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馬場正博: 元IT屋で元ビジネスコンサルタント。今は「A Thinker(?)]というより横丁のご隠居さん。大手外資系のコンピューター会社で大規模システムの信頼性設計、技術戦略の策定、未来技術予測などを行う。転じたITソリューションの会社ではコンサルティング業務を中心に活動。コンサルティングで関係した業種、業務は多種多様。規模は零細から超大企業まで。進化論、宇宙論、心理学、IT、経営、歴史、経済と何でも語ります。

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日の丸コンピューターを再評価する (3)
TCM.jpg
高密度パッケージのTCMはFS技術の復活

1980年IBMは新世代のメインフレーム3081を発表します。3081は心臓部である高密度LSIを熱伝導モジュール(TCM:Thermal Conduction Module)という全く新しいパッケージに組み込みました。TCMこそ放棄されたFSプロジェクトの回路実装技術として、IBMが長年研究開発を続けていたものでした。3081はシステム370アーキテクチャーという衣はまとっていましたが、ハードウェア的にはFSそのものでした。FSはついに発表されたのです。

しかし、日本のメーカーのハードウェア製造技術はすでに十分に熟成し、3081の性能に匹敵するコンピューターを開発することは、十分に可能でした。それでもIBM互換機メーカーの富士通や日立にとって、3081は重大な脅威でした。IBMは互換機メーカーの互換性維持を困難にしようとしていたのです。

もともとシステム360、370アーキテクチャーは不完全な部分がありました。32ビットをベースにしながら、メモリーのアドレスは24ビットで指定していたのです。アドレスが24ビット表記ではメモリーの大きさは最大16メガバイトに制限されてしまいます。

システム360が発表された1964年には16メガバイトのメモリーは、ほとんど非現実的に巨大なものでした。ところが、年々メモリーの価格が低下するとともに16メガバイトの制限はシステムの性能向上の最大のネックになってきました。

基本的に32ビットベースのシステム360,370のアドレス方式を24ビットから32ビット(正確にはシステム370XAでは31ビットを使用した)に変更するのは、それほど困難なことではありません。しかし、具体的にどのように変更するかは互換機メーカーにとっては大問題でした。少しでも、変更方法が異なるとソフトウェアの互換性が失われてしまうからです。

さらに、370はメモリーアドレスだけでなく、別のネックもありました。入出力装置を接続するためのパスが16本しか許されず、大きな構成を組むのが難しくなってきたのです。入出力装置はメモリーアドレスよりずっと複雑なアーキテクチャー上のルールで接続されます。複雑なルールはマイクプログラムと呼ばれるハードウェアの一部に隠れています。

システム370のアーキテクチャーを富士通、日立は熟知していました。OSなど基幹ソフトウェアはソースコードを入手することができました。しかし、マイクロプログラムとなると、通常の方法では詳細な情報を入手することは困難でした。発表された3081のハードウェアを見ると、大幅な拡張が可能で、システム370のメモリーアドレス、入出力方式に収まるのは早晩困難になるのは明らかでした。IBMは3081でシステム370のアーキテクチャーを変更するに違いない。互換機メーカーは何らかの対応策が必要でした。

1982年6月22日、日本国民を驚愕させる事件が勃発します。日立製作所、三菱電機の合計6人の社員がIBMの機密情報を盗もうとした、産業スパイ容疑でアメリカでFBIに逮捕されたのです。いわゆる「IBM産業スパイ事件」です。

逮捕劇の前年、IBMは3081の機能拡張として、370XA(eXtended Architecture:拡張アーキテクチャー)を発表しました。XAはメモリーアドレスを24ビットから31ビットに拡張し、入出力機構も一新しました。XAを稼動するにはOSを従来のMVSからMVS/XAに移行することが必要ですが、IBMの大手顧客がMVS/XAを導入するのは時間の問題です。

