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馬場正博: 元IT屋で元ビジネスコンサルタント。今は「A Thinker(?)]というより横丁のご隠居さん。大手外資系のコンピューター会社で大規模システムの信頼性設計、技術戦略の策定、未来技術予測などを行う。転じたITソリューションの会社ではコンサルティング業務を中心に活動。コンサルティングで関係した業種、業務は多種多様。規模は零細から超大企業まで。進化論、宇宙論、心理学、IT、経営、歴史、経済と何でも語ります。

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医療訴訟が医療崩壊を招く
過激なタイトルですが、誇張とは思いません。現在の日本の医療訴訟は、医療現場を混乱させ、医師を不安に陥れ、診療科目による医師の偏在といった数々の問題を引き起こしています。しかも医療訴訟の増加は全体として見れば患者側の利益にもなっていません。医療訴訟のあり方は早急に見直しが必要です。

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写真と本文は関係ありません


日本は世界で最も長い平均寿命を誇り(男女の平均)、GDPに占める医療費の割合は先進諸国で最低の部類です。数字を見れば日本の医療制度は世界で最も成功していると言えます。しかし、そう思える日本人は次第に少なくなってきています。

医療費の負担は年々増加し、健康保険組合はどこも赤字で苦しんでいます。後期高齢者医療制度は批判が相次ぎ、いったんは廃止が決まったものの代替案もなく存続が決まるような有様です。

医療現場では田舎では医者そのものがいなくなり、病院が診療科目を減らしたり、病院自体が閉鎖される事も珍しくありません。たとえ医者がいてもどの病院の経営も苦しいのです。

都会でも救急車は救急病院の受け入れ先がなくたらい回しは日常的です。産婦人科にいたっては救急でなくても出産を引き受ける病院がどんどん少なくなっています。

先進医療は今まで不治と思われていた病気の治療を次々に可能にしていますが、新しい治療法や薬は多くの場合保険の適用外で、有効と判っている治療を費用のために諦めなければならない人は増える一方です。

そんな中で医者は40時間連続勤務などという非人間的な状況で医療行為を行わされています。日本の世界的には安価な医療費は医師の犠牲に支えられている面が多々あります。

このような問題の解決はどれも簡単ではありません。医者を増やすのも、救急病棟を増やすのも、先進医療を手の届くものにするのも、全て費用が必要です。先進国の中で低い方とは言っても、今でも負担を軽いと思っている人は少ないでしょう。

その中で医療費負担の増額とは必ずしも関係のない問題があります。診療科目の違いによる希望者の偏在です。医者が総数でも不足気味なのは確かなのでしょうが、診療科目によっては極端な不足があります。

今、診療科目で人気のないものはあまりにも多忙であるか、医療訴訟のリスクの高いものです。前者の代表は小児科、救急医療。後者は産婦人科や脳外科医です。小児科は親の気持ちとして死亡した場合は医師を許せないという気持ちが強くなることもあり、多忙と訴訟リスクの両方の問題を抱えています。

産婦人科も妊娠は病気とは看做されていないことからわかるように、何か起きると医師の責任が問われがちです。しかも分娩は昼夜を問わずという性質上、時間的にも制約の多い診療科目です。

逆に、精神科などは医療過誤の訴訟リスクが低く、最近では人気科目です。耳鼻咽喉科や眼科も緊急手術や命にかかわる手術が少ないこともあり、希望者は増加傾向です。

精神科や耳鼻咽喉科の医師になることが悪いわけではありませんが、緊急性を要し、命にかかわることの多い、脳外科医や心臓外科医が絶滅危惧種だと言われているのは深刻な問題です。脳内出血などは手術までの僅かな時間の差が生死を分けるのです。

医療訴訟は10年で二倍程度の割合で増加していて、もはや珍しいものではないありません。しかし、全体の医療行為の中ではごくごく例外的です。その例外的な医療訴訟が医師の職業的リスクを高め、極端な医師不足を起こす診療科目を作り出しているのです。

実は医療訴訟が本当に医療過誤と正しく対応しているかは疑問があります。1984年にハーヴァード大学が行った研究HARVARD MEDICAL PRACTICE STUDY(HMPS)では、医療過誤による事故のほとんどは医療訴訟にならない半面、医療訴訟になったケースでは大部分が医学的には過誤とは言えないと結論付けられています。

もちろん、医師側に問題がないわけではありません。長く続いた特権意識の下で、患者が医師を訴えるなどとんでもないと考え、医療訴訟に専門家として協力する医師を見つけるのが難しいかった時代もあります。

医療過誤の多くが見過ごされているとは言え、明らかに怠慢、無知、不注意による「殺したも同然」と言えるような医療過誤もあります。しかし、そのような医師が極めて稀なのは間違いありません。大部分の医師は献身的に職業人として良質な医療を提供するように努力しています。

医療が製造業と比べて品質改善の余地が大きいのは確かでしょう。薬品の種類や分量を間違えるという基本的な医療過誤でも、ビンの形状などでエラーを防止する対策がとられるようになったのは比較的最近のことです。

しかし、医療訴訟の多発が医療過誤の防止に役立っているかというとそうとも言えません。医療にまつわるトラブルの多くは内密に示談処理をされることが多く、エラー情報の共有が十分に行われていないのです。この点では医療訴訟自身が情報共有の妨げになっているとさえ言えます。

