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馬場正博: 元IT屋で元ビジネスコンサルタント。今は「A Thinker(?)]というより横丁のご隠居さん。大手外資系のコンピューター会社で大規模システムの信頼性設計、技術戦略の策定、未来技術予測などを行う。転じたITソリューションの会社ではコンサルティング業務を中心に活動。コンサルティングで関係した業種、業務は多種多様。規模は零細から超大企業まで。進化論、宇宙論、心理学、IT、経営、歴史、経済と何でも語ります。

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吉野家の決断 (2)
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時計の針を2004年の始めに戻してみましょう。2003年12月に米国農務省はBSEに感染した牛が発見されたと発表し、日本政府はそれを受け米国からの牛肉輸入を禁止する決定を行いました。吉野家の牛丼は100%米国産牛肉を使用しており、この時点で吉野家は牛丼の材料の仕入先の変更を行うか、牛丼の販売を中止するかの決断を下す必要に迫られました。

経営者が危機にあたって決断するときに、先ず必要なのはできるだけ正しい情報を収集することです。その意味で米国産牛肉の輸入禁止の原因となったBSEの問題の深さや広がりを検討することが求められたはずです。BSEは狂牛病ともよばれ、1986年にイギリスで発生が確認されました。その後人間に感染しクロイツェフェルト・ヤコブ病の原因になっている疑いが強いことが認められました。クロイツェフェルト・ヤコブ病は発病すると死亡率がほぼ100%であることと病状が極めて悲惨であること、さらに牛肉が非常に一般的な食物であることから、イギリスを中心に一種のパニックとなり、イギリスでは牛の大量処分、EU諸国の英国牛禁輸措置など深刻な事態が引き起こされました。さらに、日本では2001年にBSE牛の発生が確認され、焼肉屋などは大きな打撃を受けました。

吉野家がBSEにどのような評価を行っていたかは推察の域はでませんが、2004時点ではBSE問題はイギリス、ヨーロッパではかなり下火になってきており、沈静化に向かっていました。また、実際にBSEに感染しクロイツェフェルト・ヤコブ病を発病する確率は非常に低く、たとえば牛肉を食べて食中毒で死亡する危険性がはるかに高いことも知られていました。2001年の日本でのBSE騒動の収束は、日本政府による全頭検査、トレーサビリティーの確立によるものが大きかったにせよ、BSEが牛を食物の座から降ろすようなものではないという推測の妥当性を裏付けるものだったと思われます。そうは言っても、米国牛の輸入がいつ再開されるかは不確定な要素が多く、どのような対応を取るかは重大な経営判断でした。

このように重大な経営判断を行うとき、有効な方法としてシナリオプランニングという手法があります。シナリオプランニングというのは1960年代に開発され、石油業界で広く用いられた手法ですが、およそありえないと思われるような事態も含め影響を与えるファクターをできるだけ漏れなく、検討して長期計画を行う戦略策定のツールです。吉野家の直面した米国産輸入禁止では、先ず対応策として、

1. 牛丼の販売を米国産牛の在庫が枯渇した時点で休止する
2. 牛肉の代替供給先(例えばオーストラリア牛)に切り替える

の二つが考えられます。次に米国産牛禁輸措置が

(1) 早期に禁輸措置が解除される
(2) 禁輸措置が長期におよぶ

早期、長期がどの程度の長さかは財務能力や社員、店の維持の必要性や困難度合いなど、吉野家自身の耐久力にかかわってきますが、実際にはシナリオプランニングで影響度をシミュレーションしながら、期間を決めることが妥当でしょう。しかし、吉野家クループは2004年始めの時点で、自己資本比率が65%、流動負債の2倍の流動資産を持つなど、相当耐久力は高かったと推定されます。

さて、シナリオのケースは次の4つになります。

ケースA: 代替供給先に変更したが早期に禁輸措置は解かれる
ケースB: 牛丼販売を休止したが早期に禁輸措置は解かれる
ケースC: 代替供給先に変更し、禁輸措置は長期に及ぶ
ケースD: 牛丼販売を休止、禁輸措置は長期に及ぶ