アメリカ市場でIBMのOSを稼動させる互換機ビジネスを展開し、大きな利益をあげていた日立にとって、XAを稼動させるための詳細なアーキテクチャーの情報は喉から出るほど欲しいものでした。また、三菱電機はその数年前にIBM互換機ビジネスに進出することを決めており、やはりXAの情報を必要としていました。

日立は従来からIBMの内部情報を様々なルートで収集していました。しかし、その中でXAに関する情報の収集に、問題がありました。IBM研究所内部から違法に取得したものがあったのです。ただ、その情報は不完全でした。「アディロンダック・ワークブック」と呼ばれたXAの情報は、アーキテクチャーよりさらに詳細な、3081機に実装する方法論を記載したものでしたが、数冊のうち一部が欠落していたのです。

日立が欠番を探しているという情報をキャッチしたIBMはFBIに通報します。そしてFBIは手の込んだ囮捜査をしかけます。日立の担当エンジニア、さらに上層幹部に欠落情報の購入を持ちかけ、取引の模様をビデオで撮影したのです。

FBI.jpg
FBIは囮捜査を日立に仕掛けた(写真はFBI本部)

逮捕された社員は渡米して取引にあたったエンジニアでしたが、日立はコンピューター開発の総責任者の神奈川工場長、さらに本体の社長まで逮捕状が出されるという事態にいたります。

ここまではセンセーショナルですが、ただの経済事犯です。経緯を考えれば、囮捜査以前の情報取得に違法な部分が含まれたのは、必ずしも意図的とは言えません。違法性、合法性を意識せず情報屋からビジネスの一部として、情報を買っただけと考えられたからです。囮捜査もその延長にあったわけですから、日立に同情すべき点は十分ありました。

しかし、日本での反応は同情をはるかに超えるものでした。「囮捜査は日本のコンピュータメーカーの進出を恐れた政商IBMが、米政府を動かしFBIと組んで行った陰謀劇だ」と言う見方がマスコミを中心に支配的になります。日立は真っ白なのに、無理やり有罪に仕立て上げられたというのです。

日本IBM の本社は連日右翼の街宣車が不当逮捕を糾弾し、大手顧客はIBMの不当行為を日本IBMの営業マンに抗議しました。日本IBM社員の子供が学校でいじめられるようなことまで起き、日本IBMは日本で企業市民としての立場を云々されるまでになります。

日本のような情報が開放され、教育程度も高い国で、なぜ事実を歪曲してここまで感情的な反発が起きたのは不思議な気もしますが、80年代はアメリカと日本が経済での摩擦が沸騰状態に達した時代でした。その後、デトロイトで自動車労働者が日本車をハンマーで壊したり、東芝機械が潜水艦建造用の工作機をソ連に不正輸出したとして、東芝製のラジカセが叩き割られたりという事件がアメリカで起きます。その時のアメリカの反応は、IBM産業スパイ事件に対する日本の反発をはるかにを上回るものでした。

日立も法的には不利な状況と判断したのでしょう。翌1983年検察側との司法取引で日立は有罪を認め、同時にIBMが提訴した損害賠償訴訟で日立とIBMは和解を行います。 和解条件は日立の最新鋭機の検査をIBMが日立の費用負担で行うというものでした。

IBM産業スパイ事件は基本的にアメリカを中心とした海外市場で、日立がIBM互換機を販売するために必要とする情報収集の過程で生じたものでした。稼動するOSはあくまでもIBM製で、必要な情報はハードウェアに限定されていました。

しかし、日本国内では日立も富士通もIBM互換(厳密には国内では独自仕様が加わっており、海外市場のIBM完全互換機とは異なっている)機の上で自社の「IBM互換」のOSを稼動させていました。これはIBM産業スパイ事件がハードウェアの話であるのに対し、ソフトウェアの話です。

IBMにとってはハードウェアの決着がついても、ソフトウェアは別でした。そして、今度は日立だけでなく富士通もターゲットになりました。5年以上にもおよぶソフトウェアの著作権紛争が始まったのです。(http://realwave.blog70.fc2.com/blog-entry-75.htmlこの項続く)

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