医療過誤による事故の大部分が訴訟にならないということも考えれば、全体として見れば医療訴訟が医療過誤の被害を受けた患者の救済にもなっていないというのも事実です。現在の医療訴訟の多発は、医療の品質向上の効果も小さく、診療科目による医師の偏在という大きな問題を引き起こしています。

何より問題は若く、社会的にも経験の浅い医師たちが、訴訟という大きな不安の下で医療行為をしなければいけないということです。日本は医師が医療過誤により刑事罰で逮捕されてしまうという珍しい国です。これでは訴訟や逮捕までの危険のある診療科目を希望しないことを利己主義と責めるのは酷というものでしょう。

もちろん、診療科目による医師の偏在はアメリカのように、科目ごとの専門医認定制度を医師団体自らが行うことで相当解消できます。医療訴訟なんか無くしてしまえと言う前に、まずはその努力をしなければいけないのかもしれません。

それでも、現在の日本のように医療訴訟の増加が医師側の負担を増やし、医師のいない診療科目を作るという現状は変える必要があります。医療は人間の肉体を扱う性質上、常に人命の危険を伴います。だからこそ、医師は慎重なうえにも慎重であるべきです。

しかし、医療行為に一般の業務上過失致死のような刑を、そのまま適用することは正当ではないでしょう。脳の手術などは1ミリの何分の一かの違いで患者を殺してしまうこともあり得ます。ミスが製品の不良になるだけの製造業とは違います。

きちんと正常な治療を行っていれば、全ての誤りが業務上過失に問われることはないという考えもあるでしょう。しかし、ミスで逮捕されるかもしれないという恐怖は大変なものです。医療訴訟は例外的かもしれませんが、手術中、治療中の死亡は医療では日常茶飯事です。

他の先進諸国では医療過誤は医師の責任を問うことなくスウェーデンのように患者の補償を行う患者保障法のような制度を持つところや、フランスのように第三者による仲裁手続き機関を作ることで、医師が訴訟により多大の精神的苦痛と負担を被らないように配慮が行われているところが多いのです。まして刑事罰での逮捕など、意図的な殺人でもない限り、極めて例外的な事情しか認めるべきではありません。

日本の場合具体的にどのような制度、手段が適当かは十分に検討が必要でしょう。しかし、肉親を失ったり、自分が大きな障害を負った、やり切れなさを医師が全て引き受けるような現状は正常とは思えません。反対する人は多いでしょう。しかし、医療過誤で医師個人を訴えること、特に刑事罰を与えることに制限を加えることは日本の医療の健全化のためには必要だということはもっと認識されるべきです。

残念ですが、政府、厚労省は医療訴訟が医師に過大な負担を強いているという問題に大きな関心を持っているように思えません。恐らく、厚労省の最大関心事である医療費抑制と医療訴訟は直接関係ないと考えているからでしょう。しかし、医療費が高騰するより、お金を払っても治してくれる医者がいない方がよほど深刻なのではないでしょうか。
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この記事に対するコメント
ありがとうございます。
 明快な文章で、加えて対策までご提示いただき、ありがとうございます。
 この関連でわたしが見聞し、注目したのは以下の2点です。わたしが誰であるか判らないようにする為に、ぼかして書きますが、ご容赦ください。

 医療訴訟で、まず被告が負けるとは予想されていなかった裁判にて、原告が勝訴し、話題になったことがありました。争点は2つで、
1.年に10%の確率で死に至るアクシデントが起きる疾患だったのですが、患者が、10年のタームで考えれば100%になると判断したのが、医師の説明不足のせいであるとされました。
2.病変部に至る過程で、静脈を結索する必要が生じたのですが、この処置について事前に患者への説明がありませんでした。障害が生じる可能性は低いとの医師の判断だったわけですが、結果として障害が生じ、事前に説明がなかった行為が原因になったことが問題にされました。

 1については日頃「日本の教育は失敗しているな」と感じる方々に対応しておりますので、いかにもありそうな話だと思います。こういうレベルの方を納得させるのは無理でしょう。我々としては罪に問われたくはありませんが、現実を知らない判事が有罪にする気持は分からないではありません。

 2についてはこれを有罪にするなら、かなりの手術が中止になり、結果として患者さんが不利になるのではと考えましたが、大学に残っている先輩と話した所では、有罪は致し方がない。既にわたしの出身医局では、積極的に中止するようにしたのだそうです。


 もう一点はアメリカで活躍する外科医の新聞投稿です。アメリカの勤務医の年収は、内科系が1500万円位、外科系は3500万円位だそうで、外科系の医師はこの高収入から、年間掛け金800万円位の医療過誤保険に加入しているのだそうです。
 日本では勤務医全体の平均が1500万円位です。開業医を含めても3500万円の収入を得ている方は一握りです。彼は今後アメリカのような訴訟社会に成るなら、外科系医師を高収入で支えなければ、成り手が無くなりますよと警告しているのですが、こんなことは絶対無理です。
 と言う訳で、ご提示なさったようなシステムを早期に構築する必要があります。
【2010/11/12 19:08】 URL | 桃栗 #- [ 編集]


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