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馬場正博: 元IT屋で元ビジネスコンサルタント。今は「A Thinker(?)]というより横丁のご隠居さん。大手外資系のコンピューター会社で大規模システムの信頼性設計、技術戦略の策定、未来技術予測などを行う。転じたITソリューションの会社ではコンサルティング業務を中心に活動。コンサルティングで関係した業種、業務は多種多様。規模は零細から超大企業まで。進化論、宇宙論、心理学、IT、経営、歴史、経済と何でも語ります。

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日の丸コンピューターを再評価する (7)
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電電公社は日本のコンピューター産業育成に貢献した

日の丸コンピューター、つまり日本のIT産業の力は世界での位置はどの辺になるのでしょうか。1970年代後半から1980年代にかけて、メインフレーム中心の世界では、すくなくともハードウェアはトップランナーのグループでした。というより、大型のメインフレームを作っていたメーカーはIBM以外では実質的に世界でも日本のメーカーに限定されていました。

日本メーカーのハードウェアの強さの源泉は、ベースになる電子産業の力と有形無形の政府の支援、そして現在のNTT、当時の電電公社の研究開発能力でした。電電公社はDIPSという独自のメインフレームを開発し富士通、日立、NECに製造させていました。DIPSはハードウェア的には各社のメインフレームの製品系列と共通の設計に基づいており、国産メインフレームメーカーは電電公社の技術力を活用することができました。

電電公社の開発技術と国産メーカーの生産技術が互いに補完するというのは、電話交換機の製造で確立されたいわゆる「電電ファミリー」の構造を踏襲するものでした。メインフレーム全盛の頃は、先端技術を少量生産で実現するという交換機の開発手段とコンピューターメーカーの技術的方向性とはうまく適合して、日本メーカーはIBMを凌駕するような製品を生み出すことができました。

ところが、ダウンサイジングの時代に入り、コンピューターの心臓部がマイクロプロセッサーという大量生産の製品になると、従来のスキームはうまく働かなくなってきました。さらに電電公社が民営化されNTTとなって、メーカーの開発を肩代わりするようなことは次第に難しくなってきました。日本のコンピューターメーカーは強みの大きな部分を失ってしまったのです。

もともと日本政府のコンピューター政策は基本的にメーカーへの資金提供を行うことでした。1970年代前半のIBMシステム370対抗機の開発では、富士通、日立、NECを中心にした3グループに資金が直接提供されました。

IBMのFS対抗機開発のための超LSI研究協同組合、第5世代コンピュータプロジェクトでは、各メーカーに直接資金提供を行うことはなかったものの、共同研究グループに出向した研究者の費用、研究成果の利用などを通じ、主要コンピューターメーカーへの支援が実質的に行われました。

IBMのコンピューターというはっきりとした目標があったときは、資金は一番貴重で有効な資源でした。どのような機能のコンピューターをどのくらいの性能と価格で開発すればよいか、全ては明確でした。資金さえあれば開発は可能でした。

1970年代後半のFS対抗機開発から次第に日本政府の支援策は焦点を失っていきます。 IBMがFSをシステム370後継機としては放棄してしまったために、支援策はLSI(高密度IC)の開発、それもメモリーチップという、微細加工技術の改良に集中するという本質とははずれた方向に向かっていきます。
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第5世代コンピューターの成果(?)PIM機

さらに1980年代にはいって立ち上げられた第5世代コンピューター研究プロジェクトは、人工知能の実現という現在でもはるかな夢にしか過ぎない目標を掲げました。資金を投入すれば何とかなるという代物では全くなく、出来上がったものはただのガラクタでした。

明確な目標がない資金投入型の国策プロジェクトはうまくいかないということの学習は十分なされたはずなのに、通産省は1980年代後半には「ソフトウェア技術者の不足を解決する生産性の向上」を目的にΣプロジェクトを立ち上げ、250億円あまりを費やします。

Σプロジェクトはソフトウェアの生産性の向上を目標としながら、なぜかΣOS、Σコンピューターのようなものを作ろうとし、UNIXベースのツールをこまごま作った挙句、90年代のUNIXの国際標準化の流れに埋もれて消え去っていきます。

日本の戦後の産業政策の基本は民間企業が外国企業の研究をし、外国企業に追いつき追い越すための資金を国が提供するというものです。外国企業が明確で具体的な目標を設定している場合、このような政策は機能しますが、本当に先端的な研究プロジェクトにはこの手法は使えません。

コンピューターの世界を支配しているのは「収益逓増」モデルです。製品の価値や競争力はシェアの拡大とともに加速度的に増大し、実質的標準を確立した1社だけが覇権を獲得し、大きな利益を得ます。どの製品が勝ち残るかは、性能だけでなく偶然や運が作用し、予測は困難です。このような場合、沢山のビジネスモデルを試行するシリコンバレー型のやり方の方が、決め打ちで一点突破を図るナショナルプロジェクトよりはるかに適しています。

