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馬場正博: 元IT屋で元ビジネスコンサルタント。今は「A Thinker(?)]というより横丁のご隠居さん。大手外資系のコンピューター会社で大規模システムの信頼性設計、技術戦略の策定、未来技術予測などを行う。転じたITソリューションの会社ではコンサルティング業務を中心に活動。コンサルティングで関係した業種、業務は多種多様。規模は零細から超大企業まで。進化論、宇宙論、心理学、IT、経営、歴史、経済と何でも語ります。

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EVAはソニー凋落の元凶?
Sony.jpg

EVA(Economic Value Added:経済付加価値)はアメリカのコンサルティング会社スターン・スチュアート社が考案し、商標登録もしている財務指標です。EVAは
 (税引後利益)-(資本コスト)
と定義されるのですが、資本コストの定義が結構複雑です。株式会社の場合、資本はA.借入金とB.株主資本に分かれますが、まず借入金は平均借入利息をコストにします(これは簡単)。次に株主資本のコストですが、これは本来その会社が期待される株の収益率を使います。式で書くと、
 (株主資本コスト)= 国債利回+βx(期待株式市場利回-国債利回)
となります。見ているだけで嫌になるかもしれませんが、要は株はリスクのない投資(国債はそうだとみなします)より期待収益は高くあるべきだと考えるわけです。さらに同じ株でも、動きの荒いものと、そうでないものがあります。βは株式市場が1動いた時にどのくらい、その会社の株が動くかを示す係数です。成長産業は安定産業より株の値動きが激しいので、期待収益も高くなるはずというのが理屈です。これは株の値動きの激しさを株の投資価値に結びつけたオプション理論に遡るものなのですがそれは置いておいて、資本コストは借入金の利息と株主資本を加重平均したもの(A/(A+B) WACC Weighted Average Capital Costといいます)、つまり借入金と株主資本が半分づつなら両者の平均、片方が多ければそちらの方に近いものになります。

スタン・スチュアート社のホームページによるとEVAを使用すれば、利益、キャッシュフロー、現在価値など様々な財務指標で混乱している企業の評価基準を統一して、マネージメントの整合性のある評価と意思決定を可能にするとしています。この謳い文句をどこまで信用するかは別にして、ソニーは出井前CEOの時代からEVAを役員の評価基準に全面的に採用しました。EVAを使っている企業は、アメリカではGE、イーストマン・コダック、日本では松下電工、HOYA、花王なのがあります。

EVAはそれ自身は別に間違った指標ではないでしょう。資本にコストがあること、事業はコストに見合った収益を上げるべきだというは当然でしょう。企業ごとに異なるβというのは怪しげにも見えますが、事業によりリスクとリスクを考えた期待収益が異なるというも理屈に合っています。バブルのころ時価発行して得た資本のコストを配当金の利回り(つまり限りなく0に近い)と考え、さらにその金を鉄鋼会社が半導体事業に使うというようなことがありましたが、資本コストや異なったビジネスモデルに進出するときβも変わるのだということを理解していれば、もう少しまともな意思決定が行われたかもしれません。

とは言っても、EVAを一般の企業が業績評価の基準に全面的に採用するとなると問題が出てきます。まず、これはどんな評価基準を採用しても同じことになるのですが、人間はその評価基準に即して仕事を進めようとします。EVAはもともと株式市場で最適なポートフォリオを考えるために生み出されたオプション理論から出発していて、事業を売ったり、買ったりするには良いかも知れませんが、通常の事業遂行に適しているとも思えません。そもそもオプション理論はブラック・ショールズ式というノーベル経済学受賞につながった難解な数学が基礎にあり、普通の人が容易に理解できるものではありません。もちろん、マックスウェルの電磁方程式を知らなくても電波を使ってラジオを聴くことはできますが、βの意味をみんなで共有することは難しいはずです。

結局、EVAの値を業績目標に設定されると、MBA取得者か誰かの説明を聞かされ、「さて、これから何をしようかな」と考えることになります。日常業務とEVAが結びつかないまま、EVAの向上を目指すとどうなるか。資本コストはβだ何だと言われても、所詮個々の役員、従業員には変えようがありませんから(企業の買収、新規事業への進出を考えているときは別ですが)、税引後利益を増やすしかありません。そうすると従来型の、押し込み販売でも何でもしてとにかく今期の成績を良く見せるという古典的な利益、売上げ至上主義(これが悪いのではありません。見せ掛けを良くしようというのがいけないのです)に戻ってしまいます。

EVAの導入当時の出井氏の発言を見ると(http://www.toyokeizai.co.jp/sony/japanese_3.html)、PL経営(古典的な見せ掛けの利益を追求する意味で使っているようですが)はだめで、キャッシュフロー経営を目指すといった後で、さらに資本に対する収益という考えを徹底するためにEVAを採用すると言っています。EVAは少なくとも式の半分は古典的PLそのものですから、出井氏自身もしかしたらEVAをまったく理解していなかったのではと疑問に思えてきます。

かりにEVAを誤解していても、そのために経営を間違えるということはないでしょう。むしろ、問題は出井氏がEVAに言及した後で、本社は投資銀行的立場になると言っていることです。文脈的に考えても本社=出井氏だったのでしょうから、出井氏は事業ポートフォリオをソニーの資本の最適活用と言う観点で運用しようとしていたことになります。この意味では出井氏のEVAの理解はまったく正しいでしょう。しかし、ソニー本社が完全に投資銀行化して、実際の事業運営は各事業担当が個別に頑張るというのでは、ソニーはいったい何者になるのでしょうか。そこには、井深、盛田の両氏が創業した時の「不当なる儲け主義を排し、あくまで内容の充実、実質的な活動に重点を置き、いたずらに規模の拡大を追わず」「技術上の困難は、むしろ歓迎し、量の多少に関せず、もっとも社会的に利用頻度の高い高級技術製品を対象にする」という理念はどこにもありません。

EVAは、根本的な概念の難解さと、それゆえの実際の事業との乖離、さらに難解なEVAを活用するための専門スタッフの本社統治と、現場感覚の喪失など、全面的な評価基準への採用はソニーを急速に官僚主義に向かわせる推進力になってしまったのではないかと思われます。もちろん、EVA自身が悪いわけではありません。また、株主重視もそれだけで害毒を流すことはないはずです。問題はソニーの強さの根源を忘れ、投資銀行がうまく経営できるのなら、ソニーもうまく経営できるだろうと考えた経営陣にあります。事業にとって資本もまた、一つの資源(そして今や最重要ではない資源)に過ぎないのです。
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テーマ:経営 - ジャンル:政治・経済

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