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馬場正博: 元IT屋で元ビジネスコンサルタント。今は「A Thinker(?)]というより横丁のご隠居さん。大手外資系のコンピューター会社で大規模システムの信頼性設計、技術戦略の策定、未来技術予測などを行う。転じたITソリューションの会社ではコンサルティング業務を中心に活動。コンサルティングで関係した業種、業務は多種多様。規模は零細から超大企業まで。進化論、宇宙論、心理学、IT、経営、歴史、経済と何でも語ります。

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トヨタになれない郵政公社
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トヨタ生産方式を移植しようとしている郵政公社でトラブルが続いているという報道が朝日新聞でありました(http://www.asahi.com/business/update/1029/006.html)。 トヨタ方式を応用したJPS(Japan Post System)なるものを開発し、トヨタの経験者の協力を得ながら導入を進めているのですが、現場は混乱し、従業員は疲弊している。管理職は上辺でうまく言っているように取り繕っているが、実態は全然うまくいっていない。このままでは、年賀状の配達も心配だ。ということで、民営化による効率向上の切り札として期待されたトヨタ生産方式も散々ということなのですが、実態はどうなのでしょうか。残念ながら、郵便の現場に行って調査することはできないので、限られた情報と想像で物を言うしかないのですが、ちょっと考えると今回の郵政公社の試みは、失敗する要素を山盛り含んでいるということはできます。

トヨタの生産方式で特徴的なのは、まずカンバン方式です。カンバン方式では中央からの指令で現場が動くのではなく、カンバンの動きに合わせて自律的に生産活動が行われますが、車ならいざしらず、郵便物のような莫大な数をカンバンで制御することは物理的に不可能でしょう。そもそも、カンバンは並みの郵便封書より大きいのです。カンバンを使用するメリットは、不必要に各生産工程の現場で部品などの在庫を持たないことですが、郵便物の処理でそのような問題があるとは考えにくいので、その点でもカンバンのメリットはあまりないことになります。

それでもカンバンを使わなくても、生産現場の効率を向上させるテクニックは利用できるはずです。これはどうなのでしょうか。トヨタの生産方式の秘密はカンバンではなく、カンバンを利用することによって生産工程の無駄を明らかにすることにあります。能率の悪い現場にはカンバンが溜まりますし、過剰設備の部分はカンバンが来るまで遊休状態になることが目で見てはっきりわかるからです。無駄があると、トヨタはそれを「カイゼン」しようとします。Kanbanは今や英語になっていますが、Kaizenはそれ以上に有名です。カンバンではなく継続的なカイゼン活動こそトヨタ生産方式の真髄と言えるでしょう。

しかし、継続的なカイゼンを行うかどうかは、企業文化とも言えるものです。カイゼンを労働者も管理者も一体となって考え続けるというのがトヨタの強みです。しかし、トヨタにこの企業文化が定着した背景には、戦後の大労働争議を二度と繰り返さないという経営者の決意と労働組合との長い協力関係がありました。郵政公社にそのような経営と従業員の信頼関係はあるのでしょうか? 信頼関係を欠いたままで、カイゼンを行おうとすれば、当然表面的で形式的なものになってしまいます。

しかも、トヨタのカイゼンのやり方は、人間の動作分析を詳細に行ってもっとも無駄のない動きをするように基本動作のチューンアップを繰り返すというものです。これは、生産管理の創始者といわれるフレデリック・テイラーのしたことで一番労働者に嫌われていることと本質的にあまりかわりません。テイラーは生産性の分析のためにストップウォッチで労働者の動作を計測し、一つの作業に必要かつ最適な労働量を割り出そうとしました。基本的には正しく思えたテイラーのアプローチも資本家達が労働者から搾り取るだけ搾り取るために使用しようとしたことから、多くの問題を引き起こしました。今でもテイラーの方法の適用というとアメリカでは良い印象はもたれません。トヨタ生産方式の適用では、同じことが起きたのだろうと容易に想像できます。

さらに、新聞記事によるとトヨタから派遣された支援部隊は声高に非効率をなじったこともあったようです。どの程度のそのようなことがあったかはわかりませんが、トヨタが下請けや、部品供給業者に社員を派遣して生産効率を向上させる「手伝い」をするときには同じようなことがあるようです。それでも、下請けから見ればトヨタは殿様みたいなものですから、言うことを聞かせることは可能でしょう。しかし、郵政公社にとってトヨタは大会社であっても、生殺与奪の力があるほどの大ユーザーではないでしょう。仮にそうだとしても、郵政公社の従業員がトヨタ社員の言うことを殿様の言葉と思うことはないでしょう。

このように考えると、トヨタ生産方式を郵政公社に適用しようとしても、即効性のあるカンバンというツールは役に立たず、継続的カイゼンを行う文化的土壌はなく、カイゼン点は労働者の搾取と解釈される、という八方塞の状態ではないかと推察されます。それにしても、郵政公社がトヨタのまねをすればトヨタのような高収益企業になれると単純に考えたとすると、短絡的としか言いようがありません。また、トヨタも郵政公社の副総裁を始め沢山の社員を派遣していますが、自分たちのマネージメントシステムが何の前提もなく、活用できると考えていたとすると、将来環境が変わったときに大丈夫?と心配にもなってしまいます。ま、こんなことは郵政民営化に執着した某前首相は興味ないかもしれませんが。
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テーマ:進化論的組織論 - ジャンル:政治・経済

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