日本では国家プロジェクトとして2007年から2010年にかけてGoogle対抗のサーチエンジンを開発するプロジェクトを立ち上げますが、恐らく失敗するでしょう。Googleが強いからというわけではありません。Googleが創られたとき、Yahooで検索エンジンはお終いだと多くの人は思っていましたが、Googleはサイト間のリンク数を調べるというやり方で検索エンジンの新しい可能性を実現しました。同じように、アイデアと技術があれば、Googleの覇権を覆すことは可能でしょう。

問題は、出発点になるアイデア、理論をプロジェクトの中で見つけようとしていることです。GoogleがアイデアでYahooを出し抜いたように、何か具体的なアイデアと実現技術はあるのでしょうか。

実はITの世界でアイデア自身はそれほど創り出すのは難しくありません。考え出されたものを実際に作成するのも仕様が明確ならむずかしくありません。問題は無数のアイデアから技術的可能性、市場の要求、将来の拡張性などのバランスをとるアーキテクチャーの設計ができるかどうかです。未来を見据えて、現実的なアーキテクチャーを設計できる人材がなければ、アイデアもただの絵に描いた餅に過ぎません。

アメリカ計算機学会(ACM)は毎年4月に10万ドルの賞金とともに、コンピューター科学に貢献のあった人に賞を与えます。コンピューターのノーベル賞と言われるチューリング賞です。
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「インターネットの父」と呼ばれるサーフは2004年度のチューリング賞受賞者

チューリング賞の受賞者には、UNIXを作ったケン・トンプソン、RDBを考え出したエドガー・コッド、インターネットの基礎技術であるTCP/IPを設計したヴィントン・サーフなど、ITの発展に重要な足跡を残した人々の名前が並んでいます。しかし1966年のチューリング賞の発足以来、日本人の受賞者は一人もいません。

もちろん、チューリング賞もITの発展に功績のあった人をもれなく表彰しているわけではありません。たとえば、PCについてはアップルのスティーブ・ジョブズをはじめ、Windows、ペンティアムなどもっとも重要な製品の発明者は受賞していません。

とは言っても日本がITの発展に基本的な部分での貢献度が低いという事実は認めざる得ないでしょう。収益逓増モデルが支配するコンピューター産業では、いったん確立された覇権を持つ企業や技術に打ち勝つには革新性が必要です。チューリング賞を絶対視する必要はありませんが、後追いではリーダーシップを獲得するのは困難です。

日本のIT産業の基本的な問題として、依然として統合型企業である富士通、日立、NEを主導としてIT産業が築き上げられているということがあります。これは自社の独自規格で完結したシステム、ソリュージョンを作る傾向が強いということです。しかし、グローバル企業を目指すなら統合型企業ではなく、水平分業のもとで競争力のある分野を確立しなければなりません。

長く続いた政府の支援は、世界的基準で見れば捨て去るべき分野や企業を温存させ、なおかつ独自規格を残した結果、特にソフトウェアのグローバルな展開を難しくしてしまったといえます。ドイツはOSでは強力なメーカーはありませんが、どのOSでも稼動するERP(統合業務パッケージ)を開発したSAPはこの分野ではトップベンダーです。
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ドイツのSAPはERPでリーダーになった(写真はSAP本社)

サービスの分野でも、日本は問題を抱えています。主要ITベンダーを頂点とした下請けの階層構造に業界が組織立てられていて、グローバルに通用する独自の技術力を持った企業が育っていないのです。サービスビジネスのグローバルな展開という意味では、今やインドが日本のはるか先を走っています。

全体としてみると日本のIT業界はマイクロプロセッサーやOSのレベルだけでなく、業務ソフト、サービス、どの分野をとっても世界に通用するものはほとんどありません。もちろん電子部品のレベルでは、日本の製造業は強力ですが、統合メーカーとしてのコンピューター企業は携帯電話同様、日本という狭いローカル市場に閉じこもったニッチプレーヤーです。

現状を打開するために、簡単な方法はありません。まずすべきは、独自規格の生き残りを許す政府の支援策をとりやめることです。次にSAPがERPで成功したように、様々な分野に挑戦する企業を増やすような、環境を整えることです。日本独自の規格に政府が固執することは、そのような企業の可能性をむしろ狭めるほうに作用してしまいます。

教育も問題かもしれません。旧七帝大のうち6つに農学部があるのに、情報学部が一つもないというのはいかがなものでしょうか。 産業界がコンピューター科学の修得者を特に必要としていないという現状も健全とはいえません。誰がIT産業を3K職場にしてしまったか反省すべきでしょう。

日の丸コンピューターは事実上もはや存在しません。あったとしても、世界的水準で考えれば二流でしかありません。 そして、グローバル化したIT産業では二流は極論すれば存在意義がないのです。

しかし、日本には経済大国として分厚い顧客層と高いIT技術への強い需要があります。「今が最後のチャンス」などと言って、またも税金をIT産業振興に注ぎ込むより、長い目で見た投資環境、教育などの社会的インフラの強化努めるべきでしょう。創造力とチャレンジ精神に、IT産業は無限の可能性を開いているのです(あとがき)。

日の丸コンピューターを再評価する(7)
日の丸コンピューターを再評価する(6)
日の丸コンピューターを再評価する(5)
日の丸コンピューターを再評価する(4)
日の丸コンピューターを再評価する(3)
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日の丸コンピューターを再評価する(1)

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