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馬場正博: 元IT屋で元ビジネスコンサルタント。今は「A Thinker(?)]というより横丁のご隠居さん。大手外資系のコンピューター会社で大規模システムの信頼性設計、技術戦略の策定、未来技術予測などを行う。転じたITソリューションの会社ではコンサルティング業務を中心に活動。コンサルティングで関係した業種、業務は多種多様。規模は零細から超大企業まで。進化論、宇宙論、心理学、IT、経営、歴史、経済と何でも語ります。

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代理母出産
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向井・高田夫妻は代理母出産の実子認定を求めている

今年10月、向井亜紀、高田延彦夫妻がアメリカで代理母出産でもうけた双子を、東京高裁が品川役所に実子としての受理命令を出したのに対し、品川区は最高裁に抗告手続きを申し立てました。結論は最高裁の判決を待つことになったわけです。(その後最高裁は代理母出産を認めないとの判断を下した

代理母出産とは他の女性に引き渡す目的で女性が妊娠出産することですが、向井・高田夫妻の場合は、夫妻の卵子、精子でできた受精卵を代理母の子宮に入れる方法で出産を行いました。この場合、遺伝的には実子と同等と考えられ、DNA検査でも実子と判定されます。代理母出産はこの他に代理母が卵子を依頼側が精子を提供する、古典的なやりかたなど、いくつかバリエーションがあります。

代理母出産に関しては、出産する貧しい女性の人権を無視しているとか、種々の批判があります。向井・高田夫妻に対しても「自分たちだけが正しいと思っているようで、傲慢だ」という考え方もあるようです。

一般にはアメリカでの代理母出産は受精卵を依頼側が提供する方法で7万ドルから10万ドル、古典的な精子だけを提供するやり方では4万ドルから7万ドルくらいと言われています。向井・高田夫妻の場合は渡米費用がありますし、弁護士その他の費用を考えれば2千万円あるいはそれ以上かかったのではと推定されます。確かに、貧しい人には難しい方法です。

もっとも代理母出産でなくても、不妊治療も手間と金がかかります。そうでなくても高度な医療のために大金がかかるケースは増えてきており、貧富の格差が医療格差になっているというのは代理母出産には限らない問題です。議論となるのは、倫理的側面と今回のような法的な問題です。

日本では代理母出産は日本産科婦人科学会が自主規制で行わないことを取り決めています(ですから、アメリカでということになるのですが)。ただ、これはあくまでも一学会の自主規制に過ぎず法律ではありません。諏訪マタニティークリニックの根津院長は熱心な代理母出産推進者で、先月に50代の女性が娘の代理母となって「孫」の出産を昨年行った代理母出産を実施したことを発表しました。

代理母出産は受精卵を別の女性の子宮にいれるという、現代でもかなり高度な医療技術を必要とし、100%成功するわけではありませんし、「人工的」なやり方で妊娠、出産を行うという点での倫理上の問題は無視できないのは事実です。アメリカでも代理出産の合法、非合法は州ごとに異なり、禁止されている州もあります。カナダやオーストラリアは有償の代理母は認めていません。また、カリフォルニア州などでは実子と認められています。

自分の子供を作りたい、自分の遺伝子を増やしたいというのは、人類、生物のもっとも根源的な欲望だとも言えます。このような欲望は他人の犠牲の上に達成されるのでなければ、社会は認めるべきだという考えもあるでしょう。議論は現段階では収束も決着もしていないのですが、「実子」として受理することを自動的に認めることは、倫理上以外の問題もあります。

代理母出産で受精卵が別の両親からのものである場合、現在の技術でも受精卵を凍結保存して別の女性に出産させることは可能です。

冷凍受精卵ではなく、冷凍精子を用いた出産(これ自身は日本でも認められている)では、2002年に父親の死亡した翌年、保存した冷凍精子を使って妊娠に成功し生まれた男の子を認知するように母親が求めた訴訟で、東京地裁は認めないとの判断を行いました。

このケースでは感情的には認めたい人も多いのではないかと思いますが、他に相続人がいるような場合は話が紛糾することは確実です。

山崎豊子の「女系家族」という小説では、亡くなった金持ちが生前に妊娠した愛人の「胎児の事前認知」を行うことで、愛人が遺産争いに勝つというストーリーを展開していますが、出産は死後でも、妊娠は生前で、かつ本人が認知を行っているわけですから、事情は大きく異なります。

理論的には冷凍精子を使って精子の持ち主の死後数十年後、その持ち主の子供を作ることも可能です。そのようにして生まれた子供は、相続人としての地位を主張できるでしょうか。

法律はそもそもそのようなことは想定していません。受精卵の場合も同じで、両親の意志と無関係に何十年もして「実子」が生まれてくる可能性は技術的に可能であっても法的には不安定なものです。

精子にしろ受精卵にしろ提供者が亡くなった後の妊娠出産は認めるべきではないのかもしれません。しかし、イラクに派遣される兵士の多くが、自分が精子を戦死したときのために冷凍保存しています。兵士が死んで妻が残した精子で妊娠、出産してもその子を亡夫の実子とは認めないというのでしょうか。

