無能とは何か

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人は自分のことを大概、他人より高く評価しがちだと言われています。一方、無能
な上司は無能な部下を優遇しがちであるとも言われています。アメリカのコーネル
大学の二人の心理学者が、この問題に科学的に取り組んで見ました。

「Unskilled and Unware of It: How Difficulties in Recognizing One’s Own
Incompetence Lead to Inflated Self-Assessments」: Justin Kruger, David
Dunning

2人はユーモアのセンス、論理力、文法などいくつかのケースを取り上げ、それぞれ
について初級者から上級者まで4段階に分けてテストを繰り返しました。その結果判
明したのは、予想通りとは言え、あまりにも明白な結果でした。それは、

1:初級者ほど自分の実力に対する評価誤差が大きく、かつ高く評価する傾向があ

2:初級者ほど他人の能力を評価するときの誤りが大きい

という二つの事実なのです。つまり、「無能」であるということは、単に何かを上
手に出来ないだけでなく、「無能であっても自分は結構できると評価」し、かつ
「他人の無能さ有能さは十分に認識できない」ということなのです。論文では厳密
なテストを行ってはいませんが一般論として、テニス、チェスなどでも初級者ほど
自分の能力を見誤りやすいことも述べられています。

さて、この結論を人事評価にまで広げてしまうのは異論もあるでしょう。人事評価
は文法力のような単一の能力だけを評価するのではなく、協調性や目的達成への執
念なども勘案されるからです。しかし、「名選手かならずしも名監督ならず」とい
う言葉の反面、「あんなバカにとやかく言われたくないよ」と思うことは誰にでも
あるでしょう。例えプログラミングのようなものでも、恐らくヘボプログラマーに
は名人プログラマーの本当の凄さは理解できないのです(バグが出ないとか、一晩
で仕上がったという結果ベースでは評価できるでしょうが)。

したがって、一般的には「上司は自分を高く評価してくれない!」というのは、そ
んな愚痴を言うこと自体が無能の証拠であるケースが多いのですが、世の中には少
なからず「自分の無能さに気づかないまま、誤った人事評価を繰り返す」上司が出
現する可能性はあるわけです。このような上司は自分が無能な上に無能な人間を昇
進される危険が高く、無能は拡大再生産されることになります。いわゆる「類は友
を呼ぶ」の無能人間版ということになります。しかも、無能な上司は自分自身を有
能な上司以上に過大評価する傾向があるわけですから、「お前はわかっとらん」と
喧嘩をしても、ただただ人間関係を悪くするだけの結果になってしまいます。

悲観的なことばかり書きましたが、どんな人間でも不得意な分野や不慣れなことは
あります。そんなとき、自信がないからといってチャレンジするのを尻込みするよ
うではいけませんが、知らない分野は「自分がどれほど理解していないかすら、正
しく把握できていない」という自覚を持って、事に当たることは必要でしょう。特
に人の上に立つときは「知らない分野の人間の評価は不正確にしかできない」とい
う心構えを持つことは、絶対に必要です。そんな心構えさえあれば、拙速な評価、
間違った評価をする前に、その分野のエキスパートの意見を聞くようなことも可能
になるはずです。

ソクラテスは不知の知「知らないということを知っている」ことの大切さを説いて
いますが、「知らないことは、実際に知らない以上に知っていると思いがちだ」と
いうことを認識するのは、大切なのですね。
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