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馬場正博: 元IT屋で元ビジネスコンサルタント。今は「A Thinker(?)]というより横丁のご隠居さん。大手外資系のコンピューター会社で大規模システムの信頼性設計、技術戦略の策定、未来技術予測などを行う。転じたITソリューションの会社ではコンサルティング業務を中心に活動。コンサルティングで関係した業種、業務は多種多様。規模は零細から超大企業まで。進化論、宇宙論、心理学、IT、経営、歴史、経済と何でも語ります。

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東京電力は破綻するしかないのか
Tepco.jpg

補償金は10兆円?

東電の株価がまた大きく下げました。今では300円を割り込み、3月11日の事故前の10分の1程度です。市場は東電は破綻すると予測しているのでしょう。東電の破綻はほとんどコンセンサスです。枝野官房長長官が銀行の債権放棄を口にして波紋を投げかけたのも、東電は破綻するに違いないという前提があったからです。

皆が東電の破綻を予測する根拠は もちろん原発事故の補償金です。事故はまだ収束しておらず、放射性汚染水の処理の不安も残っています。今後どれくらい補償金額が膨らむかを正確に予測することはできません。しかし、マスコミなどでは事故当初から10兆円に達する補償金額があたかも既成事実のように語られていました。

事故の影響が広範囲におよんでいることは間違いありません。避難を命令され自宅や生活手段そのものを放棄させられている人々、農産物の出荷停止、職場がなくなったことによる失業。さらに風評被害もあります。

それらの被害のどこまでを東電が補償金という形で賠償しなければいけないかは簡単には決まりません。風評被害で言えば、香港の日本料理店の売上ガタ落ちしたことや日本への外人観光客が大幅に減少したこともすべて原発事故が原因です。製造業も原発周辺にあった工場で生産されている部品が来なくなって、売り上げ減少さらに倒産といった事態も起きています。

しかし、賠償対象になるのは基本的に原発周辺で避難を余儀なくされている人々や、放射能汚染で出荷停止に追い込まれた農産物に限定されるでしょう。多数の訴訟が予想され、その対応だけでも容易なことではありませんが、裁判所での認定がそれを大きく超えるとは考えにくいことです。

2名の死者を出したJCOでの臨界事故では半径350メートルの範囲で150人が避難し、総額154億の補償金が支払われました。補償金10兆円説はこれを単純に半径20キロメートルからの8万人の避難者にあてはめたと思われます。

これは算定方法として粗雑過ぎます。この計算では避難者1名あたり補償金は1億円以上にもなりますが、避難生活がどんない困難を極めても、自動車や航空機事故での犠牲者に対するほどの補償金が発生することは考えられません。

県のGDPにあたる福島県の県民総所得は8兆円に達していません。農林漁業に限ると1,500億円です。もちろん被害は福島県や農業に限定されたものではありませんが、福島県全体の農産物がまるまる1年分出荷停止や廃棄処分になるわけでもありません。

少し多めに、避難された人への補償金が1人5百万円で10万人と考えて5千億円、農産物の被害が1千億円と考えても、補償金総額が1兆円に達するとはあまり思えません。今後放射能汚染水の処理や放射能汚染で住めなくなった地域の買い取り、校庭の土地の入れ替えなどを考えても最大1兆円程度の補償金額というのが概ね妥当ではないかと思います。

東電の財務状態

下の図は東電の貸借対照表です。貸借対照表は必ずしも財務の実態を正確には反映していませんが、ある程度の手がかりにはなります。これによると、東電の約13兆円の資産のうち純資産は20%以下の約2兆5千億円に過ぎません。
TepcoBS.jpg
東京電力のHPより(一部抜粋)


もし補償金の総額が1兆円で収まれば、いきなり債務超過にはなりません。ただし、福島の原発が廃炉になることで、資産の償却処分は必要です。貸借対照表では原発関係の資産は.約7千億円です。それと保管されている核燃料が帳簿上9千億円あります。それらの半分が償却対象になれば8千億円です。

ここまでくると純資産の合計7割にもなります。事実上すっからかんです。これは補償金を1兆円程度と世評より桁違いに小さく見た上のことですから、本当に10兆円もの請求書を突きつけられたら破綻しかないと思われるのは無理もありません。

ここでは、あまり現実的ではないと思われる10兆円の請求書の対策を考えるのはとりあえず置いておき、純資産がほとんどなくなる程度まで追い詰められたとしましょう。しかし、債務超過が企業破綻とは限りません。

企業が破産、破綻するのは資金がなくなった時です。代金を払わなければ誰も商品を納入してくれませんし、給料を払わなければ人は皆辞めてしまいます。逆に支払いさえきっちり行っていれば、企業は生き続けることができます。