アメリカ同様イラクで戦死者を出しているイギリスでは、明確な父親の合意文書があれば、冷凍精子で死後子供をつくることは認められています。アメリカは代理母と同様に州ごとに異なるようですが、国レベルの意見の一致には至っていないようです。しかし、イラクでの戦死者の冷凍精子による妊娠を違法とするのは、大きな議論が起きるでしょう。
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戦争に出る兵士は冷凍精子を残すこともある


この議論に隣接した問題としてES幹細胞の取り扱いがあります。人間の細胞は全て遺伝情報としては同等のものを持っており、DNA情報としてはどの細胞を使っても人間のどの部分を作ることも可能です。しかし、背中から手が生えてこないのは、それぞれの細胞は特定の役割を割り当てられて、それ以外の形態になることを許されていないからです。

色々な形態になりうる可能性を持った細胞を幹細胞といいます。幹細胞は骨、心臓、肝臓、腎臓などにも存在するのですが、どのような形態にもなりうるという意味でもっとも万能性が高いのは受精卵が分裂を始めてできた胚盤胞から取り出した幹細胞、ES幹細胞(胚性幹細胞)です。

ES幹細胞は医学的にはパーキンソン病の治療など様々な応用分野が考えられていますが、アメリカは政府予算をES幹細胞の研究に投じてはいけないと決めています。この考えに共和党は賛成、民主党は反対という色分けが概ね出来ているのですが、前回の中間選挙でも大きな争点の一つになりました。

ES幹細胞の研究がいけないという根拠は、ES幹細胞が胎児の前段階にあると言えるからです。つまり、ES幹細胞を研究するというのは胎児を殺害していることになるというのが研究に反対する論拠です。

研究に賛成する理由は第一に、極めて大きな医学的効果が期待できるからです。パーキンソン病に罹ったマイケル・J・フォックスはパーキンソン病治療のためにES幹細胞の研究を認めて欲しいと議会で証言をしていますが、難病に苦しむ多くの人にES幹細胞は希望を与える可能性を持っているのです。また、受精卵で実際に子宮に着床するものは半分もなく、受精卵自身はいつも捨てられている精子や卵子と基本的に同等であるという理屈もあります。
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ES幹細胞

一般にはES幹細胞は、クローン技術で人間を複製したり、怪物を作り出す得体の知れない技術という印象を持たれているかもしれません。しかし、クローン技術でもメスの子宮にクローン細胞から作った胚盤胞を着床させなくては、クローンを作り出すことはできません。クローンでも子宮は必要で、これは代理母が必要なのと医学的には同じことです。

確かに、科学の進歩は早く予想もつかないような結果を招くことはあります。しかし、クローン技術(もちろん人間のクローンは世界中どこでもまともな科学者は行いません)でも子宮が必要なように、何でもできるというレベルからは(おそらくは)はるかに遠いところにあると思われます。

ES幹細胞やクローン技術が多くの謎や技術的限界に直面しているのに対し、代理母出産、冷凍精子による妊娠などは技術的にはほぼ確立したといってもよい段階です(代理母出産は失敗が多いのも確かですが)。倫理的、法的議論を行う場合、将来的な不確定要素が大きい、クローン技術、ES幹細胞とは別個に考えるべきでしょう。

私は、冷凍精子による妊娠の父親の認定などは、父親の公式な文書による意思表明の存在と死後一年までといった期間の制定が必要だと考えます。逆に言えば、現在の日本のように全く可能性を法的に閉ざすのは、行き過ぎではないかと思います。

代理母出産で生まれた子を養子ではなく、実子として取り扱うというのも、その延長で考えれば一定の条件の下で認めても良いのではと思います。日本の産科婦人科学会は一切のその可能性を否定しているわけですが、根津医師のような「掟破り」もいますし、毎年アメリカで100人程度の日本人が代理母出産を行っているという事実もあります。かれらは向井・高田夫妻のような衆人環視の中では代理母出産をしていないので、ほぼ全員実子として届けていると思われます。

代理母出産も冷凍精子での妊娠、さらに冷凍受精卵による代理母出産は倫理的な観点だけでなく、法体系全体を根本的に揺るがすものなので、感情的に安易に認めてよいものではないでしょう。しかし、難しいからといって、ここまで技術的に容易になり、かつ利用する人が出ている現実に目をつぶり、何の法的枠組み作りもせず「全て禁止」としているのは怠慢のそしりを免れないでしょう。

このような問題を「慎重に」考えることは当然必要です。また、法的な枠組みは先進的であるより、むしろ保守的であるべきでしょう。技術は進歩しますから、法律がやや遅れてついていくのはやむ得ません。しかし、今の産科婦人科学会の態度を見ていると、考えてはいるかもしれないが、結論はいつも先送りにしているだけではないかと感じられます。

向井亜紀の自信に満ちたしゃべりっぷりと、隣でうつむき加減の高田の記者会見を見ていると色々感情的な反発が世間にあるだろうというのは容易に想像がつきます。しかし、こんなことでもないと(あるいはこんなことがあっても)動かない、学会、政府はもう少し反省したもよいのではないでしょうか。 (最高裁の判断
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テーマ:進化論的組織論 - ジャンル:政治・経済

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