族に対し慎みを欠いた態度だと思います。せめて裏でこっそりするくらいの配慮はすべきです。

まして国家公安委員長が「彼女は国を出ることでできなくて可哀そうなんだよ」というのはどうなっているのでしょう。可哀そうを理由に法を運用されてはたまりません。不法入国すれば親子を引き裂いても、親は強制送還されるのです。

拉致家族も喜んでいるし、20年以上昔の話だからもういいじゃないか、という気持ちは判ります。しかし、それらはあくまでも一般人の感情レベルの話であるべきです。テロと国家のような深刻な問題で原理原則を平気で捻じ曲げれば、いつか原理原則に復讐されるでしょう。「拉致はテロ」というなら他のテロにも厳しくなければなりません。そうでなければ拉致問題が真に国際的理解を得ることは難しいのではないでしょうか。

カーチス・ルメイの事

ここまで書いてカーチス・ルメイの事を思い出しました。ルメイはアメリカ空軍の将官で第二次世界大戦では日本爆撃の指揮を行いました。その爆撃指示は精緻なもので、東京などの大都市をメッシュで分割し、担当する爆撃機が低空からくまなく爆撃するように考えられていました。

ルメイは日本のような木造建築の多い都市に対する焼夷弾による焦土作戦の有効性をいち早く認識していました。焦土作戦の下東京、大阪では数万人以上の一般市民が焼き殺されました。

このような爆撃は戦争犯罪であることは明白です。実際、ルメイの下ので爆撃作戦の策定を行っていたマクナマラ(後の国防長官)は自伝の中で「この戦争が負けたらわれわれは戦争犯罪で裁判にかけられるな」と話していたと書いています。

ルメイの焦土作戦が戦闘行為ではなく戦争犯罪だったのことに議論の余地はないと思われます。そのルメイは1964年日本政府より勲一等旭日大綬章を受けます。航空自衛隊創設への貢献が認められたのです。

私は日本の軍人、政治家が裁かれた東京裁判を全否定しようとは思いません。日本側に裁かれなければならないような行為が多々あったことは事実です。また、戦勝国側の戦争犯罪を今さら裁くことは現実性を全く欠いていると思います。しかし、明白な戦争犯罪により数十万人の日本の一般市民を殺した指揮官を叙勲する必要などなかったはずです。

テロが犯罪になるかどうかは結局どちらが勝つかで決まります。「勝てば官軍」で最終的な勝利を得れば、テロも正当な戦闘行為になるのでしょう。しかし、一般市民の虐殺は主権国家であろうとテロ組織のものであろうと犯罪です。戦争犯罪者、それも自分達の同胞を殺した犯罪者を平気で叙勲するような無神経さは、日本人が戦争犯罪やテロに無神経だという証拠なのかもしれません。
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この記事に対するコメント

ワシントン 反逆者 で検索してたどり着きました。

凄く読み応えがあって参考になりました。
【2011/05/21 12:54】 URL | やん #- [ 編集]


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