東電とJALは違う

ここで2010年1月に会社更生法の申請、つまり破産してしまったJALと東電の違いを考えみます。JALは国際航空路線という非常に厳しい競争市場に身を置いていました。国際航空市場では競争のために航空券の安売りが常に仕掛けられています。しかも燃料費の値上がりでコストは上昇を続けています。JALのような元々半官半民でコスト意識の乏しい会社で利益の上がる態勢を作ることは至難の業でした。

JALもリストラの努力はしたのですが環境の変化は速く赤字が続きました。飛行機を飛ばせば飛ばすほど資金が流出していったのです。これでは資金が底を尽きそうだからと言っても誰も資金を貸そうとはしません。一度借金を棚上げにして一から出直すために破綻処理は不可避でした。

これに対し東電は競争市場にはいません。発送電分離で新規参入を活性化しようという話はあっても、取りあえず毎日の活動が赤字の連続ではありません。心配は停めた原発の電力を火力で補うために燃料費が急増していることですが、これは電気料金にそのまま上乗せすることが認められています。

つまり、東電は原発の処分や賠償問題を横に置けば、日々の事業で黒字を出すことは保障されているのです。これはJALとはまったく違う状況です。JALが破綻せざる得なかったようには破綻を運命づけられてはいません。

ただ東電も社債の返済や補償金の支払いなどで、日頃のキャッシュフロー以外に多額の資金の必要性は出てきます。この資金を誰も貸してくれなければ、やはり破綻せざるえません。しかし、この場合政府が債務保証をしてくれれば銀行も資金を貸し付けてくれます。

もっとも政権が代わって何の法的根拠もなく「銀行も借金の棒引きに応じるべきだ」などと官房長官が言いだすような国で政府の保証が本当に信頼に足るものかどうか、まったく不安がないわけではありません。日本が法治国家から人治国家にならないことを祈るしかありません。

財務問題というより政治問題

こうしてみると東電が破綻処理に進むかどうかは財務問題というより、政治問題だということがわかります。政治的に東電を維持しようと思えば、賠償金がたとえ10兆円になっても長い期間をかけて返済することは可能です。

逆に東電を血祭りに上げなければ国民世論が収まらないと思えば、とにかく一度破綻させてしまうかもしれません。債務超過にはならなくても、社債の借り換えができなくなれば破産するしかありません。

これは妥当なことなのでしょうか。「原子力損害賠償法」では「異常に巨大な天災地変又は社会的動乱によって生じたものであるときは」原子力事業者(今回の場合東電)の責任は追及しないとされています。さらに原子力事業者に責任がある場合は、1,200億円は損害保険で、それを超えるものは国が原子力事業者を援助するものとしています。

原子力事業には大きなリスクがあります。そのため、本来は政府の保障がなければ成り立ちにくい事業です。これは原発が政府の補助がなければ採算に合わないほどコストが高いという意味ではありません。自動車で大きな事故を起こす可能性は小さく、確率論で考えれば保険料の支払いが割に合わなくても自動車保険に加入することは妥当だということと同じです。

自動車事故では万一加害者になれば経済的に破滅してしまう可能性があります。そのようなリスクは負えないので確率論的には損でもほとんどの人は自動車保険に加入します。原発事故の被害は今回の事例でも判るように上限額さえ不明なほど巨額になる可能性があります。民間の損害保険会社が1,200億円に保険金支払いを限定しているのはそのためです。

同じことは原子力事業者にも言えます。もし国の後ろ盾がなければ原発事故で交通事故の加害者がそうであるように破綻してしまう可能性があります。このような事業は民間企業は本来参入すべきではありません。

それでも日本の電力会社が原子力事業を行うのは、それが国策であったからです。万一の場合の政府の支援があると暗黙の期待と了解があったと考えるのはむしろ自然なことです。

東電は世界最大の民間電力会社です。その東電でさえただ一回の事故で破綻の淵にたたされています。事故の経緯をみると東電経営者の無能ぶりは際立っているように思えます。しかし、経営者には適切な責任を取らせるとしても、国による支援という暗黙の了解を基に東電に与えられた高い格付けとそれを信じた社債購入者が事故の損害責任を取らされるのは公平なこととは思えません。

いずれにせよ東電の破綻は政治的な判断にかかっています。もし借入金に対し政府が債務保証をすれば東電は確実に生き残ることができます。その場合、巨額な賠償金や原発を停止することで急増する燃料費その他は全て電気代という形で利用者が最終的に負担することになるでしょう。

その代わりに東電をいったん破綻させ、補償金を国費で購うこともできます(補償金を踏み倒すのが普通の破綻処理ですが、それは政治的に不可能でしょう)。ツケを負うのは東電の利用者ではなく国民全部ということになります。