上記のケースを考えるとき、代替供給先に変更することのコストを考える必要があります。この場合コストというのは単純な仕入れ価格だけでなく、調理法の変更のコスト、味の変化による消費者の離反が含まれます。この点吉野家は苦い経験がありました。現在の吉野家はかつての吉野家のブランドは継承しているものの、70年代に急速にチェーン店を拡大した吉野家とは経営主体は別物です。もともとの吉野家は1980年に会社更生法を申請して倒産したのですが、その原因としてタレを粉末に変更し、フリーズドライの輸入牛の使用などで味が劣化し、客離れを招いたことがあげられています。コカコーラが味を変更したものの消費者の反発に結局元のレシピに戻したように、吉野家の牛丼の味を変更することは大きなリスクを伴うと考えられたのです。もちろん、先述のように牛丼の販売休止は直接的に莫大なコストを伴います。2004年でどの程度予測できたかは不明ですが、売り上げ3割減、新メニュー開発のコスト、社員の整理など短期的、長期的に大きな犠牲が生じました。ただ、このようなコストはある意味企業の内部のものであり把握することが可能ですが、消費者の離反は数値的に捉えることは難しく危険なものであることは理解しなくてはいけません。

さて、ケースAはどうでしょう。骨折れ損のくたびれもうけの感もありますし、いったん代替供給先に変更すると相当量の在庫を持つことになり、味の変化による消費者離反、ブランドイメージの劣化というリスクが表面化するかもしれません。ケースBは明らかに一番良いケースで、これで済んでくれたら文句はないでしょう。ただし、この場合も短期間とはいえ、代替メニューの開発は店舗を閉めない限りの必要です。ケースCは、代替供給先確保という回避策は一定の効果をあげると考えられますが、味の変化による消費者の離反、松屋、すき家との差別化の縮小による一層の価格競争というリスクがあります。ケースDは我慢比べです。長期と言ってもどこまでの長期なら耐えられるのか、腹をくくっておく必要があります。

シナリオプランニングでは各ケースに対し、店舗、仕入れ、メニュー開発、マーケティングなど各部門の担当者が実際に起きるだろう事態の物語の「シナリオ」を書いていきます。ここでは、そのようなことをする情報も技術もありませんから、残念ながら結果論から吉野家のとった決断を評価することしかできません。結論として吉野家は代替供給先からの牛肉使用による、消費者の離反は長期的なリスクであるのに対し、売り上げの減少はある程度までは一時的なリスクであると判断したようです。しかし、本年いったん再開された米国牛肉の輸入が米国側のずさんな管理で危険部位が混入して、再び半年以上禁輸が続いたり、米国の高圧的な態度で日本の消費者の反感が強まったり、思いもかけない危機がさらに発生したのは事実です。このような事態もシナリオを精密に作り上げていけば想定ケースの中に含まれたかもしれませんが、リスクとして予測していればあるいは代替供給先の開発に2004年時点の決断が傾いていたかもしれません。しかし、企業の耐久力に確信が持てれば(本当の確信を持つことは難しいでしょうが)、その時点で再度戦略を組みなおすことにするという方法をとることもできます。これは行き当たりばったりというより、柔軟なスピード経営と表現したほうが良いでしょう。

このような決断にシナリオプランニングのような手法を用いても絶対はありません。ただし、最後は直感で判断を行うとしても最初から直感ではいけません。それは山勘です。ともあれ、犠牲は大きかったものの、吉野家はそれなりに得たものも多く、結果論からいえば今回の決断は成功だったと言えるでしょう。ただ、牛丼という単品販売による効率化追求が大きな危機を招いたのは事実です(マクドナルドもケンタッキーも似たようなものではあるのですが)。危機に際して適切な判断を行うのと同時に、危機の発生以前に対応策を準備しておくことはやはり必要なのでしょう。
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テーマ:意思決定 - ジャンル:政治・経済

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