どちらも選べますが、株主責任の追及は仕方ないでしょう。むしろ現在のように一時の10分の1になった東電株の購入は政府支援で東電が起死回生の回復を遂げることを期待した投機と言えます。昔からの株主は不満でしょうが、上場廃止で大儲けの機会を奪うべきです。

「絶対安全神話」の呪縛

福島原発事故は原発の「絶対安全神話」を壊したと言われます。しかし、技術者、科学者は事故の確率を語ることはあっても「絶対安全」などとは「絶対」に言いません。原発反対派が「絶対安全と言えるのか」と詰め寄るのに対し、電力会社や政府が「絶対安全です」と答えてきたのです。

あまり感心したこととは言えませんが、相手の質問が無理なことを聞いているのですから、その場しのぎの答えを繰り返したことはあながち悪いことだったとは言えません。しかし、「絶対安全」という言葉は原発に責任を持つ経営陣の頭の中にしみ込んでしまったようです。

もし絶対安全と思わなければ、保険なしの自動車を運転するようなあやふやな賠償金処理の枠組みのままで多数の原発を建設、運営することはなかったはずです。事故時のマニュアルも作るだけでなく、住民も含め「消防訓練」を繰り返していたはずです。皆「絶対安全」を信じていたため十分な検証は行われなかったのです。

事故被害の巨額さを見ると、改めて原発全体に対する保険機構のようなものを政府が作るべきだということがわかります。50年に1度の事故で1兆円の賠償金なら保険金は1kW時あたり0.1円以下にしかなりません。10兆円でも1円にはなりません。原発のコスト競争力を根底から覆すようなものではありません。

原発自身や燃料棒も電力会社の資産にすべきではないでしょう。いつ資産からただの負債に転換するかわからない、巨額の資産を貸借対照表に載せているのは民間企業としては不健全です。国策のリース会社のようなものを作って、電力会社はそこから原発施設を借りるようにすべきです。

福島原発事故では死者どころか深刻な急性放射能障害の被害者は一人もでませんでした。チェルノブイリのように撒き散らされた放射性物質で多くの癌患者を発生させるようなこともないはずです。

しかし、東電は今や破綻寸前です。東電の犯した数々の失策はきちんと検証されるべきですし、絶対安全の建前のもと、津波や様々な懸念を十分に検討しなかった傲慢さも責められるべきでしょう。しかし、国策の下で原発を推進したことで一つの事故で世界最大の電力会社をあっさり破綻させるのは、過去の経緯を考えればあまりにも安易ではないでしょうか。
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この記事に対するコメント
賠償額
 賠償額についての見方は同感です。極論では、東電に法的責任はなく、道義的責任および今後福島原発を生かすとした場合の、将来的な投資としての意味合いになります。
 予想としては、支払可能額に納まれば実行され、超えた場合は破綻の上別会社を設立するか、現東電を原発処理および賠償の専門会社とし、新会社を設立し、法廷闘争に持ち込むと思います。
 この場合国が肩代わりすることになりますが、一挙の支払いは無理ですから、分割になり、超厳しい財政を背景に、やがてうやむやになると考えます。
【2011/06/08 19:32】 URL | 桃栗 #- [ 編集]

http://tu-ta.at.webry.info/
発電・送電の分離して、送電部門を公共性を維持しながら、より効率的な送電ができるスマートグリッドを導入、その売却資金を補償に当てるという選択肢はあると思います。また、一般家庭に向けても地域独占の廃止すれば、電気代が無条件に上昇することはないはず。

確かに国策でやらされたという点で同情の余地はありますが、昨日のNHKの番組によると、100kmを越えた地点でも被害が出ています。そして、周辺には今後、数十年からそれ以上、住めなくなる地域が発生します。東電といえども民間企業ですから、そこへ投資した人がリスクを負うのは当然ではないでしょうか?
【2011/07/04 05:04】 URL | tu-ta #8iCOsRG2 [ 編集]


賠償金額は除染費用だけで10兆単位、下手すると100兆単位になる。

家1軒除染するのに実験をおこなったがのべで100人。
数百万かかることがわかりました。
農地、山林の除染は並みたいていではありません。

福島がなければ首都圏及び国内の電気エネルギーは即座に逼迫します。
今時点でも東北電力の総使用量に匹敵する電力が福島から東電管内に送電されている
ことを知らないのですか?
福島県知事や福島の市町村が東電や電源開発の持っている
水利権をはじめとするさまざまな許可を取り消すと日本全体が
一気にエネルギー危機に陥る。今時点でも日本全体が福島の
電気エネルギーがないと日々の生活が成り立たない。

【2011/09/04 07:29】 URL | 匿名 #DIO6yA8E [ 編集]

ガンが増えない?
何が根拠なのか?ガンが増大するかもしれないのでは
【2011/10/05 09:08】 URL | ぽんきち(≧∇≦) #TY.N/4k. [ 編集]


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